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「ああ。もう女遊びは一切してねぇ。俺も四月が来たら三十五になるし。ただ、その女…………バツイチなんだよな……」
豪に釣られて、純も声音を低くさせる。
「バツイチ? 好きだったら関係なくね? それに今のご時世、バツイチの女は意外と多いかもしんねぇじゃん」
豪の声が急に大きくなり、純は慌てて口元に人差し指を立てた。
「バッ……バカ! 高村さんに聞こえちまうだろっ!」
「あれ、豪さんと谷岡さん、何コソコソとお話してるんですかぁ?」
片付けを終えた奈美が、トレイにお茶と和菓子を乗せて運んできた。
それぞれの席に温かいお茶と和菓子を置くと、奈美は腰を下ろし、ダイニングテーブルに両肘を突いて手を組む。
アーモンドアイを細めながら、純に眼差しを這わせている様子は、彼が恵菜の事を好きだっていうのが確実にバレているようだ。
「コイツ、好きな女がいるらしいんだけど、どうやってモーションを掛けていいのか、分かんねぇんだってさ。一度、二人でメシを食いに行ってるらしいんだけど、それっきりなんだと」
「えっ? 谷岡さん、昼休みに毎日カフェに行ってるのに、恵菜とは進展ナシな──」
「ああぁぁあぁ〜っ!! 高村さんダメダメダメッ!!」
奈美の口から恵菜の名前が飛び出して焦った純は、大きな声を出して言葉を遮り、場を濁そうとしている。
「え……? 純の好きな女って…………奈美の親友の相沢さんだったのか?」
「うわぁ…………マジ……かよ……」
考えもしなかった人物からも恵菜の名前がポロリと零れ、純はギョッとした後、首を垂れてシュンッとした。
親友の妻の親友、という、紛らわしい関係ではあるが、奈美の親友だからこそ、豪には正体を明かさずに話をしたかったのに。
(マジでこの夫婦にはヤラれた……)
だが純は、はたと気付くと、目線を僅かに上げ、湯呑みに向ける。
何で、豪が相沢恵菜の事を知っているのか?
純は勢い良く顔を上げると、彼に胡乱な視線を突いた。