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僕には好きな人がいる。その人は僕より2歳年上で美人であり、高卒の僕とは違い都内の有名大学を出て一流企業に勤めている頭の良い人だ。彼女との出会いは僕が仕事終わりに通っているバーだった。カウンター席に座っていた僕の隣に彼女がたまたま座り、彼女の不思議な魅力を感じた僕は話しかけ、連絡先を交換した。その後も彼女と何回かバーで飲んだ後、デートを二回して現在三回目のデート中。よく世間では三回目のデートで付き合うことができなければその関係が終わると言われる。だから今日僕は彼女にプロポーズしようと決めているのだ。
デートは順調に進み、今日のデートの最後に行く場所としていた東京スカイツリーの展望台にきた。僕はここでプロポーズしようと考え、安物であるがアクセサリーを準備した。本当は高級なものを準備したかったが、僕の収入ではこれが限界だった。彼女はスカイツリーから見える夜景をうっとりとした目で見ている。プロポーズするなら今だと感じた僕はカバンからアクセサリーを取り出して彼女に差し出した。
「僕と付き合ってください!」
僕は緊張しつつプロポーズをした。すると彼女はアクセサリーを手に取りこう言った。
「このアクセサリーは私に必要なものじゃないわ。」
ダメだったか。やっぱり彼女にあげるには安物すぎた。そう思っている僕に彼女は申し訳なさそうに笑いながらこう続ける。
「別にこのアクセサリーが駄目なわけじゃないよ。ただ今の私には必要なものではないからプロポーズを了承することはできないかな。」
ポカンとしている僕をよそに彼女はこう続けた。
「私ね、付き合うなら私自身を理解し尽くしている人にすると決めているの。そのために、その人が私にくれるプレゼントで判断してきた。その人が私のために用意してくれたものを見たら私への理解度がわかるじゃない?だから君が本当に私が欲しているもの、喜べるものを用意してくれたらプロポーズを受けるわ。」
そう言われてしまった僕はしばらくの間どうすればいいか分からず立ち尽くしていた。プロポーズは失敗した。だがまだチャンスをくれていると言うことは彼女は僕に少しでも好意があると言うことだろうか。彼女はデートの別れ際、僕にこう言った。
「次は私が喜ぶようなプレゼントを用意してきてね。期待してるよ!」
その日から僕は彼女のことを調べ始めた。彼女が言っていた通り、僕には彼女を理解しようとする気持ちが足りてなかったと思ったからである。それに彼女が必要だと感じるプレゼントを用意するためにも彼女を深く調べる必要があった。僕は彼女の生い立ちを調べるため、たまたま彼女と同じ会社に勤めていた仲の良い中学時代の男友達と連絡をとり、彼女について調べることにした。(彼女に直接聞いても良かったがあの出来事の後じゃ恥ずかしかった。)
彼は彼女についてしっかりと調べてくれたらしく、僕の家に同級生を呼び彼女の素性を聞くことになった。
「こんなことさせちゃってごめんね。結構大変だったでしょ。」
僕が彼にこう聞くと、
「俺もお前らの恋の行方が気になったからな。このぐらい手伝わせてもらいたいよ。」
と彼は笑いながら言った。しかし彼はこう続けた。
「とは言ったけどな。お前、あの子はやめといたほうがいいかもよ。」
顔をしかめる僕を見つつ、彼女の情報を喋り出した。
彼女はいわゆる上級国民の娘だそうで、親からはかなり甘やかされて育てられてきたらしい。小中高と有名なお嬢様学校を卒業し、大学は誰もが知るN大学。しかし噂によればN大学には親の金で不正に入ったのではないかと言うことである。そして今の僕にとっての一番の情報はこのようなものだった。
「彼女、産まれつき精神的な病を患ってるみたいで。なんでも「喜び」の感情が欠落しているみたいなんだ。だから職場でも笑うときどこか感情が入ってないんだよね。」
僕が彼女から感じていた不思議な魅力とはこれだったのか。しかしなにをしても喜べないのであれば無理じゃないか。友達がこう続ける。
「あの子は闇が深いよ。それに多分お前振られたんじゃない?だってどんなプレゼントを貰ったところで喜ぶことができないって分かってるんだから。」
僕が思ったことを代弁された気がしたが、でも僕は諦めきれず、
「でも逆に言えば彼女を喜ばすことができれば、必ず彼女は僕に振り向いてくれるだろう。絶対に喜ばせて見せるよ。見ていてくれ。」
僕がこう言うと友達は「分かった。見守っとく。」と言った。
~数ヶ月後~
あれから数回デートを重ねた。が、プレゼントはまだ何も渡していない。しかしデートを重ねるごとに彼女と仲良くなってきている感覚があった。そして今日、プレゼントをあげる予定である。僕はこのプレゼントに全てをかけていた。逆にこれでも受け入れられないのであれば諦めがつくほどである。今日は彼女の家で飲むことになっていた。僕が買える一番高いワインを用意し、彼女の家に行った。これまで何度か来たことがあるが、金持ちの娘とあってかなり豪華な家である。ここに今彼女は一人で住んでいるらしい。きっといつも寂しいだろう。
彼女はワインを飲み、ほろ酔い気分になっている。僕は彼女にこう語りかけた。
「今日僕はプレゼントを用意している。喜んでくれるかな?」
僕がこう言うと彼女は不思議そうにこう言った。
「プレゼントってこのワイン?ではないよね。美味しかったけど。他には何も持ってきてないじゃない。」
僕はこう続けた。
「プレゼントはこの僕だよ。これから何があっても僕は君のために尽くす。それが僕が君に渡せる1番のプレゼントだよ。」
僕がこう言うと彼女はこう言った。
「私ね。昔から「喜び」の感情が欠落していてね。そのせいで周りから気味悪がられてずっとひとりぼっちだった。ずっと一人で頑張って、笑顔を作ってみても無理があって。一生ひとりぼっちなんだろうなって。」
彼女は僕を見つめてこう言った。
「さっきの君の言葉、本心なの?本当に私のために尽くしてくる?」
僕はこう返す。
「あぁ、必ず君を喜ばせて見せるよ。」
こう言うと彼女は僕に抱きついた。
「合格よ。ありがとう。」
~数日後~
僕は今彼女の家にいる。もうすぐ彼女が帰ってくる時間だ。ガチャっと鍵が開く音がした。帰ってきたようである。
「ただいま!今日会社で君の友達から君とずっと連絡が取れないって言ってたから、携帯壊れたらしいよって言っておいたよ。」
彼女は日に日に明るくなっている。僕のおかげだろう。僕は彼女が喜ぶ夜ご飯を用意して待っていた。一緒に夕食を取った後、僕は彼女の部屋に入り彼女を喜ばせた。済んだあとは明日の朝食の準備を3時間かけて行う。
あの日から僕は外に出ていない。文字通り彼女に尽くす生活をしている。ただの彼女の奴隷ではないかだって?いいんだよこれで。彼女に必要なものは愛ではなく、自分のために生きている人。つまりは僕の存在なのだから。彼女は一生ひとりぼっちにはならないし、家に帰れば僕のおかげで喜ぶことができる。彼女に恋した僕にとっても、じつに「喜」ばしいことじゃないか。