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「っ…っ……っ! ああもう! これで13回目! なんなんだよ! インヒール!」
私は愚痴を吐きながら、崩落の魔法の呪文を叫んだ。
さて、お父様に魔王の代役を頼まれてから、早2週間。
私はその膨大な時間を、人間の群れを退けるのに使っていた。
…13回。それは、代役を頼まれて以降、人間が城に侵入してきた回数だ。
私以外の魔族が処理した回数を含めれば、多分総数は20をゆうに超えると思う。
しかも、どれも勇者ではない。全身に甲冑を纏った、見るからに騎士。と言いたげな人間ばかりだ。
せめて勇者を連れてこい。勇者を。あいつの顔面をべこべこに凹ましてやらないと気が済まない。
…まあ、人間側の気持ちは分からんでもない。
なぜなら人類が持っている唯一のアドバンテージは、数なのだから。
私たち魔族は長命種ばかりだけど、いかんせん数が少ないのだ。
理由は明白。年の取り方が人間とは全然違うから。
人間だと、20歳近くで成人だが、魔族で言う20歳は、まだまだ赤ん坊だ。
分かるだろうか? 人間が生殖をしたいと考える年齢の時、魔族はまだまだ赤ちゃん。魔族が生殖したいと考えるころは、大体80歳オーバー。しかもその頃には、ほとんど性欲は残っていないと来たものだ。
…まあこんな長ったるい説明をしたところで、結局行きつくのは、人間はいっぱいいる。ということ。
だから、大して意味のない特攻を20回以上繰り返しているわけだ。
「…それがいいってわけじゃないけどな! レハブ!」
炎の呪文を唱えながら、剣を振って相手の防具をはたき落とす。
ついでに剣と弓を壊して、魔力切れにさせた後に、適当に風魔法で追っ払って終了。
文面で言うには簡単すぎるけれど、実際にやるってなると難しい。
なんせ、一人の相手をしている間、そのほかの騎士からの攻撃を避け続けなきゃいけないんだもの。
「ザラ・アサファ。…これで28人! ハイ終わり!」
襲撃から大体30分くらいで、人間を全員送り返すことに成功したらしい。もう入ってくる人間はいなくなっていた。
でも、この戦い方だっていつまで続けられるか分かんないよなあ…殺してないわけだから、人間の数は減らないわけだし…。
「あっ。こんなこと言ってる暇なかった。急げ急げ」
そうだそうだ。騎士たちから外した装備を鍛冶班に届けなきゃ。
昨日行ったときは、あと少しで軍の装備を打ち直せるって言ってたから、これで十分かな?
「みなさーん! 手伝ってくださーい!」
迎撃用のこの大広間から伸びている道の一つにそう呼びかけると、奥から次々とスライムがあふれ出てきた。
彼らは、私の体にまとわりつくと、私が抱えていた装備だけを飲み込んだ。
「…お兄様もよくやるよなあ…知性のないはずのスライムを品種改良して調教して…運搬に適した個体を作っちゃうなんて」
私が言っている間にも、スライムたちは細かく分裂して地面に転がっていた装備を拾っている。
それを尻目に見ていると、最初に私ごと装備を取り込んだスライムが体をすり寄せてきた。
「うおおなんだよ。…懐かれちゃったかな…。うん。今日も鍛冶班までよろしくね」
言うと、スライムはぷるぷる震えて、通路の奥に消えて行った。
小さいスライムたちも、大きいスライムに追従する。
「…私も付いて行こう。鍛冶班の進捗も聞きたいし」
私も、小さいスライムの後ろに付いていく。
それから数分して、私たちは鍛冶班の部屋の前にたどり着いた。
2回ノックしてから、部屋の中に向かって声をかける。
羽海汐遠
14,367
( ᐛ )
168
#主人公最強
杯雪乃
1,135
他力本願
117
「ウィルデルさーん。いますかー?」
すると、返事の代わりにハンマーを振るう甲高い音が返って来た。
「いいみたい」
大きいスライムにそう言うと、大きいスライムは、ぷる。と震えた。
小さいスライムが大きいスライムの上に乗っかり、ノブをくるりと回す。
なるほど…いつもこうやってるのか…。
部屋の中では、小柄な男性が炉の前でハンマーを握っているのが見えた。
スライムが先を譲ってくれたので、部屋に入ると、声がかかった。
「よう。昨日ぶりだな。イブリース嬢。そんで、今日は何用だい?」
声の主は、ドワーフのウィルデルさん。
魔王城の中でも最高齢の200歳を誇り、鍛冶班のリーダーと魔王城に住んでいるドワーフの総括、そして軍の装備管理を一任されているすごい人だ。
「うん。昨日ぶり。ウィルデルさん。仕事も終わったから、昨日の続きを見に来たんだよ。進捗、どんな感じ?」
「ああ。昨日までに持ってきてくれた分で、だいたい軍の半分くらいだな」
「ふうん。そんな感じなんだ…。あ、これ追加分」
私は、体をどかしてスライムを部屋の中に入れる。
部屋の中に入った大きいスライムは、自分の体内から回収した防具を次々に取り出して、作業机の上に並べた。
「おお…こりゃまた…。すげえ量じゃねえか。…見た感じ、今まで通り鉄製か?」
「うん。そのはず」
「そうか…。利用する側からすれば、もっといい装備で来てほしいんだが…まあ叶わねえわな」
ウィルデルさんは、そう言ってもじゃもじゃの頭を掻いた。
「まあ、こんなこと言ってっけどよぉ。俺ら魔族側は、この魔王城以外に領地がねえんだよな。ずうっと昔から迫害の対象だったからなあ…。…で、そんな魔族を救った魔王様の娘さんはどう思う?」
「…え、私に話振るんですか? ここまで喋って?」
「はっはっは。冗談だ」
ウィルデルさんは笑いながらそう言うと、下っ端の鍛冶師を数人呼び寄せ、装備を全部持って行かせた。
それから、再びハンマーを握って言った。
「そうそう。この前作ってくれって言ってた新作の罠あったろ? あれの完成のめどが立った。完成したらスライムを使って届けに行くから待ってな」
「いいんですか? 結構無茶な注文ばっかりしましたけど…」
「いいってことよ。ただし、代金はちょいともらうがな」
「…腹黒おやじ」
「はっはっは! よく言いやがる!」
一連の会話を終えると、ウィルデルさんは笑いながら奥の方へ消えて行った。
部屋には、私とスライムだけが残されている。
「…ええっと……じゃあね?」
そう言って手を小さく降ると、スライムは、ぷるり。と震えて、触手をぴろぴろし出した。
…なんか、ちょっと満足感あるな…。
私は、ほくほく顔で部屋を出た。
廊下をスキップ気味で進み、そして自分の部屋のベッドに倒れこんだ。
そのまま顔をずらして机の上を見ても、そこに書類の山はない。…少ししか。
代役になった日から、お父様が暇な人に少しずつ書類を回してくれたおかげで、私の労働は少しだけ減りつつある。
「…いや、逆に増えて―いやいや。ダメだよ私。減った。減ったんだ。うん。絶対そうだ」
なんて言っているうちに、ちょっとずつ瞼が重くなってきた。
やっぱり、13回も侵入者対応するなんてクソだったん…だあ……。
………ぐう。
コメント
1件
読了しました〜!イブリースちゃん、13回も人間の騎士を撃退してからの鍛冶班まわり、本当お疲れさま…!スライムが運搬用に品種改良されてて、しかも懐いてるのめっちゃかわいい🫠💕 ウィルデルさんとの軽口の応酬も好き。魔族側の事情(迫害や数の少なさ)がさらっと滲んでるところに、重さと温かさが混ざっててグッときました。新作罠、楽しみですね!