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羽海汐遠
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( ᐛ )
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#主人公最強
杯雪乃
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他力本願
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「イブリースちゃああああん!!」
「うるっさい! くそお姉ちゃん!」
いつも通り、迎撃用の大広間で侵入者を待っていた時のことだった。
…厄災が、唐突に大広間に現れたのだ。
厄災の事について、少しだけ話しておこうと思う。
名前は、カジュルン。私の実姉にして、お父様に次ぐ実力者の一人だ。
魔法の才は天下一品にして、武芸百般。お父様とお母様の得意分野をそれぞれ抜き取って形にしたのが、私のお姉ちゃんである。
「イブリースちゃああああん!」
…そして、序盤に戻るわけだ。厄災は、そう言いながら大広間に入って来た。
お姉ちゃんは、確かにすごい。勉強はできないけれど、その強さはお父様のお墨付き。…将軍たちからは、強すぎて扱いに困ると言われているそうだが。
…でも、欠点だっていくつもある。そのうちの一つが、これ。
私たち兄妹が好きすぎることだ。
「…こほん。それで、何しに来たの?」
いきなり怒鳴るのはよくなかったね。うん。お姉ちゃんだって、何も考えずにここに来るわけないし。多分、お父様から伝言を…
「イブリースちゃんに会いに来たの!」
…そんなこったろうと思ってたよ。
私はげっそりした。何せ、お姉ちゃんが構ってと言いだすと、風魔法で吹っ飛ばしても帰ってくるからだ。…何回やっても。
しょうがない。何がお望みか聞いてあげよう。
「…分かった。私に会いに来たのは、いいよ。それで、用事は?」
「イブリースちゃんと戦いたくって! お父様の代役になったんでしょ? だったらもっと強くなった方が…」
「…ごめんお姉ちゃん急用を思い出したからもう行くねばいばい」
「ああ! イブリースちゃん!」
私は、風魔法で脚力を強化し、氷魔法と火魔法で空気抵抗をほぼゼロにし、文字通り全力で廊下を駆けだした。
やっぱりだめだ。だめだった。
お姉ちゃんと? 戦う? 無理無理無理。
あの百戦錬磨の怪獣の相手なんて、私にはできない。
前戦った時は、必殺技打っても骨折しかしなかったくせに! なんで戦いに来るんだー!!
心の中で絶叫しながら城内を駆けまわっていると、ふと横から声がかかった。
「すごいわ! 前よりも魔法の扱いが上手になっているじゃない!」
…なんなんだこのお姉ちゃん。
なんで私の方が数秒早く逃げたのに、十秒後にはもう追い付いてるの?
やっぱり、おかしいんだ…お父様並みの体があって、お母様並みの魔法の才能があることって。
「…うそだあ……」
「うそ? 私がうそなんて言ったことあったかしら?」
お姉ちゃんに言ったんじゃないよ。お姉ちゃんの才能に向かって言ったんだよ。
…くそう。こうなったら、最終手段を使うのみ…! 大臣たちには怒られるかもしれないけど、全力でお姉ちゃんを振り切る!
私は、更に魔法の出力を上げて走り出した。
魔力がものすごい勢いでなくなっていくけど、お姉ちゃんをいなすためだ。しかたない。
私は、お姉ちゃんと追いかけっこを始めた。
一階にいる私たちは、走りながらどんどん上階に上って行く。
そして最上階で、私は地面に身を伏せた。
数秒もせずに、お姉ちゃんが来るはずだ。お姉ちゃんが――っ!!
直後、ばこーん! という破砕音が周囲に響き渡った。
「作戦成功…助かった」
振り返ると、そこにはぽっかり穴の開いた壁があった。
壁の向こうには、真っ黒の雲が広がっている。
「お姉ちゃんのスピードを利用して、お姉ちゃんを追い出す…。ふふふ、あの鳥頭には分かるまいて」
私は静かにほくそ笑んだ。これで、お姉ちゃんも少しは懲りたことだろう。
…それにしても、魔力の減りがすごいな…。この数分だけで、全体の8割くらい持ってかれてる…。
そんな事を考えながら階段に足をかけると、遠くの方で鐘が鳴っているのが聞こえた。
……あれ。この鐘って、もしかして侵入者が来た時の奴じゃない?
うーんと、今日の対応は誰だったかな――私じゃん。
…いいい急げ急げ急げー! 魔力がもうほぼないけど……え、ええい! やるしかなーい! 待ってろよ侵入者ども!!
私は汗を滝の様に流しながら階段を引き返して、お姉ちゃんが開けた穴からセルフ身投げした。
空中で迎撃用の大広間の位置を捉え、重力魔法で高度と落下速度を制御し、大広間の天井をぶち破って中に降り立つ。
ま、魔力の残存量がもう1割くらいしかない…。無茶して重力魔法なんか使うんじゃなかった…。いやでも使わなかったら侵入されてただろうし…。
「魔王だ! 魔王が来たぞー!」
内心汗だくの私を無視して、人間たちの先頭に立っていた屈強そうな男がそう叫んだ。
「…私の顔、どこまで知られてるの……?」
私の知らないところで私の顔を横流しにすんじゃなーい。プライバシーってもんが…魔王にはなかったね。しょうがないね。
…もう魔力がないから雑になっちゃうけど、仕事はちゃんとやらなきゃね。
「ふん、愚者どもめ。この私が貴様らの相手をしてやろうぞ」
…うう…お父様から教わったセリフ、やっぱ恥ずかしい…。もっとましなのあったでしょ…。
…言葉のこっ恥ずかしさは置いておくとして、やっぱりこのセリフはそれなりに有効だ。これを言っておけば、騎士たちだって邪魔な話を始めないから。
「…早々に終わらせよう。インティファーウ」
左手を突き出しながら魔法を発動し、反対の手で剣の柄を握る。
地面がボコボコと持ち上がり、鋭い針へと姿を変え、騎士たちの防具を地面ごと縫い留め、動きを封じ込める。
…この魔法は、10人くらいにしか使えないってのが弱点だ。それにここまで緻密な動きを求められると、魔力の減りも早い。
今の魔法で、私の魔力はすっからかんだ。
それに、騎士たちだって決して弱くない。…いや、最初の方は弱かったんだけど、最近はそれなりに強いんだよね。なんでだろ?
…ううん。こんなこと考えてられないや。早く片付けよう。
「ちょっと痛いけど、我慢して。…ラフザ・フサーム」
瞬間的に、私の思考が少し広がった。…気がした。
周囲の時間の流れが若干遅くなり、空気中に浮かぶ埃さえも視認できるようになった時、私は一気に抜剣した。
視覚能力を底上げし、抜剣と同時に敵を切り伏せる技。それが瞬剣だ。
ドラゴニュートの師匠とお父様の指導の賜物だ。まったく、感謝しかない。
さて、そんな事を事細かに説明しているうちに、私は三人の防具を全部切り落としていましたとさ。
…そして、私が再び剣を鞘に納めた数秒後。三人の騎士がバタバタと倒れた。
「…安心して。峰打ちだから」
動揺する他の騎士たちに小さくそう言った。多分聞こえてないと思うけど、別にいい。言ったかどうかが大事なのだ。
考えながら、私は剣を抜いた。
今度は、柄を両手で持ちながら突進の構えを取る。
「…インダファーア」
要領は大体、さっきの瞬剣と同じだ。相手に見えないくらいの速度で近づいて、斬る。
…あ、もちろん防具をね。
騎士に近づいて、防具を切り落としてから、突進の勢いのままに体当たりして、壁にぶつける。私の絶妙な力加減のお陰で、気絶率は100%だ。
そんなことを思っていると、横から三人の騎士が叫びながら突進してきた。
「よくもローレンスを! おのれえええ!」
…たった今吹っ飛ばした騎士の事かな? 仲間思いなのは良い事だけど、戦闘中に私怨にかられるのは感心しないね。
「…死んじゃいないよ。ダルバ・ウフキーヤ」
私は、剣の柄の末端ぎりぎりを摘まんで、騎士たちへと横薙ぎに振るった。
自分で言うのもなんだけど、この膂力本当にすごいと思う。やっぱり私ってお父様の子供なんだなあ…。
騎士たちの胸当ては、その一閃だけで真っ二つに割れ、地面に転がった。胴体どころか、防具の下に着ていた衣類にも、少しの傷だってついちゃいない。
一瞬で防具が消えたことに驚いてるのか分からないけど、呆然と立っている騎士たちの首に手刀を打ち込んで気絶させる。
残りは…20くらいか…。それなりに苦労しそうだなあ……――!
「隙ありィ!!」
背後から声がした。肩口に振り返ってみるとそこには、いかにも斥候。みたいな恰好をした若い男が、私に短剣を突き刺そうとしていた。
この男、隠密がうまい。…いや、うまいなんてもんじゃない。今の今まで、私でさえ彼を探知できなかった…!
幸い、まだ避ける時間はある。瞬剣の応用で脱出を……あれ?
なんで地面に撒菱が…? もしかして、この男、最初っからこの一撃のために準備を…?!
それにこの撒菱、退魔の術式が施されてる…! もしも踏んだら、足一本なんて簡単に吹っ飛んじゃう…!
「…ええいままよ!」
叫びながら、私は剣を地面に突き刺した。
突き刺さった剣の柄を思い切り握って、体を上まで一気に持ち上げる。
地面に刺さった剣の上で逆立ちしてる感じだ。
一連の行動が終わった次の瞬間、体全体を強い衝撃が包んだ。
男の短剣が、私の刀と衝突した衝撃だ。
…すごい力。今までの騎士なんて比較にならないくらいに強い…。
そんなことを思いつつ、私は腕だけで跳躍した。
そのまま近場の壁を蹴って、斥候と撒菱から距離を取る。
「チッ…。すみません隊長。仕留め損ないました」
斥候の彼は、豪華な装備を着ていた騎士にそう言った。なるほど、あれが隊長か。
一方の隊長騎士はというと、気にするな。みたいなジェスチャーを送り、次に私を睨んだ。
そんなことより、あの剣を手放したのは痛いな…。攻撃手段がもうほぼない…。
「…畜生。やってくれたよ…」
…本当にどうしよう。私、体術からっきしなんだよね…。
力で無理矢理殴るか? 魔王の娘ぞ? 私。
なんて…そんな子供だましが、あの斥候に効くわけないでしょ。
罠…そうだ。罠。罠が…ないじゃんか。
そうだった…! 調整中なんだった! 新しい罠を導入するから、メンテナンスもお願いしてたんだった…!
で、でもでも! 使える罠だって残ってるはず! ええと…メンテナンスに出してないのは………。
…武器を奪う罠じゃない?
ど、どうしようどうしようどうしよう!! もうなんにも……あ。悪い事思いついちゃった。
……どう考えても、もうこれしかないんだが…?!
やるしかない…か? あれに恩を売るのは嫌だけど…でも…!
……背に腹は代えられん! やるぞ!
「助けてー!! お姉ちゃーーーん!!!!」
何が魔王じゃ! 知らないもーん!
恥晒すから助けてーー!
……と、心の中で絶叫していると、大広間の壁の一部が一瞬にしてはじけ飛んだ。
お姉ちゃーん! 来てくれたのは嬉しいけど、魔法も使わずに壁を壊して入ってくるのは怖いよー!
「イブリースちゃん! 来たわよー!」
「いや入り口! 入り口から来てよ!?」
「…お姉ちゃん、イブリースちゃんが助けを求めてるから急いで飛んできたのに…しくしく」
「…何歳だよ。お姉ちゃん」
そう言ってやると、お姉ちゃんは口元に手を当てて笑いながら騎士たちを一目見た。
「ふふふ。それで、お姉ちゃんはあの人たちと遊んであげればいいのかな?」
「うん。もう私じゃ手に負えないからお願い」
「えぇ~…イブリースちゃんが可愛く、お姉ちゃんお願い❤って言ってくれなきゃやだ~」
「…」
い、嫌だ…。もう最っっ高に嫌だ…。
ああほらお姉ちゃん。騎士の人たちみんな目まん丸だよ…。
代替案を出すしかないか…。こういう恥ずかしいセリフ、一日に何回も言えないよ
「…。………それは言わないけど、今度の休暇、一日私を好きにしていい権利をあげる」
「本当?! やった~~!」
お姉ちゃんは、両手を上にあげて、くるくる回り始めた。何がそんなに嬉しいんだかさっぱりなんだけど…。
「…行け! お姉ちゃん! 君に決めた!」
「うふふ~頑張っちゃうわよー! …ユタイイル」
うわ、すっごい魔力出力…。私の総魔力量の半分くらいの魔力をポンと使わないでくださいお姉ちゃん。
お姉ちゃんが魔法名を唱えた瞬間、石畳の床が陥没するほどの暴風が地面からあふれ出てきて、騎士たちを凄まじい勢いで吹き飛ばした。
騎士たちの体が、大広間の壁をぶち破って遠くへ飛んでいくのが見える…あ、消えた。
…ユタイイル。またの名を、彼方へ。風魔法の極地に達したものだけが使える、最上位魔法の一つだ。
…お姉ちゃん。やりすぎです。明らかに。
なんで20人の騎士を追い出すのに最上位魔法を使っちゃうんですか。
なんていうかもう…すっごい。
しかも当の本人はぴんぴんしてるっていうね。あれだけの魔力を一気に使ったら、普通は片腕持ってかれるでしょ…。
魔力もまだまだあるみたいだし、本当に規格外だ…。
…じゃあこれに勝てるお父様とお母様はなんなんですか。
「終わったわよー!」
「ああうん。そうだね。すごいね」
「でしょ?! もっと褒めて~♪」
…よかった。お姉ちゃんが敵じゃなくて。切実にそう思うよ。
「じゃあ、お父様に頼んで明日を休暇にしてもらうわね!」
「…ん? どういうこと?」
あれ、おかしいな。明日を休暇にするって聞こえた気が…き、気のせい…?
「どういうことじゃないわよ! 最近のイブリースちゃんは仕事しすぎ! 度重なる侵入者の撃退に、書類の管理。それから装備管理のお手伝い! この一週間の業務内容だけで、一人の魔族が一ヶ月でやる仕事の量を超過してるの分かってる?!」
「……うん。分かってるよ」
「じゃあ休んで! これはお姉ちゃんとして言ってるんじゃなくて、上官として言ってるの!」
「…分かった。休む」
…かくして、明日は休みになりました。
実のところ私も、そろそろ休まないといけないと思ってた頃だ。お姉ちゃんもいいところがあるじゃないか。
「ぐへへ…これでイブリースちゃんを好きにできる…」
「…」
前言撤回。
やっぱり悪いお姉ちゃんでした。
コメント
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お姉ちゃん強すぎて草w 「助けてお姉ちゃん!」で全てを投げ出すイブリースちゃんの決断力、魔王なのに可愛すぎる。風魔法・氷魔法・重力魔法を駆使して逃走するテクニックに痺れたし、撒菱+短剣斥候の連携は危なかった。魔力管理のリアルさも好き。明日どうなるの?続き待ってる🔥