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「それにしても、サイアクなクリスマスイブになってしまったな。すまなかった……」
公園を後にした二人は、怜のマンションへ向かいながら、どこか気落ちした声で彼が奏に謝った。
「いいんじゃないですか? こういう修羅場のクリスマスイブも、思い出に残ると思うし……」
奏は何事もなかったように振る舞い、通常運転の口調で答える。
「いや、俺は思い出したくないな……」
怜が苦笑混じりの面差しを見せると、奏が『でも』と前置きした。
「怜さんが『真理子と別れたお陰で、俺は、音羽奏という誰よりも何よりも大切にしたい女性と出会えた』って言ってくれた時、私、すっごく嬉しかったんですよ?」
奏が少しムキになったように繋げると、その言葉に安堵したのか、怜が奏の頭を撫でた。
「ありがとう。奏がそう言ってくれて、俺も嬉しい」
本来ならこの時間、怜と奏は、彼のマンションでのんびりと過ごしているはずだった。
しかし、招かれざる客が二人も襲来したお陰で、しかも結構な長時間に渡り、イケメン双子が園田真理子を巡って対峙する修羅場へと発展。
最後に、怜が圭に『奏に手を出してみろ。その時は俺はお前を絶対に許さない……! 絶縁だからな!』と大胆な発言も飛び出した後、ようやく終息した頃には夜もすっかり更ける時間になってしまった。
「どうする? コンビニに行って何か買うか?」
「そうですね。さすがにお腹が空きました……」
二人は急遽、豊田駅方面へ向かう事にし、駅前のコンビニを目指した。
「それにしても怜さん、あんな事言って……ビックリなんですけど!」
「ああ、圭に言った絶縁発言か? 俺にはその覚悟があるほど、奏は絶対に誰にも渡さないって事だよ」
それにしても本当に彼は、顔が赤面するような事を平然と言ってのける。
しかも、何食わぬ顔で当然のように言うものだから、奏は、怜の言葉が出会ってから数ヶ月ほど経った今でも、冗談なのか本気なのか分からなくなってしまう。
奏が黙ったままでいると、怜が彼女の胸の内を見透かすように、顔を近付けて彼女に囁く。
「俺が奏に対して言う言葉は、全て本気だぞ?」
「……もう恥ずかし過ぎる!」
「奏! 待ってくれ……!」
奏はそそくさとコンビニの中へ入ると、怜も慌てて後に続いた。
さすがに遅い時間帯のコンビニは食料が品薄だ。
二人はサラダパスタ、ハムとレタスのサンドウィッチ、ビールとお茶を購入して来た道を戻った。
コンビニの袋を下げた怜が、空いてる方の手で奏の手を繋ぐ。
長時間、外にいた二人は、すっかり身体が冷えてしまい、早くお風呂に入りたいと思う。
互いに無言のまま歩き続け、やっと到着した怜のマンション。
エントランスを抜け、エレベーターに乗り七階で降りて、彼の部屋へ向かう。
「やっと部屋に入れるな。奏、寒かっただろ? 大丈夫か?」
「私は大丈夫ですよ。怜さんこそ寒かったのでは?」
「俺も大丈夫」
怜が解錠して奏の腰に腕を回して入室を促した。
うがいと手洗いの後、リビングのルームライトとエアコンをオンにしてソファーに腰掛けた二人は、軽く食事を済ませた。
「しかし今夜は寒いな。どうする? 風呂に入るか?」
「はい。バスタブに浸かって、身体を暖めたいです」
わかった、と言いながら怜は立ち上がり、風呂を沸かすためにバスルームへ向かう。
リビングへ戻ってきた怜が、奏の肩を抱き寄せながら耳朶に囁いた。
「……一緒に入るか?」
色香漂う低い声音が奏の鼓膜を優しく揺らすが、それよりも羞恥の気持ちが強い。
「一緒にお風呂は、また後日……」
「残念だな。なら、今度うちに来た時は、一緒に入るからな?」
程なくして、お風呂が沸いた通知音が鳴り、怜は再び立ち上がると、着替えを持ってバスルームへと消えていった。