テラーノベル
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凛のマンションから颯介の自宅がある街までは、車ならあっという間だった。
高級住宅街に入ると、どの家も立派な高い塀に囲まれており、凛は思わずため息をついた。
(大豪邸ばかり! どの家もまるで要塞みたい……)
道路の両脇に並ぶ家々は、どれも桁違いの豪邸ばかりだ。高い塀に守られた家の前には、大きな門と何台も停められる広いガレージが併設されている。
その光景を眺めながら、凛は颯介が『本物の富裕層』であることを改めて実感した。
「立派なお宅ばかりですね」
「うん。この辺りは、けっこう有名人も多いよ」
「え? 芸能人とかですか?」
「演歌歌手の林真一とか、元チュッカーズの竹井文也とか」
「チュッカーズ? うちの母が大好きです! へぇ~、そうなんだ~」
「うん。夫婦で犬の散歩をしているのをよく見かけるよ」
「わぁ……母が聞いたら絶対に羨ましがります!」
そのとき、颯介はふいに車を停める。
凛が不思議に思い颯介を見ると、彼は前方をじっと見つめていた。
「どうしたんですか?」
「いや……俺、わりと目がいい方なんだけど、前から来るあの女性って、もしかしてこの前の彼女?」
「え?」
意味がよくわからないまま、凛は颯介と同じ方向を見た。その瞬間、思わず「あっ!」と声を上げた。なぜなら、そこには沢渡奈美がいたからだ。
奈美は携帯を見つめながらゆっくり歩いてくる。時折立ち止まっては周囲を見回し、また歩き出す。どう見ても、誰かの家を探しているようだった。
「どうして沢渡さんがここに?」
「わからない……」
凛は、以前、颯介がタワーマンションを購入した際の契約書を奈美が見たのかもしれないと考えた。だが、あの書類は契約後すぐに営業担当が持ち出したため、他の社員が目にする機会はなかったはずだ。
では、なぜ奈美がここに?
偶然なのか、それとも……。
凛は判断がつかず、胸がざわついた。
そのとき、颯介がぽつりと言った。
「変だな……」
「え? 何がですか?」
「実は先日も、彼女とばったり会ったんだよ」
「え? ど、どこでですか?」
「三日前だったかな……青山の美容院に行った帰りに」
「それって……偶然ですか?」
「今日ここで会わなければ偶然で済ませられたんだけどな」
凛は嫌な予感を覚えた。
(まさか彼女、真壁さんの行動を追ってる?)
颯介はダッシュボードの上に置いてあったサングラスをかけ、車を静かに発進させた。奈美に気づかれないように、交差点を左折する。
奈美が交差点までたどり着くにはまだ距離があり、二人はなんとか彼女の視界から逃れた。
「で、このあとどうするんですか?」
「自宅がバレたらまずいから、逃げるぞ」
「は、はい」
ただならぬ空気に、凛も動揺していた。
だが、そのときふとひらめく。そして、颯介に尋ねた。
「あの……青山の美容院に行ったときは、車でしたか?」
「うん、そうだけど、それが何か?」
「やっぱり!」
そう叫ぶと、凛はバッグの中をごそごそと探り始めた。そして中から小型の『GPS探知機』を取り出した。
「よかった、あった!」
「それは?」
「GPSや盗聴器、盗撮カメラを見つける探知機です」
「はっ? なんでそんなものを?」
「上京するときに父が持たせてくれたんです。若い女性の一人暮らしは危険だからって」
颯介は一瞬きょとんとしたが、すぐに笑いながら言った。
「ははっ、お父さんは相当心配性なんだな」
「はい。それはもう、すごいんです。それに、職業が警察官なんで……」
凛の言葉に、颯介は驚いた表情を浮かべた。
「ああ、だからか。実家はどこ?」
「鹿児島です」
「そっか……それなら心配するのも無理ないね」
「ええ。でもまさか、ここで役に立つとは。今、使ってみてもいいですか?」
「うん、頼む」
凛が車内を調べると、探知機はある場所で大きく反応した。
「真壁さんの座席の下にあるかも」
「マジか」
颯介は車を道の脇に停めると、すぐに降りて座席の下を探る。
「……あっ、あった! これか?」
「たぶんそれです!」
凛は大きく息を吐いた。
颯介は、手のひらの上にあるGPSを見つめながら、呆然としている。
それはネット通販で安価に買える、ごく一般的なタイプのものだった。
「彼女が仕掛けたのかな?」
「証拠がないのでなんとも言えませんが、この車に乗った人が仕掛けたのは確実ですね」
「これって今も電波を出してるんだよな? どうすればいい?」
「電池を抜いてください」
「電池? ああ、このボタン電池か……」
颯介はすぐに発信機の電池を引き抜いた。
「これで大丈夫?」
「はい。電池がなければ信号は発信できませんから」
「……詳しいな」
「父からレクチャーを受けましたから。どうします? 警察に行きますか? もし行くなら、力になりますが」
「ありがとう。でも、君のお父さんは鹿児島県警だろ?」
「東京にいる叔父が警視庁勤務なんです」
「警察一家か。頼もしいな。でも、彼女が仕掛けた証拠がないからなあ……」
「他にも心当たりがあるんですか?」
「うん。彼女以外にも何人も乗せてるから、特定は難しい」
その言葉に、凛の胸がきゅっと痛む。
(そうよね……こんなに素敵な人だもの。親しい女性が一人や二人……ううん、もっといてもおかしくないもの)
「とりあえず、少し時間をつぶしてからうちへ行こう。おふくろが待ってるし」
「分かりました。あと、念のため聞きますが、住宅地図に名前って載せてます?」
「いや、うちは載せてない」
「よかった。あ、あと、ネットの地図で表札とか映り込んでないですよね?」
「それもぼかしを入れてもらってるから大丈夫。今はいろいろ物騒だからね」
「それなら安心です」
「うん。心配かけて悪いね」
颯介はにっこり笑い、周囲を慎重に確認してから再びアクセルを踏み込んだ。
その頃、颯介の自宅から少し離れた場所を歩いていた奈美は、突然GPS発信機の信号が途絶えたことに気づき、がっかりしたように立ち止まった。
(やだ、信号が途絶えちゃった……あと少しだったのに。やっぱり安物はダメね。仕方ない……少し高いけど住宅地図を購入しようっと)
奈美はにやりと笑うと、駅の方へ引き返していった。
コメント
41件

怖い奈美‼️ これはストーカーだよ 凛ちゃんの探知器が役立って良かった
会社でも盗聴器、車にも盗聴器… 安物とはいえ、奈美、怖すぎです…😱 ストーカーは犯罪ですよぉ💧
何を企んでるの気持ち悪いわね凛さんの叔父様に頼まないとね😥