テラーノベル
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しばらく車を走らせて時間を潰した二人は、頃合いを見て颯介の自宅へ向かった。
走る車の中で、颯介が口を開く。
「もうすぐ着くけど、さすがにもういないよな?」
「と、思いますが……」
二人が周囲を注意深くあたりを見回すと、奈美の姿はなかったので、ほっと息をつく。
家の前に着くと、颯介はリモコンを手にしてガレージを開けた。
「わぁ、自動で開くんですね」
「うん。便利だろう?」
彼の家は、シックな御影石の塀に囲まれていた。
その奥には、片流れ屋根の木造の邸宅が見える。木肌が美しく、まるでリゾート地の洒落た別荘のようだ。
「わあ……ナチュラルで素敵なご自宅ですね」
「ありがとう。自然素材を使った家が好きだから、あえて木造にしたんだ。この方が、庭との調和も取れるしね」
颯介の言葉どおり、塀越しには庭の木々がのぞいていた。
植えてまだ間もない若木は秋の青空によく映えている。いくつかの木々は、すでに紅葉が始まっているようだ。
車を降りると、二人は玄関へ向かった。
玄関までは、枕木を並べたゆるやかなアプローチが続いている。その小道の両脇には、今年最後のセージやタイムが秋の風にそよいでいた。
ほのかに漂うハーブの香りを吸い込みながら、凛は心身ともに癒される。
玄関前に着くと、颯介がインターホンを押した。
すぐに明るい声が返ってくる。
「はーい」
その声を聞いた瞬間、凛の緊張が高まる。
颯介の恋人として来たわけでもないのに、なぜか身体がこわばってしまう。
ドアが開くと、60代半ばと思われる上品で綺麗な女性が、にこやかに迎えてくれた。
「ずいぶん遅かったじゃない」
「ごめん。ちょっと寄り道してたから」
「そうだったの? まあ、ようこそいらっしゃいませ! あなたが二階堂さんね」
「初めまして。真壁さんと一緒にお仕事をさせていただいている二階堂凛と申します」
「凛さんっておっしゃるのね。なんて可愛いお名前! あ、私は母の清乃(きよの)です。お会いできて嬉しいわ」
「今日はお招きいただきありがとうございます。あの、これ、近所の和菓子店の生菓子ですが、よろしければ……」
「まあ、ありがとう! 私、和菓子大好きなの! ちょうど静岡のお友達から美味しいお茶を送っていただいたから、お食事の後にいただきましょう。さあ、上がってくださいな」
颯介の自宅は、想像以上に素敵だった。
室内は木がふんだんに使われ、ほのかに心地良い木の香りが漂っている。
リビングには薪ストーブがあり、まるで洗練された山間のホテルのようにくつろげる空間だ。
初めて訪れた家なのに、凛はなぜかほっと心がゆるむのを感じた。
「少し早いけど、ゆっくり飲みながら、お食事始めましょうか。凛さんは、飲めるんでしょう?」
「あ、はい」
「いくらとウニをいっぱいいただいたから、初めて軍艦のお寿司を作ってみたんだけど、どうかしら。食べてみて」
テーブルに案内された凛は、数々のご馳走を見て驚いた。
上品な伊万里の大皿の上には、作りたての海苔がパリッとした軍艦寿司が美しく並んでいた。
それを見て、颯介が言った。
「寿司を作るなんて、珍しいね」
「だっていいネタをいっぱいいただいたんですもの。それに、アレを使ったら簡単だったわ」
清乃はそう言って、キッチンから『寿司シャリの型』を持ってきて二人に見せた。
「あっ、それ私も持ってます!」
「あら、本当?」
「はい。私、お寿司が好きで、たまに一人で作るんです」
「まあ、そうなの? 私もお寿司が大好きだから一緒ね! お寿司屋さんで美味しいお寿司を食べるのもいいけど、たまにはこうやって家で作るのも楽しいわね。癖になりそう」
「分かります!」
意気投合した二人は、顔を見合わせてふふっと笑った。
こうして、三人での楽しい夕食会が始まった。
清乃の料理はどれも美味しかった。
秋ナスの煮びたし、松茸の茶わん蒸し、お吸い物も出汁が上品で、まるで店で出るような味わいだ。もちろん、清乃お手製の軍艦寿司もとても美味しかった。
「お口に合うかしら?」
「どれも本当に美味しいです。お母様はお料理が上手なんですね」
「上手かどうかは分からないけど、お料理が好きなのは確かね」
すると、颯介が口を挟んだ。
「食べるのも好きだよね」
「あら、やだ! それじゃ、まるで私が食いしん坊みたいじゃない」
「事実、そうでしょ」
「違うわ。食に興味が深いだけ」
「それを食いしん坊って言うんだよ」
二人の微笑ましいやり取りを聞きながら、凛は思わず笑みをこぼした。
「お二人は仲がいいんですね」
「そう?」
「仲がいいというよりは、この人をひとりにしておくと大変なんだよ」
「どう大変なんですか?」
「なんにでも興味を持って首を突っ込むから、いつか詐欺にでも遭うんじゃないかと冷や冷やするよ」
息子の言葉に、清乃は頬をぷくっとふくらませて言った。
「あら、それはご迷惑をおかけしてすみませんね~」
そのやり取りがおかしくて、凛はまたクスクスと笑った。
つられて、颯介と清乃も笑い出す。
結局、食事の間じゅう、凛が話していた相手はほとんど清乃だった。凛は清乃とすっかり打ち解け、二人の会話は途切れることがない。
颯介は楽しそうに話す二人を眺めながら、ときおり頷くだけだったが、その表情はとても満足そうだった。
笑い声があふれる楽しい食事会は、夜8時を過ぎた頃、ようやく一段落した。
食事を終えると、凛は片付けを申し出て、清乃と一緒にキッチンで後片付けを始めた。
二人並んでキッチンに立っていると、ふいに清乃がこんなことを言った。
「颯介が女性を連れてきたのは、あなたが初めてなの。私、つい嬉しくてはしゃいじゃってごめんなさいね。これからも、颯介をよろしくね」
まるで、息子の恋人に向けて言うような言葉に、凛は少し戸惑う。
けれど、喜んでいる清乃をがっかりさせたくなくて、こう返した。
「こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします」
「あ~、それにしても、今夜は楽しかった。凛さん、また遊びに来てね。私、娘がいないでしょ? だから、こうしてあなたと楽しくおしゃべりができて嬉しいの。絶対、また来てね」
「はい、喜んで」
二人は優しい笑みを交わした。
片付けが終わると、凛は借りていたエプロンを外し、リビングへ戻った。
颯介は足を組んでソファに座り、雑誌をめくっている。
窓の外はすっかり夜の闇に包まれていた。
そのとき、凛が「あっ」と思い出した。
「ん? どうした?」
「お庭を見せてもらうのを忘れてました」
「そうだったな……すっかり忘れてたよ。まあ、また来ればいい」
「え?」
「もうちょっと経った方が、紅葉も綺麗だから」
「あ……はい」
社交辞令だろうと思いつつ、凛は返事をした。
窓の外の暗闇には、風に揺れる木々の葉のシルエットがぼんやりと浮かんでいる。
(綺麗な紅葉やお母様のハーブガーデン……今度ゆっくり見られたらいいな……)
そう思いながら、凛は夜の静寂に包まれた窓の外をじっと見つめた。
コメント
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凛ちゃん お母さんと仲良くなれて これで嫁姑の関係は円満だね(*^▽^*)
きっとゲストルームもあるはず。 お泊まりも近そう🤗
お母様と凛ちゃん、すっかり打ち解けて仲良しに🤗これは、いつお嫁に来ても大丈夫だね(*´˘`*) 3人で穏やかな時間が過ごせて良かった✨️ 次回のお宅訪問もすぐかな⸜(> <⑉))⸝キャッ♡