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どんな展開になるのかしら…😅
「そうだ! 今から怜を呼び出すか!」
時刻は既に夕方を過ぎ、そろそろ夜の帳が下りる頃だ。
考えもしなかった親友の夫の言葉に、奏は奈美とともに目を丸くさせる。
「ちょっと豪さん! 相手の都合も考えないでここに呼び出すなんて、葉山さんに悪いんじゃない?」
「旦那さん、いくら何でもそれは……」
「いや、アイツから二次会のキャンセル料、割増料金でしっかり納めてもらわないとな……」
豪が不敵な笑みを見せながら、テーブルの上にあったスマホを掴み、電話をかけ始めた。
「…………もしもし? 怜か? 先日の結婚式、来てくれてありがとな。そう言えばお前、二次会のキャンセル料金払うって言ってたのに、まだ払ってないだろ? 今から持ってこいよ。…………は? 当然だろ? ドタキャンしたんだから。金額? 二万な。…………ぼったくりだと? お前さ、ぼったくられて当然の事をしただろ? …………とぼけんなよ? 知らないとは言わせねぇからな? じゃあ今すぐうちに来いよ。あ、お前、車で来るだろ? …………なら住所教えておくわ。国分寺市…………」
電話で怜と話しながらニヤニヤしている奈美の夫に、奏と奈美は顔を見合わせながら唖然としている。
「奏、こんな事になっちゃって、本当にごめんね。全く、豪さんったら……」
夫に聞こえないように話す奈美が顔の前で手を合わせると、奏は首を数回横に振る。
「大丈夫だよ。何かすごい展開になっちゃったなぁ、とは思ってるけどね」
「でも、奏には幸せになって欲しいっていう気持ちは、全然変わってないからね。それだけは覚えておいてね」
親友の言葉が、奏の心に温かくじんわりと染み込んでいく。
いい友人がいてくれる事に、奏は感謝の気持ちしかない。
「四十五分くらい? わかった。気を付けて来いよ。…………おう。じゃあ後でな」
豪がスマホの通話終了のアイコンをタップして、奏と奈美に向けてニヤリと笑った。
「…………来るってさ」
***
豪が怜との電話を終えてから約一時間後。インターフォンが来訪者を告げた。
「俺が出るわ」
そう言うと、奈美の夫はリビングの扉を開き、玄関へと向かう。
扉の向こう側で、豪と怜が挨拶を交わした後、話し声が微かに聞こえてくる。
『何? スーツなんて着て、お前今日仕事だったのか?』
『ああ、今日は学校を何校か回ってた。うちの楽器を買いたいって言ってる生徒さんがいてさ』
『へぇ。ハヤマ ミュージカルインストゥルメンツも儲かってんだな』
『お陰様で。ってか豪、二次会のキャンセル料で二万は高くねぇか?』
怜が豪に文句を言っているのが聞こえてきた。
『さっきも電話で言っただろ? とぼけても無駄だし、お前、ぼったくられるような事をしたんだからな? まぁとりあえず入れよ』
再び扉が開き、豪が先にリビングに入ってきた。
遅れて怜もやってくる。
「すみません、お邪魔し——」
奈美に挨拶し終わる前に、ソファーに腰掛けている奏を見た瞬間、怜は涼しげな目を徐に丸くさせた。