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立川のホテルを出発すると、既に外は漆黒の闇に覆われている。
怜の運転する白いセダンが、彼のマンションとは違う方向に車を走らせている事に、奏は気付いた。
「怜さん? マンションに戻るんじゃないの?」
「奏。クリスマスプレゼントに、俺たちの写真が欲しいって言ってただろ?」
ステアリングを握る彼が笑みを含ませた声で答える。
「そうだけど……どこに行くの?」
「多摩セン。前に豪の自宅に行った時、リビングに写真がたくさん飾ってあっただろ? その中にイルミで撮った写真が飾ってあって、何気にいいなって思ったんだよな。で、豪に聞いたら多摩センターのイルミだって教えてくれたんだよ」
多摩センターは、奏も数える程度しか行った事がない。
駅から少し離れた神殿風のホールに、何度か足を運んだ程度だ。
「多摩センターって、この時期イルミネーションやってるんだ?」
「ああ。駅周辺がイルミネーションで彩られるらしいぞ」
「そうなんだ。楽しみ!」
「俺も……楽しみだな……」
怜は、考え事でもしていたのか、しんみりしたような声音で呟いた事に、どことなく違和感があると思った奏は、思わず問いかけた。
「怜さんがそんな声で話すなんて珍しい。どうかしたの?」
「いや…………何でもない」
考え込むような表情で答える怜だったが、交差点にぶつかり信号が赤になると、怜はカーステを操作し、FMラジオからオーディオモードに切り替えた。
流れてきたのは、T–SQUAREの『WHEN I THINK OF YOU』だ。
「うん、やっぱりハイパーサックスプレイヤーの奏でる音は、メロウで艶のある音色だな。ってか、また奏の伴奏で、この曲を吹いてみたい」
「即興の伴奏で良かったら、いつでも伴奏するよ」
「お、楽しみだな。最近全然楽器吹いてないし、この曲以外でも奏と演奏したいな」
車はモノレールの線路沿いを走行し、多摩センターの駅周辺で空いている駐車場を探すと、なかなか空いている駐車場が見つからない。
ホールのパーキングスペースが空車表示になっていたので、怜は入庫して車を停めた。
駐車場を出て二人は手を繋ぎ、細い道を駅方面へ向かって歩いていくと、ホールの階段にぶつかる。
「せっかくだからホールの屋上から見てみるか?」
「うん」
怜が先導するように奏の手を引き、神殿風の建物の屋上まで繋がっている階段を上っていくと、数本の太い柱に支えられた空間へ辿り着いた。
振り返ると、駅周辺は様々な色彩の光で溢れ、中心には大きなツリーが輝き、天辺にある星型の明かりが遠目からでもよく見えた。
「うわぁ……初めて見たけど……凄いね! 多摩地区も侮れないかも」
奏は早速スマホを取り出し、駅周辺の光の景色が画面におさまるように、シャッターを切る。
「俺も多摩センのイルミネーションは初めてだけど、これは予想以上だな……」
怜もスマホをポケットから出すと、写真をスマホにおさめる。
「なら早速、奏のクリスマスプレゼントにピッタリの撮影場所を、見つけに行くか」
緩く笑みを映しながら、怜は奏の手を取り、駅方面へと歩き出した。