テラーノベル
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古びたラブホテルを出ると、圭は、生暖かい夜風に撫でられながらも、風を切るように歩き続けた。
スラックスのポケットに突っ込んだ彼の両手は、握り拳が作られ、無意識に力が込められてしまう。
(……何を…………やっているんだ……俺は……)
気持ちがなくても、女を抱けてしまう『男の本能』に、圭は自身に呆れ、情けなくなっていくのを感じていた。
過去に女と身体を交えて、罪悪感を抱えた事なんて、一度もない。
むしろ、オスとしての欲望が満たされ、抱いた女を征服したような気分になれたのに、情交の最中に、他の女の面影を重ねてしまうのは初めてだった。
圭も今年、三十五歳になる。
いつまでも、女たちからチヤホヤされ、浮かれている場合ではない事も、重々分かっているつもりだ。
双子の弟、怜は、結婚を考えていた彼女を、圭に奪われたにもかかわらず、その後、心から一途に愛する女性と出会い、互いに向き合って愛を育んでいる事が羨ましく思っている自分がいる。
しかも、怜が、今年の秋を目処に結婚するらしい。
以前の圭には、副社長という後ろ盾があり、それに甘んじた振る舞いをしてきた。
金持ちの象徴とも言える高級ブランド品を全身に纏い、高級車を乗り回し、高級ホテルのレストランで、女たちが目の色を輝かせるような、豪華絢爛 なひと時を過ごす。
御曹司という地位、眉目秀麗な外見を女たちにチラつかせ、好感の持てる爽やかな笑顔の裏で、唇を歪にさせながら優越感に浸ってきた彼。
だが、その後ろ盾が呆気なく取り払われた今、結局、肩書きや外見などのディティールは、大して意味がなかった、と気付いてしまったのだ。
圭と弟の怜は、双子が故に、常に比較され続けてきた人生。
学業が優秀だった圭は、父から、ハヤマ ミュージカルインストゥルメンツの後継者として指名され、弟の怜は早い段階で見限られた。
後継者のプレッシャーがない弟は、やりたい事をやり、のびのびとした人生を送ってきたように見える。
正直、自分の思うままに生きている怜を、羨ましく思ったのは数知れない。
今では、営業課長と管楽器リペアラーの二足草鞋で、毎日のように学校や楽器店など、忙しく動き回っている弟。
(なのに…………俺は……いつまで経っても……変わらないままだ……)
双子なのに、こうも性格と人生が違う事に、圭は負い目を感じざるをえない。
今はDTM事業部で課長職に就いている彼だが、いずれは副社長の座に返り咲き、ゆくゆくは社長の椅子に腰を下ろす事は間違いないだろう。
そのために、父、武が敷いてくれた人生のレールを、何の疑いもなく歩んできたのだから。
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