テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
だが、疑心を知らなかった圭の中に、ふと思いが過ぎる。
俺の人生、このままでいいのだろうか? と。
父親が敷いた線路の上を、ただ歩くだけの人生でいいのだろうか? と。
(俺は……この先…………どう……生きたいんだっ……!)
気付かないうちに蓄積されていった不完全燃焼の思いが、圭の中を渦巻いていく。
もがくように表情を歪めた圭は、立川駅前の喧騒の波に呑まれていった。
腕時計を覗くと、既に二十一時を回っている。
彼の左手首に巻かれた、誰もが知る海外高級ブランドの腕時計。
煌びやかなゴールドにダークネイビーのクロノグラフのフェイスがカッコいい自動巻きの腕時計も、副社長だった頃は、女を引き寄せる小道具に過ぎなかった。
深い輝きを放つ腕時計も、圭にとって今は虚しさしか感じない。
腹も大分空き、このまま『家庭料理 ゆき』へ行こうかと考えたが、閉店時間を過ぎているだろう。
それに女を抱いた後、あの店に向かうのは彼の中で憚られた。
(こんな状態で……店には行けないな。あそこの主人…………いや、彼女のお母さん……勘が鋭そうだし……)
圭は、立川駅のコンコースを抜けると、自宅マンションへ大人しく帰宅した。
スーツを脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。
心身ともに穢れ切った自分を清めるために、執拗になるほど、圭は自身の身体を洗い続けた。
手に力を入れてゴシゴシ洗ったとしても、擦れた心が泡と一緒に流れ落ちるわけではない。
それでも、過去の腐った心を削ぎ落としたくて、彼は、無心に身体を洗い、降り注ぎ続けるシャワーの中に身を投じる。
立ち込める湯気を見やりながら、ぼんやりと映し出されたのは、美花の屈託のない笑顔と、真剣な眼差しを向けて話をする彼女の表情だった。
(俺は…………彼女を……)
美花のような、ギャルの風貌の女は、圭が一番嫌いな女のタイプだったはずなのに。
ふとした瞬間、いつしか彼の心の隙間に彼女が入り込み、覆い尽くされている事に気付く。
湯気を放ち続けているシャワーに打たれながら、圭は、持て余している感情を抱えながら、しばらくの間、立ち尽くしていたのだった。