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銃型コントローラーで敵を倒してクリアを目指しガンシューティングゲームのコーナーを指差す。
「二人で入るって?大の大人が?」
「大人になってやるからこそ楽しいんですよ~、ほら、仁さん早く行きますよ……!」
「ちょ、わ、分かったから…」
俺はササッとお金を投入し、仁さんを連れて二人で中に入ると
ゲーム開始を告げる無機質な音声と、けたたましい銃撃音が響き渡る。
「うわ、すごい迫力…」
目の前の大画面に最初のステージが表示された。
左右に備え付けられた、ずしりと重みのある銃型コントローラーをそれぞれ手に取る。
筐体から放たれる光が、二人の顔を交互に照らした。
現れた敵に対し、俺は戸惑いながらも必死に画面を追った。
狙いを定め、引き金を引き
敵を倒していくが明らかに数が多く追いつかない。
その時、隣から乾いた、それでいて驚くほど正確な射撃音が連続で響いた。
思わず隣を見ると、先ほどまで所在なさげだった仁さんが
まるで何かが憑依したかのように、真剣な表情で銃を構えていた。
その構えは、素人のそれではない。
おもちゃの銃だというのに
腰を落とし、わずかに体を斜めに構え、狙いを定めている。
そして引き金を引くたび、画面の敵が寸分違わず撃ち抜かれていく。
無駄のない、洗練された構えだった。
乾いた、正確無比な射撃音が彼のコントローラーから連続して放たれる。
発砲するたび、画面の敵が頭部を打ち抜かれ
次々と倒れていく。
その動きは流れるようで、一切の迷いが感じられない。
まるで、長年培われた本能が導くかのようだった。
「え…?」
俺が呆然としている間に、仁さんは既に最初のステージに登場した敵を殲滅していた。
俺が二体か三体倒した間に、仁さんは十体以上は倒している。
しかも、ヘッドショットばかりだ。
俺は仁さんのプレイを目のたりにし、動きを止めてしまった。
ただ呆然と、その圧倒的なスピードと正確さに見入っている。
驚きと、そしてどこか感心したような興奮すら覚えた。
ステージクリアを告げる表示が矢継ぎ早に現れ
ゲームは驚異的な速さで次のエリアへと進んでい
く。
仁さんはそんな俺に気づくことなく、ただひたすらに画面の敵を撃ち抜いていく。
その横顔は、さっきまでの穏やかな仁さんとは全くの別人に見えた。
まるで、体に染み付いた何か、遠い過去の記憶が呼び覚まされたかのようだ。
(す、すごい……!早すぎる…俺も負けてられない)
俺が感動している間に、ゲームはあっという間にステージ3に突入していた。
敵の数が増え、動きも速くなっているが仁さんのスピードは衰えない。
むしろ、さらに加速しているかのようだ。
そして、開始からわずか数分
画面中央に巨大な警告が表示される。
「WARNING!! BOSS APPEARING!!」の文字が点滅する。
あっという間に、ゲームのクライマックスであるホス戦まで到達してしまったのだ。
仁さんは一瞬、口元に微かな笑みを浮かべたように見えたが
すぐにその表情を引き締め、銃をボスの出現位置へと向けた。
画面に巨大なボスが登場する。
思わずごくりと唾を飲み込んだ。
いかにも強そうな見た目のボスが、こちら目掛けてミサイルやレーザーを放ってくる。
「うわっ、危な!」
俺は咄嗟に声を上げるが仁さんは「任せな」と、微動だにしなかった。
ただ冷静に、しかし素早い動きで銃を構え
ボスの弱点らしき箇所に正確に弾を撃ち込んでい
く。
ボスの放つ攻撃を紙一重で避けていて
それは回避しているというよりは、最初からそこに攻撃が来ないことを知っているかのようだった。
仁さんの正確無比な射撃の前に、ボスのHPゲージはあっという間に減っていく。
ボスが形態を変え、さらに激しい攻撃を仕掛けてきても、仁さんのペースは崩れない。
むしろ、攻撃が苛烈になるほど、その眼光は鋭さを増すように見えた。
「…お、これで終わりか」
仁さんが静かにそう呟くと同時に、最後の弾丸がボスに命中した。
ドオオン!という爆発音と共に、巨大なボスが崩れ去る。
画面には「GAME CLEAR!!」の文字が大きく表示され、派手なファンファーレが鳴り響いた。
ゲーム筐体から外に出ると
先ほどまでの緊張感が嘘のように和らいだ空気が流れる。
「…すごい、迫力でしたね」
俺が興奮冷めやらぬ様子で話しかけると、仁さんは淡々とした口調で答えた。
「確かに、でも案外簡単だったな」
「簡単?!」
仁さんの言葉に、俺は目を丸くした。
簡単なんてとんでもない。
体感だけだけどボス戦だけ難易度Normalからexpertになったんかってぐらいで
俺なんてボスに攻撃全然当たらなかったのに
「仁さん、腕良すぎません?っていうか、あれ絶対普通の人間にできる動きじゃないですよ」
俺は仁さんをまじまじと見つめながら言った。
まさかゲームで、仁さんの底知れぬポテンシャルを垣間見ることになるとは思わなかった。
「…そう?」
仁さんは首を傾げる
まるで自分が何をしたのか分かっていないかのような反応だ
「そうですって!なんかもう、さすがは…元ヤク───」
そう言いかけたところで仁さんに口元を大きな手で抑えられ
「あんまそういうこと外で言わないで?」と苦笑いされた。
それが離されると「すっすみません」と反射で謝り
「つ、次はあれやってみませんか?」と話題を変えた。
俺が次に指を指したのはパンチングマシンだった。
これなら銃を使うより勝算があるはずだと俺は考えた。
「いいね。でも、楓くん平均の120kgfも出なかったりしてな」
俺をからかうようにククッと笑う仁さんに口を尖らせ
「なっ…仁さんに目にもの見せてやりますから!」
と言い返した。
するとそれに付け加えるように
「負けたら、買った方にジュース奢るってどう?」
なんて挑発的なことを言われたが、更にやる気が増した俺は、望むところです!と即答した。
(よし…これで仁さんをギャフンと言わせてやる!)
マシンの場所まで移動すると
仁さんが先にいいよ、と言うので
俺は意気揚々とパンチングマシンに立ち向かって拳を奮った。
結果は150kgf
(えっ、結構いい線行ってるのでは…?)
「おお、なかなかやるな、楓くん」
「こ、これぐらい然です!ほら、次は仁さんの番ですよ」
「…じゃあ俺も負けないように頑張らないとね」
仁さんは俺と違い自信満々にパンチングマシンの前に立ち、構える。
体全体を軽く屈め、拳をぎゅっと握り締め、力を込める。
元ヤクザと言えど今はただの一般人
一般男性の平均が120kgfなのだから、150kgf以上がそんな簡単に出るわけない。
(さすがにこれなら俺にも勝ち目はあるはず…!)
しかし、俺の期待は直ぐに裏切られることとなった。
仁さんは軽やかなステップで助走をつけて
体重を乗せるように体を捻り、一気に拳を振り抜いた。
ドオオン!と、けたたましい轟音がゲーセン中に響き渡り、パンチングマシンが激しく揺れた。
思わず目を閉じ、耳を塞ぎそうになった。
やがて音が収まり
おそるおそる目を開けると
パンチングマシンのデジタル表示に信じられない数字が浮かび上がっていた。
「────っ!?」
そこには「218」と、はっきりと表示されていた。
思考が停止した。
自分の出した150kgfという数字を、一瞬にして脳裏から消し去った。
(に、にひゃく…?218……?!)
さっきまで
元ヤクザと言えど今は一般人
150以上がそんな簡単に出るわけない
なんて呑気に思っていた自分を撲殺されたような衝撃だった。
いや、殴られたのは自分ではなく、あのパンチングマシンだが。
そして、その威力は自分の予想をあまりにも遥かに凌駕していた。
(…てか待て…?確か仁さんって岩渕の組員二人ぐらい片手の拳の力だけで頭掴んで床に叩きつけてたような……?あ、あれ…?)
脳裏に蘇る仁さんの常識外れの怪力エピソードと
目の前の「218」という数字がぐにゃりと歪んで重なった。
隣を見ると、仁さんは涼しい顔をして
何事もなかったかのようにパンチングマシンを見上げていた。
特に驚く様子もない。
「あれ、思ったより出なかったな」
仁さんが独り言のように呟くのが聞こえ、俺はさらに絶句した。
(は?思ったより出てない…?!これが?!)
仁さんとパンチングマシンを交互に見比べ、口を魚のようにパクパクとさせた。
完全に言葉を失った。
「……楓くん?」
仁さんが不思議そうに俺の顔を覗き込んできて
はっと我に返り、引きつった笑みを浮かべた。
「い、いえ…ま、参りました」
「…ふっ、じゃあ俺の勝ちってことで」
仁さんがニヤリと笑う。
その顔は、先ほどガンシューティングで見た真剣な顔とは違い
いつもの穏やかな仁さんだったが
その奥に隠された底知れぬ力が、今ははっきりと見えた気がした。
(……お、俺が勝てるわけない…!)
俺は完膚なきまでに叩きのめされ
自分の予想と目の前の圧倒的な力の差にただただ呆然とするしかなかった。
その後、フードコート付近の自販機前まで移動し約束通り仁さんに缶コーヒーを奢ると
「楓くんなに飲みたい?」
と財布を取り出しながら聞いてきて
思わず「えっ」と聞き返してしまった。
「俺、負けたのにいいんですか?」
「あー、あれハッタリ。最初から楓くんに奢ってあげるつもりだったから」
「あ、えっ、そうだったんですか…?」
「そう、その方が本気でできたでしょ」
「確かに……っ」
「じゃ、ほら、楓くん好きなの選んで」
自販機に500円玉を入れ、そう言われ率直に答えた。
「じゃあ…暑いのでレモンティーがいいです」
仁さんは「コレか」と呟き
一番下の段の左側にある500mlペットボトルのレモンティーのボタンを押した。
仁さんは素早くお釣りを回収し
ガシャンっと落ちてきたそれを取り出し口から拾うと、俺にはいっと手渡してくれた。
お礼を言って受け取ったレモンティーはキンキンに冷えていた。
近くのベンチに並んで座り
仁さんはプルタブを、俺はキャップを外して飲み始めた。
ひと口飲むと柑橘系の甘い香りが鼻から抜けていった。
普段あまり炭酸飲料は飲まないけど
このレモンティーは甘すぎなくてゴクゴク飲めてしまう。
少しの無言の後、仁さんが口を開いた。
「ところで楓くんってさ、運命の番っていると思う?」
「と、唐突ですね。まあ、いると思いますけど…」
飲んでいたレモンティーから口を離し、そう答えた後に
仁さんの方に視線を送りながら、逆に聞き返してみることに。
「仁さんは信じてないんですか?」
「いや、じてない訳じゃないけど…俺って特異性
aだからさ」
「Ωの匂いに鈍感ってのもあって、見つけづらいし」
「特異性α?え、仁さんってΩの匂い感じないんですか…?」
「そうそう、だから楓くん助けに行ったときもなんの匂いもしなかったから、そういう面では特異性
αって警察とか保護局向きなんだよ」
「な、なるほど…だからあのときあんな冷静に…」
「でも、じゃあ今までΩの匂い嗅いだことないってことですか…?」
「そりゃ、気になる子はいるけど…その子も楓くんと同じフェロモンブロッカー依存症みたいで」
「えっ、その人も俺と同じで発情しないってことですか…?」
「ああ、だから運命の番とか本当にいるもんなのかなって、思わざるを得ないんだよ」
「αでもそういうのがあるなんて…仁さんも大変ですね」