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(もう駄目……せっかく一流企業に転職できたのに、私ったらいったい何をやってるの!)
絶望に打ちひしがれた花梨は、泣きたい気持ちになる。
その時、背後で柊がもぞもぞと動いた。
「ん……起きたか?」
「か、課長!」
「おはよう」
朝の挨拶をされても、距離があまりにも近いので、花梨は戸惑う。
「お、おはようございます」
「酒は抜けたか?」
「は、はい……」
柊が花梨の腰から手を離すと、彼女は一気に自由の身になる。
慌てて身体を離し、柊の方を向いて言った。
「本当に、申し訳ありませんっ!」
柊はあくびをしながら言った。
「なんで謝るんだ?」
「そ、それは……」
「こうなったのは、すべて俺の責任だ。いくら酔った勢いで部下に告白され、交際を申し込まれたとしても、いきなりこんな関係になるなんて上司として失格だ。ただ、幸いなことに俺は独身だし、今回の件に関してきちんと責任を取るつもりだ。だから、君は何も心配するな」
その言葉に、花梨はさらなる絶望感を覚える。
「え、えっと、私が課長に告白……を?」
「うん。覚えてないのか?」
「はい……交際を申し込んだっていうのも本当ですか?」
「うん、それも覚えてないの?」
「い、いえっ、お、覚えて……るかな?」
花梨はまったく記憶になかったが、こういう場合どう答えるのが正解か分からない。
酔った勢いの冗談だったとごまかすこともできたが、それでは柊に恥をかかせてしまうのでなんとも気まずい。それだけは避けたかった。
「……ということだから、昨夜言った通り、俺たちは恋人としての交際をスタートした。いいね?」
(か、課長と、わ、私が恋人!?)
頭の中がパニックになっている花梨は、ただ曖昧に頷く。
(いったいどうしてこんなことに? ああ、私のバカバカ!)
地団駄を踏みたい気分だったが、ベッドの上ではそれも叶わない。
「とは言っても、俺たちは同じ職場の上司と部下の関係だ。会社ではこれまで通り接してもらうよ。そういうことでよろしく!」
花梨はどう答えていいか分からず、ひきつったまま作り笑いを浮かべた。それをOKの返事だと受け取った柊は、にっこり笑って言った。
「先にシャワーを浴びてきたら?」
その言葉に、花梨はギョッとする。
(昨日はお風呂も入らないまま、課長に抱かれたの?)
その事実に、さらに落ち込む。
「行かないなら、俺が先に浴びるぞ?」
「い、いえ……じゃあ、お先に失礼します」
花梨は落ちていたカットソーを慌てて着ると、カーディガンとデニムを手にして逃げるようにバスルームへ向かった。
そんな花梨の後ろ姿を、柊は笑いをこらえながら目を細めて見つめていた。
身体を洗っている間、花梨はバスタブにお湯を張る。
丁寧にシャンプーをしていると、上品なバラの香りがバスルームに一気に広がっていった。
いつもならうっとりする香りだが、今はそんな余裕はない。
その時、ふと疑問が湧き上がった。
(本当に私は課長と寝たの?)
あまり実感のない花梨は、身体中のシャボンを洗い流してから、大きな鏡の前に立った。
すると、首筋と胸元に赤紫色の痕跡があることに気づいた。
(わわっ、キスマーク?)
その瞬間、花梨はへなへなと崩れ落ちる。
(やっぱり、やっちゃったんだ……)
あまりの絶望感に、花梨は両手で顔を覆った。
その後、花梨は湯船に浸かりながら、必死に昨夜の記憶を手繰り寄せようとした。
かすかな記憶の中に、課長のたくましい腕と厚い胸板の感触が蘇った。
しかし、それ以外はまったく何も思い出せない。
その時、柊の言葉が脳裏に浮かんだ。
『昨夜言った通り、俺たちは今日から恋人としての交際をスタートした。いいね?』
『俺たちは同じ職場の上司と部下の関係だ。会社ではこれまで通り接してもらうよ。そういうことでよろしく!』
「あーっ、なんてことなの! これからいったいどうすればいいのよーっ!」
自分のふがいなさに、花梨はただただ頭を大きくうなだれた。
バスルームを出て髪を乾かし、軽くメイクを終えると、花梨はリビングへ戻った。
柊はまだ寝室にいるようだ。
寝室のドアをそっと開け、花梨は柊に声をかけた。
「お風呂空いたのでどうぞ」
「ん、ありがとう。じゃあ入ってくるかな」
柊はそう言ってベッドから起き上がった。
ダークグレーのニットトランクス一枚の柊は、思わず見惚れてしまうような身体つきをしていた。
日焼けした肌に、ほどよく筋肉のついた引き締まった肉体。
その姿には、大人の男の色気が溢れていて、花梨は恥ずかしさのあまり思わず目を背ける。
(あの魅力的な身体に私は抱かれたの?)
そんな風に想像しただけで、花梨の身体の芯が疼いてきた。
(ダメダメ、ダメよ花梨、落ち着いて!)
なんとも言えない表情を浮かべている花梨の頭を、柊は楽しそうにポンと撫でてバスルームへ向かった。
「はぁ~っ」
柊がいなくなると、花梨はリビングに戻ってソファに腰を下ろした。
「どうしよう……これからどんな顔で毎日仕事をすればいいの?」
そう自問しながら、花梨は再び重いため息をついた。
コメント
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もぅ、柊さまったら〜〜🤣 お印😘💋まで付けちゃって😁 お主😎も悪よのう……🤭🖤
柊様‼️花梨ちゃんを嵌めたでしょ 花梨ちゃん 忘れちゃった事に落ち込んでいるけど…この後の柊様のネタばらしが楽しみ^_^ このまま恋人になって 結婚した後に実は…と話すのかな? マリコ様 次の更新がすごく楽しみです
あらららら、これはどういう展開?🤭 まさかこんな作戦とは‼️ 胸元の💋マークは本物ね? いつまでこのままだろ⁉️😆😆😆