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奏が瑠衣の様子を見て、『そうだ!』と何かを思いついたようだった。
「ねぇ瑠衣ちゃん。コンクールの曲なんだけどさ、『トランペットが吹きたい』にしない? それで、『トランペットラブレター』は……響野先生に気持ちを伝えるために、こっそり練習しようよ」
「え? 響野先生に音楽で気持ちを伝えるの? キツい言葉が飛んできそう……」
奏が艶然とした表情を見せながら、指先で長い黒髪を耳に掛ける。
その仕草は、怜に愛されている証なのか、瑠衣と同学年なのに色香が半端ない。
「奏ちゃん、さっき『トランペットラブレター』を吹いている時、泣いてたでしょ? 多分なんだけど、瑠衣ちゃん、響野先生の事を考えながら吹いてたのかな? って思ったんだよね。泣いちゃうほど瑠衣ちゃんは、響野先生の事、大好きなんだよ」
「…………」
「言葉で想いを伝えるのが一番いいけど、音楽でも気持ちは伝えられると思うんだよね」
俯き加減で唇の横のホクロに指先を当てて考えている瑠衣に、奏が真剣な面差しを向けながら、小さな肩にポンっと触れた。
「って事で、今まで通り、この二曲を練習していこう? いいかな?」
「…………うん。いいよ」
「じゃあ、『トランペットラブレター』は隣のリビングに響野先生がいるから一旦中止して……『トランペットが吹きたい』を頭から吹こうよ」
「うん」
奏がグランドピアノの椅子に腰を下ろし、涼やかな風のようなイントロ部分を奏で始めた。
練習を済ませた瑠衣と奏がリビングへ入っていくと、侑と怜は男同士ならではの会話でもしていたのか、女性二人を見た途端、急に黙り込んだ。
その様子に気付いた奏が、鋭いツッコミをすかさず入れる。
「あ! 怜さんと響野先生、もしかして私と瑠衣ちゃんの悪口でも言ってたんでしょ?」
「そんなワケねぇだろ? 『俺のフィアンセ、いい女だろ?』って侑に言ってただけだ」
怜が苦笑しながらも慌てて弁解すると、侑が『…………こいつは本当に音羽さんが大好きなんだな』とフォローするように口を挟んだ。
そんな三人のやり取りを、無言で見つめている瑠衣。
二人が出会い、付き合うまで様々な出来事があった事を知ったとしても、オープンに愛情を表現する怜が、男性にしては珍しいとも思うし、やはり羨ましいと思う。
怜が腕時計をチラリと見やり、ニコリとしながら侑と瑠衣に言った。