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次の朝、黒板に書かれた「ルール」は、昨日とは別の罰を告げていた。


《本日の罰:人格削り/嘘と暴露で100点を狙え》


無表情のまま板書する担任の背中に、生徒たちはもう笑わなくなっていた。代わりに目が光る。興奮とも空腹ともつかぬ熱が、教室に立ちのぼる。


「今日は“心”の番だってさ。昨日は殴ったけど、今日は中身をバラそうってことか。どうする、日下部? お前、何か知ってんだろ」


男子のひとりが挑発的に笑い、日下部の肩を叩いた。が、彼は微動だにせず、教壇の遥に視線をやる。今日の標的もまた、遥だとわかっていた。


「やらせねえよ」


日下部の声は、静かで、鋭かった。


「俺は……お前らのルールには従わねえ」


教室が凍る。


「へえ……“裏切り”って点数、高かったよな?」


女子がにやりと笑いながらスマホを構える。その目はカメラ越しに遥を見据えていた。画面の中、彼は立たされている。椅子のない教壇。誰も庇わない壇上。


いや――誰も、ではない。


日下部が一歩、前に出た。


「やりたいなら、俺を使え。俺のことなら、なんでも暴いてみろよ。弱いって言ったんだろ? 俺が」


「……日下部」


遥が、初めて彼を見た。


その目に、何かが戻っていた。痛みか、怒りか、希望か、言葉にはできない。けれど確かに、何かが――


「じゃあ、日下部の“本当”で稼ごうか。嘘でもホントでも、響けば点になるんだしさ」


教師が笑っていた。ゆっくりと椅子に腰を下ろし、机にひじをつきながら、生徒たちを促すように言う。


「いい? 今日は“心”をえぐる日。それが“本日の教育”です。はい、スタート」


チャイムも鳴らないまま、授業が始まる。


遥は見ていた。日下部の背中を。殴られ、嘘を吹き込まれ、怒鳴られ、嗤われ、それでも立つその背を。


彼は知っていた。もう遥ひとりの戦いではないということを。



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