夜、いつまで待っても帰ってこないロロが心配でドアの前でうろうろしていた。
「俺が怒らせたせいで、帰ってきてくれないのかな、、、」
少しでも気分を落ち着かせようとコップにコーヒーを淹れた。
「大丈夫かな、、、」
一人になるのが怖いわけではない。ただ、いつも隣にいてくれる君がいないと、少し寒い。
ガチャッ
ドアが開いた。ドアの隙間から隠れるようにロロが覗いてきた。
ロロと目があうと驚いたような顔をした。
気づいたらロロに抱きついていた。
「ルツ、、、コップ、割れちゃった、、、ルツの、お気に入りのコップ、、、」
どうもコップを落としたらしい。香ばしいコーヒーの匂いとロロの少し甘い匂いがした。
目が熱くなって、思ってもない言葉が出た。
「バカ〜!!バカ!バカ!ぐすっ、何で、帰ってこなかったんだよ!うぅっバカァ!」
涙が出て止まらなかった。ロロの服が涙で染まっていく。
寂しかった。
ロロがたまにフラッと何処かに行って。
怖かった。
もう帰ってきてくれないと思った。
目を見開いて動かないロロが我に帰ったように言った。
「ごめんさない、ルツ。ごめんね、ごめん。」
声が微かに震えた。
抱きしめているから顔が見えない。
「ロロ、ご飯たべよ?」
「うん。」
立ち上がるとロロが服の裾を握って俯いたまま小さな声を出した。
「、、、ルツ。」
「なあに?」
「今日、一緒お風呂入ろう?
、、、前みたいに」
ロロにとって“前”っていつなんだろう。誰かと一緒にお風呂に入ることは俺はあんまりなかったけれど、ロロは違ったと思う。
「うん。いいよ。一緒に入ろう。」
ロロがこう言ってくれる事が嬉しい。とても勇気がいると思う。だってロロは、
「コップ、割れちゃったね、、、。」
忘れてた。
ご飯を食べて、お皿を洗っているとお風呂が沸いた。ロロが寄ってきて、入ろっかと言ってきたので素早く終わらせた。
「ロロ、先入ってて、石鹸無くなってたからとってくる。」
「、、、わかった。」
石鹸を手に取ると清潔感のあるいい香りがして気分があがった。
「ルツーー。まだ?」
「はーい」
急いで風呂場の扉を開けた。
湯気が視界を覆い白く暖かい世界が広がる。
が、すぐに湯気は消え、いつもの狭い風呂場に戻っていった。
「熱いや。」
ロロが浴槽のふちに足先だけ入れていた。
「そう?ちょっと水入れようか?」
「うん。」
少しぬるいお湯に浸かってロロを見た。
肩下までの黒い髪。紅を帯びた眼。幼く整った顔。まるで作り物のドールみたいだ。
ある一部を除いては、
左半身。鎖骨の下辺りから太もも辺りまでの
火傷痕
見るだけであの日の事を思い出す。きっとロロ自身もそうだろう。
あの日、
口に出すことすら許されなくなった。
言葉がある。
ロロにいつか、言ってあげたい言葉だ。
聞くだけで心が溶けていくような言葉。
過去に俺が言ってしまってロロを混乱させてしまった。いつか普通に言える日がくるのかな。
「ルツ?」
「ん?ああ、何でもないよ。、、、ロロ、」
「?」
水に濡れた髪が光った。
「俺が髪洗ったげる。」
何でこんな事言ったのかは分からない。
ただロロの驚いた顔が見たいだけかも知れないし、愛おしい彼に少しでも愛情を知ってほしいからかもしれない。
驚いた顔をしていたロロがコロッと表情を変えて笑った。
「じゃあルツの髪は俺が洗うね!」
こうやって一緒にお風呂に入ってお互いの髪を洗い合う姿を誰かが見たら何と思うのだろう。
親友?愛人?どんなふうに見られたって構わないでも、叶うのなら俺たちが家族に、兄弟のように見えてくれないだろうか。そうすれば、こんな『家族ごっこ』も少しは本物になるのではないだろうか。
風呂場の窓は暗闇に包まれ、部屋の明かりがスポットライトのように青年の皮を被った子供達を照らした。
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