テラーノベル
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週末まで、凛の周囲では特に変わったことは起きなかった。
西岡は一度も凛のフロアに姿を見せず、奈美は昨日から休みを取っている。
同僚たちは「有休だろう」と言っていたが、実際には会社から自宅謹慎を命じられているのかもしれない。
いずれにせよ、目障りな二人がいないおかげで、凛は落ち着いて仕事に集中できた。
終業時刻を過ぎ、帰り支度をしていた凛の携帯に、颯介からメッセージが届いた。
【今日、食事しないか?】
思いがけない誘いに、凛の胸が弾んだ。
颯介に会うのは、この前の土日以来だ。長い夢のような時間を過ごしたあと、顔を合わせてはいない。
仕事のことやストーカー騒ぎのその後については電話で話していたが、実際に会うとなると少し緊張する。
それでも、会いたい気持ちは募っていたので、凛はすぐにOKの返事を送った。
迎えに来てくれるというので、凛は会社の裏手に回り、彼の車を待った。
十分ほどで、颯介の車が滑り込むように到着した。
「お待たせ」
「迎えに来てくれてありがとう」
凛がシートベルトを締め終えると、颯介が尋ねた。
「何が食べたい?」
「うーん、たまにはファミレスとかもいいなぁ」
いつも高級店ばかり連れて行ってもらっていた凛は、あえてそう答えた。
「意外なリクエストだな……」
「ふふっ、ファミレスってたまに行きたくなりません?」
「たしかに」
颯介は帰り道にあるファミレスをカーナビで探し、「ロイヤルガーデンでいい?」と確認してから車を走らせた。
走り出してすぐ、颯介が尋ねる。
「彼女は会社に来てる?」
「ううん、休んでる。このまま辞めるのかも……」
「そっか。西岡の方は?」
「うちのフロアでは全然見なくなったからどうだろう。そろそろ田辺部長から異動の話がいってると思うけど……」
「そっか。来週になればはっきりするのかな」
「そうかも」
空気が重くなったところで、颯介が話題を変えた。
「おふくろに、君との婚約のことを話したよ」
その言葉に、凛は思わず息を呑む。彼の母の反応が気になった。
「それで……ど、どんな反応でした?」
「そりゃあもう、大喜びだよ。『早く凛さんを連れてきなさい』って。だから、近いうちにまた招待するよ」
「わぁ……楽しみにしてます」
凛はその日が待ち遠しくなった。
「君のご実家にもご挨拶にいかないとな」
「遠いから、まとまった休みのときにでも……」
「そうだね」
颯介は穏やかに言った。
ほどなくして、二人を乗せた車はファミリーレストランに到着した。
「ファミレス久しぶりです」
「俺もしばらく来てないな」
「あっ! モンブランスイーツフェアやってる!」
店の前ののぼりを見て凛が嬉しそうに声を上げると、颯介がくすっと笑った。
「なんで笑うんですか~?」
「いや……ちょっとね」
「気になるから、ちゃんと言って!」
観念したように、颯介が微笑んで言った。
「実はこのファミレス、おふくろも行きたがってたんだけど、その理由が分かったんだ」
「理由? それって何ですか?」
「凛と同じで、おふくろも『栗』が好きなんだよ。だから来たがってたんだ」
「ああ、なるほど……」
凛はにっこり微笑んだ。
そのとき、颯介が手を差し出す。
凛は迷わずその手を握ると、二人は手を繋いだままレストランの入口へ向かった。
店に入ると、二人は奥の窓際の席へ向かい合って座った。
「何にする?」
「私はエビと魚介のフィットチーネにしようかな。デザートはモンブランパフェ!」
「サラダは?」
「いらない……デザートがあるから」
「了解。俺はステーキセットにするかなぁ。あとは、ドリンクバー二つね」
颯介はそう言って、タブレットに入力した。
庶民的なレストランにいる颯介を見るのは、どこか新鮮だった。
いつもは彼の行きつけのしゃれた店ばかりだったので、なおさらそう感じる。
どんな場所でも自然体でいられる彼を見ていると、結婚後の生活がなんとなく想像できた。
スーパー、デパート、ホームセンター……どこへ行っても、彼はこうして自然に馴染むのだろう。
そこには、年上ならではの余裕が漂っていた。
料理が運ばれてくると、二人は会話を楽しみながら食事を堪能した。
デザートが届くと、颯介はモンブランパフェを嬉しそうに頬張る凛を見て、目を細めた。
ゆったりとコーヒーを飲みながら凛を眺めるその表情には、満ち足りた雰囲気が漂っていた。
「なあ、凛」
「何?」
「いつ結婚してくれる?」
その問いに、凛は思わずくすっと笑った。
どうも今日の颯介は、いつもと違うらしい。
「いつって……いつ頃がいいの?」
「早い方がいいな」
「ふふっ、せっかちね。私たち、まだ付き合い始めたばかりよ」
「期間なんて関係ないさ」
まるで思春期の男の子のようにせかす颯介に、凛はまた笑ってしまう。
「真壁さん、なんか今日、いつもと違いません?」
「そうかな……あ、それと、その『真壁さん』って呼び方、いい加減やめないか?」
「あっ」
凛は思わず口に手を当てた。
「じゃあ……颯介さん……かな?」
「いいねぇ。でも、ベッドの上では呼び捨てで頼むよ」
その言葉に、凛は顔を赤らめてこう叫んだ。
「こらっ、颯介っ!」
「ははっ、おふくろみたいだな」
「ええっ? あの優しいお母様にもそんな時期があったの?」
「うん。子供の頃はね」
「想像できない……」
「結構、怖かったよ」
「そうなんだ……」
二人は目を見合わせ、くすくすと笑った。
そのとき、誰かが席に近づいてきた。
「ずいぶんと楽しそうね」
その声の主は、なんと沢渡奈美だった。
奈美の姿に、二人は息を呑む。
「沢渡さん……どうして、ここに?」
「ふんっ、そんなことどうでもいいじゃない、この泥棒猫っ!」
奈美はそう叫ぶと、凛の頬を激しく叩いた。
「きゃっ!」
「やめないか!」
颯介の低い声が響く。
凛はとっさに頬を押さえた。
「大丈夫か?」
「ええ……」
「君はここにいて」
凛を気遣いながら立ち上がると、颯介は奈美の腕をつかんで出口へ向かった。
「痛いっ、離してよっ……」
周りの客たちは驚いた表情で、三人を交互に見ている。
凛は不安を抱えたまま、窓越しに様子をうかがった。
二人は駐車場で激しく口論している。いつも穏やかな颯介が声を荒げているのがわかった。
しばらく言い争ったあと、颯介は携帯を耳に当て、どこかへ電話をかけ始めた。
(えっ、まさか警察……?)
そう思った凛は、慌てて席を立ち、会計を済ませて駐車場へと急いだ。
コメント
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ナミはもう恥もかき捨てて必死⁉️全然相手にされていないのに‼️ せっかく楽しい時間を過ごしていたのにこんなのに邪魔されて 残念😡
(||゚Д゚)ヒィィィ!幸せ絶頂の2人のやり取りにホラー並みに出現した奈美。颯介さんに全く相手にされてないのに凛ちゃんに泥棒猫呼びでビンタって😱😱 これで完全に颯介さんを怒らせたね。ストーカー&傷害で警察に突き出しちゃう?

イミフ〜。ストーカーにアレコレ言われたくないし。これって傷害になるんじゃないですか?盗聴器も含めてやっぱり警察案件でしょうか?