テラーノベル
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凛が店の外へ出ると、颯介は電話を切ったところだった。
奈美はふてくされた表情のまま、腕を組んで颯介を睨みつけている。
(異常だわ……どうしてここまで執着するの?)
凛に気づいた颯介は、来るなと手を上げて制止した。
凛はその指示に従い、植え込みの陰から様子をうかがう。
「いい加減、俺を追い回すのはやめてもらえないか?」
冷たく言い放つ颯介に、奈美が食ってかかった。
「どうしてそんなに冷たいの? 前は、そんな人じゃなかったじゃない!」
「前? いつの話だ? 俺と君は、もともと知り合いじゃなかったよな?」
「忘れたの? あなた、私と付き合ってたじゃない!」
そう言うなり、奈美は突然激しく泣き出した。
そんな彼女に颯介は驚いていたが、深く息を吸い、落ち着いた声で問いかけた。
「君、俺を誰かと勘違いしていないか?」
その言葉に、奈美はハッと顔を上げる。
「勘違いなんてしてないわ。あなた、私と結婚するって言ったくせに、婚約破棄した女のところに戻ったんでしょう? ひどい、裏切りよ! あんなに私を愛してるって言ってくれたのに……ううっ……」
叫ぶように言うと、奈美はさらに泣き崩れた。
颯介は困惑し、言葉を失う。
奈美の様子から、彼女が颯介を『元恋人』と完全に取り違えているのは明らかだった。
いつから勘違いが始まったのかは分からないが、彼女の中では颯介がその男に置き換わってしまっている。
凛のことは、その男性の元婚約者だと思っているのだろう。
どう見ても、今の奈美は心が不安定だった。
その事実に、凛の胸も重く沈む。
そのとき、サイレンを鳴らさずに一台のパトカーが到着した。
おそらく颯介が呼んだのだろう。
パトカーからは男女二名の捜査員が降り、颯介のもとへ向かって事情を聞き始めた。
しばらく説明が続いたあと、颯介が凛を手招きしたので、凛もそちらへ向かう。
「彼女が私の婚約者です」
凛が挨拶しようとした瞬間、聞き覚えのある声が響いた。
「凛! 凛じゃないか!」
顔を上げると、そこには凛の叔父が立っていた。
「叔父さんっ!」
凛も思わず声を上げる。
「いや~、まさかお前が関係してるとはな……すごい偶然だな」
「私もびっくりしたわ。でも、叔父さんの管轄ここじゃないでしょう?」
「あれ? 聞いてない? 四月にこっちへ異動になったんだよ」
「そうだったのね」
驚いている姪に向かって、叔父が尋ねた。
「で、こちらの方が婚約者っていうのは本当なのか? いつの間に婚約したんだ?」
そこで颯介が口を開いた。
「ご挨拶が遅くなりすみません。真壁と申します。凛さんとは先日婚約したばかりで、いずれご実家にもご挨拶に伺うつもりでいます」
そう言って、凛の叔父に名刺を差し出した。
「これはこれは。おお、不動産関係のお仕事ですか。じゃあ凛とは職場で?」
「いえ……」
「叔父さん、同じ職場ではないけど、お仕事を通じて知り合ったの」
「そうか、東京でいいご縁があってよかったな。申し遅れました、私は東北沢署・生活安全課の二階堂です。いや~、まさかこんな形で姪の婚約者に会うとは思ってもいませんでしたよ。ははは」
そのとき、奈美が突然叫んだ。
「いったいなんなのよっ!」
そばにいた女性捜査員が慌てて彼女をなだめる。
「では、事情は今伺った通りで間違いないですね」
「はい。彼女の会社も、この件については把握しています」
「承知しました。では沢渡さん、署で詳しくお話を伺います」
その言葉に、奈美は凛の叔父をじろりと睨んだ。
「必要なら、私も同行しますが……」
「いえ、大丈夫です。見たところ、彼女側の問題のようですし、何かあれば連絡します」
「分かりました。では、よろしくお願いします」
「任せてください。じゃあな、凛。今度ゆっくり真壁さんと遊びにおいで」
「叔父さん、ありがとう。あとのこと、よろしくお願いします」
「うん。じゃあな。それでは、失礼します」
凛の叔父は颯介に軽く会釈をすると、奈美を連れてパトカーへ向かった。
走り去るパトカーを見送りながら、颯介がため息まじりに呟く。
「いろいろ抱え込みすぎて、心が壊れちゃったんだな」
「ですね……。でも、GPSのことはどうして言わなかったの?」
「きっと正気に戻ったら、自分から話すだろう。それを待てばいい」
凛はその言葉に微笑む。
「優しいのね」
「ははっ、そうかな」
「ふふっ、せっかく褒めたのに」
「俺が優しくする相手は、凛だけだ」
その言葉に、凛は思わず颯介を見上げた。
すると、彼は優しい眼差しで凛を見つめ返す。
その温もりに包まれたくなり、凛は思わず抱きついた。
「ありがとう、いつも守ってくれて」
「当然だよ。凛は俺の大事な人なんだから」
「ふふっ、なんか照れちゃう」
「これからは一生、俺が守ってやるから」
その言葉が胸にじんと響き、凛はさらに強く抱きついた。
颯介も嬉しそうに凛を抱きしめる。
「ここじゃ続きはできないな……。俺の事務所に行く?」
凛は顔を上げて笑顔で言った。
「うちの方が近いから、来る? 狭いけど……」
「いいの?」
「うん」
凛は満面の笑みで答えた。
それから二人は手を繋ぎ、車へと歩き出した。
コメント
17件
奈美ー妄想が凄すぎる💦どーしてこーなった⁉︎病みすぎで怖いよー😱 まさか演技?取り調べで明らかになるだろうけど…警察に連れてかれて、とりあえず一件落着かな😌💭 ホッと一安心の2人、甘ーい時間を過ごしてください( *´艸`)
奈美・・・演技のような気もするのだけど。 ★いつもみなさんのコメント楽しみにしてます。今日は思い切って参加してみました♥
奈美、大丈夫?妄想もここまで来ると恐ろしいね。 凄いストーカーだわ。 まさか薬なんてしていないよね?