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「何を…………ですか?」
瑠衣がおずおずと尋ねると、拓人は唇を小刻みに震わせつつグッと引き締め、ステアリングを掴んでいる手にも僅かに力が込められたように見えた。
何かを決心したように、拓人が焦らすように口を開く。
「あの娼館を…………放火させる人員を募集していると思われる闇バイトの広告……」
「!?」
瑠衣は愕然としたまま、濃茶の瞳を見開いた。
拓人が見た内容は、『二〇二四年十二月初旬、小型タンクに入った液体を、赤坂見附の洋館で待機している人に手渡すだけの仕事を数名募集』というもの。
その広告でも、詳細は記載されているURLにアクセスするように書かれてあったという。
拓人も詳細を閲覧したらしい。
「恐らくだけど、小型タンクに入った液体は、ガソリンなどの燃料だったのかもしれない。俺があの広告を見つけた時には…………既に遅かった。テレビを付けたら、どのチャンネルも…………あの火災のニュースで持ち切りで…………」
日付が変わり、凛華が死亡した報道が流れた後、再び闇バイトの広告を探してみたが削除されていたとの事だった。
瑠衣は、当時の事を思い出したのか、項垂れながら両手で顔を覆った。
思い起こすと、娼館内は監視カメラが多く、セキュリティもしっかりしていたが、外の建物周辺は監視体制を敷いておらず、出入りしたい放題だったかもしれない。
ニュースでは放火の可能性が高い、という事は分かっていたが、まさかそれが闇バイトで募集した人員によるものかもしれない、という事は考えもしなかった。
「凛華さんと…………他三人が……犠牲になってしまった……!!」
拓人は、怒りを押し殺しながら声を震わせていた。
彼は、闇バイトの依頼主が凛華と瑠衣を狙っていると考え、あの娼館火災以降も怪しげな募集をチェックし続けていたという。
年が明け、検索する事に疲弊してきた頃、今回の闇バイト広告を発見した拓人は、迷わず監視役の仕事を応募した。
「瑠衣ちゃんの画像、あんなに載っていたんだ。依頼主は何としてでも君を追い詰めようと……いや、下手したら殺そうとしていると思ったんだ。凛華さんも犠牲になっているし、これ以上被害者を出さないために、俺は…………応募したんだ」
「そうだったんですね……」
瑠衣は俯き、視界が歪みそうになるのを耐える。
「中崎さん……。ご迷惑……お掛けして…………本当にごめんなさい……」
「謝らないでよ。俺が助けたくてした事だし、瑠衣ちゃんはあんな酷い事をされた被害者なんだから。さて……と、高速のインターが見えてきたから、ここから乗るか」
瑠衣は辿々しく頭を下げ、拓人に謝罪すると、彼は何事もなかったかのように笑みを含ませた。