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高速に乗った拓人の車は、順調に東京方面へと向かっている。
車内の時計を見ると午前三時半を過ぎている。
「中崎さん、眠くないんですか?」
「俺は平気だよ。瑠衣ちゃんがあの部屋で寝てる時、俺も寝てたし」
運転しながら『ハハッ』と軽快に笑いながら答える拓人。
「このまま行けば、五時前には東京へ着きそうだな。そういえば瑠衣ちゃん、あの火災の後は、どこに住んでるの?」
「東新宿です」
「…………そうか」
瑠衣の言葉に、拓人がどことなく残念そうな気落ちしたような声色でポツリと漏らすと、その先の言葉を繋げるのを躊躇うように聞き出した。
「それは…………先生の家……?」
「……え?」
瑠衣は動揺しながら瞠目した。
先生の存在は明かしていないのに、なぜ拓人が知っているのか。
瑠衣が答えを知りたそうな面差しを浮かべている、と感じた拓人がサラリと言葉を返す。
「いや、瑠衣ちゃん……………俺の正体を明かす前に『先生……会いたい』って無意識に呟いてたからさ。その先生と恋人同士なのかな? って思っただけだよ」
「…………」
拓人の言葉を聞き、顔がみるみる赤く染まっていくのを感じた瑠衣は、恥ずかしくなって黙り込んだ。
それ以降、瑠衣も拓人も話す事はなく、彼は黙々と前方に視線を送りながら車を走らせている。
車窓の外に視線を移すと、そろそろ日の出の時刻を迎えるのか、東の空が橙、黄色、青、紫紺とグラデーションを描き始めた。
日の出三十分前と日没後三十分は、空が最も美しい時間と言われるマジックアワー。
鮮やかに纏う空の色彩に、瑠衣は思わず『わぁ……綺麗……』と言葉を零した。
「なぁ瑠衣ちゃん。東京に入ったら、ちょっとドライブに付き合ってもらってもいいか?」
「え……?」
「そんなに長い時間は取らせないよ。いいか?」
「分かりました……」
瑠衣の返事にホッとしたのか、拓人は微かに唇を綻ばせ緩く弧を描かせると、『よし、東京へ帰るよ!』と声を弾ませた。