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直也が駐車場に急いで駆け付けると、栞がうつむいて立っていた。



「栞ちゃん、大丈夫か?」



彼の呼びかけに、栞は顔を上げた。その表情は、予想とは違い明るい笑顔だった。



「先生、見てたの?」

「うん、後ろからね」

「大丈夫です! 今のやり取り、私なりにうまく切り抜けられた気がします!」



栞の笑顔を見て、直也はホッと胸をなでおろした。同時に、彼女の心があの頃よりも確実に強くなっていることを、はっきりと実感した。



「よく頑張ったね! 君の元お姉さんはかなり手強そうだから、これからも何か言ってくるかもしれない。だから、困ったらすぐに相談しろよ!」



直也のあまりにも真剣な表情に、栞は驚いた。

彼がこんなにも自分のことを気にかけてくれていると知ると、嬉しさがじんわりと込み上げてきた。



「ありがとうございます」

「うん、じゃあ行こうか。何が食べたい?」

「何って……?」

「イタリアン、フレンチ、ドイツ料理、カレー、和食…….なんでもござれ!」

「うーん……じゃあ、イタリアン!」

「了解!」



直也は運転席に乗り込むと、栞がシートベルトを締めたのを確認し、車をスタートさせた。



車内で、栞はまだ興奮の余韻に包まれていた。

今日は初めて華子に言い返す事ができた。栞の言葉は、予想以上に華子の心に刺さったようだ。

かつての栞なら、決して口にしなかったような言葉だが、それは自分を守るために必要なものだった。

栞は初めて『自分を守る』という行動を実践したのだ。


自分を愛することは、自分を守ること。理不尽な扱いには、決して屈しない。

沈黙していれば攻撃が止まるどころか、さらに激しくなるだけなのだから。

直也の本に書かれていた『時には相手にマウントをやり返せ』という言葉の意味を、栞はこの時初めて理解できた気がした。

それと同時に、これまで偽りの優しさに騙され、搾取され続けてきた自分を恥じた。

自分を守れるのは、他ならぬ自分自身だということを、栞はようやく身を持って知ったのだ。



『あなたが自分自身を大切にしてあげなくてどうする?』



その一文が再び頭をよぎり、栞は確信した。『今、私は自分を大切にしているのだ』と。

その瞬間、全身がなんともいえない爽快感に包まれた。自分を愛し、自分を守ることが、こんなにも心地良いものだったなんて知らなかった。

思わず栞の表情が和らぐ。


直也は、運転の合間にちらりと栞の横顔を盗み見た。窓の外を眺める彼女の表情は、眩しいほどに輝いている。



(随分、大人になったな……)



栞はもう、あの頃の栞ではない。自分を大切にしながら、前向きに生きている。

その姿は、栞の確かな成長を物語っていた。

そんな彼女の変化を目の当たりにした直也は、嬉しくて思わず微笑んだ。


その時、栞が振り向いて直也に尋ねた。



「ねぇ、先生、どこのお店に行くの?」

「着いてからのお楽しみー!」

「えーっ? つまんない!」



栞はぷくっと頬を膨らませるが、怒っている様子はない。

そこで、直也は話題を変えた。



「そうだ! ムーミンなんちゃらにはいつ行く?」

「本当に一緒に行ってくれるんですか?」



栞の瞳が期待で輝いている。



「もちろん! 約束したからな。やっぱり土日がいい?」

「先生の都合に合わせます」

「そういえば、実家のクリニックが今度連休を取るんだ。兄貴が結婚してからまだ新婚旅行に行っていなくてさ……。で、来月最初の月火が休診になるんだけど、火曜ってどう?」



栞はバッグから手帳を取り出し、アルバイトのシフトを確認する。そして、にっこり笑いながら答えた。



「その日は一時限目だけ講義があります」

「バイトは?」

「ないです」

「じゃあその日にするか。一時限目が終わってすぐに向かえば、なんとかなるだろう?」

「はいっ!」



平日に行けると分かり、栞の心が弾んだ。

以前、綾香と訪れた際は日曜日だったため、テーマパークはかなりごった返していた。しかし、平日ならきっと空いているだろう。

ずっと行きたかったテーマパークへ、大好きな人と行ける。

例えそれが片付けのお礼だったとしても、栞にとっては特別なことだった。


すると、車が急に停まった。

栞が前方を見ると、高齢の女性が横断歩道を渡ろうとしていた。

直也が女性に「どうぞ」というジェスチャーを送ると、女性は微笑みながら会釈をし、ゆっくりと横断歩道を渡り始めた。

栞は、昔直也の車に乗った時、同じような光景を目にしたことがある。

直也は、どんな状況でも気配りが感じられる運転をしていた。道行く人や、弱者への配慮が感じられる運転だ。

そこには、大人の余裕が感じられた。


そこで彼女は、直也の運転と重森の運転を比べてみた。

重森の運転は、自分の腕前を誇示するような派手なものだったが、直也の運転はその正反対で、安全重視のとても丁寧な運転だ。

その時、栞の脳裏は、以前雑誌で読んだ一文がよぎった。



『運転の仕方ひとつで、その人物の人柄が分かる』



その言葉通り、運転には確かにその人の生き方や性格がにじみ出るのだなと思った。

思わず栞は、小さな声でぽつりと呟く。



「先生、いつも譲って優しい」

「そう? まあ、譲って見返りを求める~なんていう下心満載だけどね」

「下心って?」

「うーん、例えば、鶴の恩返し……いや、おばあちゃんの恩返しか! それとも、金の斧・銀の斧か? はたまた竜宮城への招待状とか? あー、どれか一つくらい返ってこないかな~」



直也はおどけて言った。

それが彼なりの照れ隠しだと栞には分かっていたが、あえて触れずに話を続ける。



「おばあちゃんの恩返しって、具体的には?」

「そうだなぁ…例えばある日突然ポストに札束が届いたり、宝くじの一等賞が当たったりとか?」

「それ全部お金目当てじゃないですか!」

「金は大事だぞ! 夢だけじゃ食っていけないからなぁ」

「夢見る年頃の女子に、そんな夢のないことを言わないでください!」



栞が嘆くように言うと、直也は声を上げて笑った。

思わず栞もその笑いにつられて笑い出す。



直也は感慨深かった。栞はいつの間にか、世間話にも楽しげに対応できるような女性へと成長していた。彼女の新たな一面を見るたびに、ますます彼女のことが愛おしくなる。

栞はこれから、もっともっと素敵な女性へと成長していくだろう。その変化を見守ることは、直也にとってこの上ない喜びだった。


間もなく車は、目的地付近に到着した。

コインパーキングに車を停めると、直也が言った。



「じゃあ、行こうか!」



栞はうんと頷くと、車を降りて歩き始めた直也の後ろを、嬉しそうな足取りで追いかけた。

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コメント

24

ユーザー

強く逞しく そして美しく成長した栞ちゃんを見て 幸せな気分になる直也さん…🍀 これからお食事に デートにと、楽しみがいっぱいだね〜😍💕💕

ユーザー

自分を守れるのは自分だけだよね🫶💕継母親子から搾取され続けた日々があったから余計に自分を守れる為に言い返せた事は成長したし強くなった(ㅅ´ ˘ `) まだ嫌がらせがあったら直也さんに相談してね!! 車の運転に人柄や性格でるでる😂 人に優しい運転できる直也さんはやっぱり紳士だよなぁ💕お互いを知れば知る程惹かれてくね(ღꈍ◡ꈍღ)

ユーザー

栞ちゃん華子に負けずと言い返した事で自信が付いて良かった😊栞ちゃん相手に言い返す事が自分を守る事だと気づいたね 強くなた栞ちゃん🌟👏 直也先生もそんな栞ちゃを見て安心した様子💕 そんな栞ちゃんの姿を見てまた惹かれ栞ちゃんも 気遣いや優しい直也先生の行動にますます惹かれお互い惹かれ合ってる2人ムーミンなんちゃらのデートが❤️楽しみになって来ますね💕🥰💕🥰 直也先生のムーミンなんちゃらって🤣🤣🤣☘️

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