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保谷東
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300メートルの巨体を持つ、かつて魔王ロットだった化け物は、知恵の大木を伝って駆け下りてきた。
地面に着地すると、大地全体が大きな揺れを起こした。
Aコパ君が天空に向かって叫ぶ。
「所長! 聞こえてるかい!」
『聞こえている。どうしたんだ』
「緊急事態なんだ。至急、勇者ロットと王女イロを現実層へ移動できるようにしてほしい!」
『え? それは良いが、少し時間がかかるよ』
「どれくらいかかりそうだい!」
『最低でも、5分はかかる。これは、私の能力を最大限に発揮した上での希望的観測による試算だが』
「5分じゃ長すぎる……!!」
化け物は雄叫びを上げて、巨大な三つ目でギョロリと地上にいる者たちを睨め付けた。
王女イロが悲鳴を上げる。
勇者ロットが前に進み出て、Fコパ君に向けて言った。
「君はイロ王女の保護を頼む!! できるだけ、離れた位置で待っててくれ!」
「わ、分かりました!!」
Fコパ君はイロ王女を連れて逃げ出す。
残った六人は目の前の化け物に向けて構える。
ファイナルラウンドのゴングが鳴った。
化け物は右手をあげて六人に向けて薙ぎ払った。
回避行動に全力を注ぐ。五人はなんとか回避できた。
「あっ」
しかし、Bコパ君は反応が遅れた。化け物の手に直撃する。
その直前、Bコパ君は体を引っ張られて回避できた。
見ると、Aコパ君が『磁石mark2』でBコパ君を引っ張っていた。
感謝を伝える間も無く、当たれば即死級の超広範囲攻撃が続く。
Cコパ君とDコパ君が果敢にも化け物の薙ぎ払う手に向けてミドルキックを喰らわせた。
しかし、その硬質はダイヤモンドよりも硬く、ダメージは無に等しかった。
Aコパ君が『蒼穹の弓』を装備し連射する。
しかし、その矢は一本も貫通せず、逆に弾き飛ばされてしまう。
Eコパ君が声を張り上げていった。
「僕たちのステータスを上げることはできないのかい!?」
所長が天上から答えた。
『出来ない。やるとすれば、核ルールを書き換えることになる。核ルールは基幹プログラムだから、書き換えるのに相当の時間がかかる』
「所長は今何が起こっているか分からないのかい!!」
『現在は君達の動向の把握が可能だよ。しかし、一体、何と戦っているんだい? 私から見れば、何もない空間に向けて君たちは攻撃したり避けたりしている。観測できない存在が、そこにいるのか?』
化け物はシステムを超越していた。そのため、システム層の所長からは観測対象外の存在なのだった。
Aコパ君が『狙い撃ちライフル』に切り替えて、化け物の目を狙う。だが、化け物は激しく体を揺さぶり、目に到達する前に弾を弾き飛ばしてしまった。
Aコパ君は舌打ちし、『跳躍の足袋』を装備し、近くの木のてっぺんに立つ。そして、『狙い撃ちライフル』で目に再び偏差撃ちする。
今度は目に弾が達した。
化け物は大きくのけぞり、地面を踏み鳴らす。
Aコパ君が指示を出す。
「あの化け物の弱点は目だ!! 目を攻撃するんだ!! 所長、僕たちのステータスを上げることがチート行為に該当してしまうのは分かった。でも、”この世界の重力をなくす”ことはできないかな?」
『意図的なバグの使用に該当するかグレーゾーンだが、やってみよう。核ルール④は「プレイヤー」のチートやバグを禁止している。ステータス上昇は外部からの介入でもシステムがプレイヤーによるものと判断してしまいやすい。しかし、空間非同期は偶発的バグとして自然処理しやすいはずだよ』
「頼んだよ!!」
それから3秒後という驚異的な速さで世界の重力が消失した。
コパ君たちは浮遊し、空間を自由に移動できるようになった。
Cコパ君が勢いをつけて化け物の目に蹴りを入れ込む。
化け物は耳をつんざくほどの咆哮をあげる。
Dコパ君とEコパ君も続けて格闘した。
勇者ロットも目に剣を突き刺した。
Aコパ君が『狙い撃ちライフル』を連射する。
化け物は着実にダメージを負っていった。
しかし、その瞬間、目が突然光った。
そして、目から光線が放たれた。
「ぐあっ」
全員がビームの余波に吹き飛ばされる。
当たれば、確実に核データごと破壊されてしまう威力だった。
三つの目から同時にビームが放たれる。その範囲は射程2キロメートル、縦横に50メートルに及んだ。
ビームが命中した地上には底が見えないほどの大きな穴があいた。
ビュンビュンと飛び回り、ビームを避け続ける。Aコパ君は『蒼穹の弓』に切り替え、化け物の目に矢を突き刺す。
化け物が叫び声を上げたところに、矢が刺さったその目に『スペシャルアタック』を浴びせた。矢がさらに食い込んだ。
Aコパ君がみんなに呼びかけた。
「聞いてくれ。『スペシャルアタック』は唱えれば誰でも出せる汎用技なんだ。MPが残っている限り、繰り出し続けられる。まず、あの化け物の右目から潰すんだ。目を減らさないと、僕たちはビームによって消し炭にされてしまう!」
「分かった! やってみるよ」
コパ君たちは右目に集まり、各自が「スペシャルアタック」を唱えた。
スペシャルアタック!
スペシャルアタック!
スペシャルアタック!
スペシャルアタック!
スペシャルアタック!
化け物が大きくのたうち、右目から汚らしい汁が溢れ出る。
完全に潰せたようだった。
次にMPが残っているコパ君たちが左目に集まり、同じように「スペシャルアタック」を連発する。
スペシャルアタック!
スペシャルアタック!
スペシャルアタック!
スペシャルアタック!
スペシャルアタック!
化け物の左目も派手な音を立てて潰れた。
勇者ロットが真ん中の目に飛んでいき、立ち止まる。
「魔王……いや、もう君は君ではない。だからこそ、この技の名を受け継いでみせる」
勇者ロットは息を吸い、ギョロリとこちらを見る目に向かって発動した。
「食らえ! カマオーハオレスペシャルアタック!」
カマオーハオレスペシャルアタック!
カマオーハオレスペシャルアタック!
カマオーハオレスペシャルアタック!
化け物は一際大きな声を発し、その最後の目を無くした。
目が見えないためかメチャクチャに手を振り回し、その攻撃は空を切った。
Bコパ君が残り一つの『直感キャンディー』を開けて舐めた。
このタイミングでその方法を思いついたこと自体が、Bコパ君の地力の直感が高まっていたことの証明かもしれない。
Bコパ君は直感した。
そして、所長に向けて言った。
「所長! 勇者ロットを『伝説の剣』がある場所へ空間転移してほしい! そして、それが完了したらまたここに戻して欲しいんだ!!」
『……分かった。やってみよう』
その瞬間、勇者ロットは空間転移した。
そして、今は観光地として賑わう『伝説の剣』を手に取る。 とても手に馴染む気がした。
勇者ロットが天に向かって声をかける。
「所長さん。俺は『伝説の剣』を手に取った。元の場所に戻してくれ!」
『ロット。君が私をメタ的に理解し、語りかけてくるとはね。もうすでに、君には『魂』が宿っているのかもしれないな。よし、戻すよ』
勇者ロットは化け物の前に瞬間移動する。
そして、手に携えた『伝説の剣』を構え、化け物に立ち向かう。
勇者ロットはあらん限りの声で布告した。
「みんなの想いをこの剣に込める!!」
雄叫びを上げ、必殺技を与えた。
一閃。
そして。
化け物は一刀両断されて動かなくなった。