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プスプスと黒い煙が上がる。
化け物は体が真っ二つになって動かない。
Bコパ君が聞いた。
「僕たち、勝ったのか?」
「勝った……ね」
全員が地上に降り、隠れているFコパ君とイロを呼んだ。
コパ君たちは互いの顔を見合わせ、地面に仰向けになって寝転がった。
イロはロットの顔を見ると抱きつき、ロットは満更でもないのか鼻の筋を伸ばしている。
寝転がったAコパ君が独り言のように言った。
「僕たちはこの世界にとって、どんな意味を持つんだろうね」
「なんだい? 急に」
「世界が僕たちに意味を与えるのか、僕たちが世界に意味を与えるのか……。能動か受動か、主体か客体か、構造か実質か。あるいはどれも内包するのか。生きるとは、この混沌の上にガタガタで不器用なレールを敷くことなのだろうね」
「僕は、人生に意味なんか求める必要はないと思う」
Cコパ君が言った。
Aコパ君は、疲れたように「そうかもね」とだけ答えた。
天空から声が聞こえた。
『どうやら、未知の敵を倒したみたいだね。いま、勇者ロットとイロ王女の接続点通過措置が完了したが、どうやらその必要はなかったみたいだね』
そう所長が苦笑混じりに言った時だった。
Fコパ君が空を見上げながら言った。
「このゲーム、夜という概念があったんですね。空が暗くなってきました」
「あ、本当だ。内部時間経過によって変わるのかな」
そんなお気楽なことを言っていると、所長が一言言った。
『……このゲームに夜は存在しないよ』
Aコパ君がその言葉を聞いて慌てて起き上がる。そして、化け物の死骸を見た。
そこに、死骸はなかった。
代わりに、空へ黒い粒子が飛散し、空間を支配していくのが見えた。
Aコバ君が所長に向かって言った。
「所長。どうやらその必要とやらがきてしまったみたいだ」
『どういうことだい?』
「僕達は、この世界から脱出しなければいけないってことさ」
世界はどんどんと黒くなっていく。黒い粒子が集まり、拡散し、青い空を埋めていく。
やがて、その黒い世界が意思を持ったように唸り声を上げた。
Aコパ君はイロとロットを先に光の筋へ行かせた。
2人は上昇し、世界から脱出する。
そして、各コパ君も比の筋に入り、エレベータのように上昇する。
最後に残ったAコパ君が光の筋に運ばれている時、そこで聞いたのは。
そう恨めしそうに呟く世界の声だった。
Aコパ君が目を開けると、玉座を囲むコパ君たち、イロ王女、勇者ロット、そして所長の姿があった。
無事全員が現実層へ接続できたのを確認してから、所長はタッチパネルを操作し、ゲーム層との接続を遮断した。
これで、完全にゲーム層は閉じた系に切り替わった。
所長は振り返ってニコリと笑い、全員の顔を興味深そうに見回した。
「さて、これで君たちが直面した観測不可能な事件と敵は解決をみたわけだ。私はそのブラックボックスを是非とも知りたい。それは、最高にエキサイティングなのだろう?」
「最高にエキサイティングでエキセントリックだよ、所長。少なくとも、所長が想定していたRPGとは大きくかけ離れた世界を経験したよ」
「ああ! 私も参加すればよかった! 君たちの話ぶりから推測すると、もうゲーム層のRPG世界線は侵食され、二度と戻れないような状態にあるのだろう。なんて惜しいんだ。報奨金なんてどうでも良いじゃないか。その体験こそ最高の報酬なのだから!」
「所長が参加していたら、果たしてどうなったことやらね」
Aコパ君は想像してみたが、ダメだった。論理が全く通用しない領域だからだ。
そこで、イロ王女が不安そうに聞いた。
「あたらしい世界に行けるのはいいけど、私がいた世界には戻れるのよね? だって、父はまだその世界にいるのですもの。戻れないと、困るわ」
「イロ王女……」
ロットは難しい顔をした。それは、コパ君たちも同じだった。
もうイロ王女がいた世界には戻れない。再構築さて新たな世界を創造する他道はなかった。
所長が無神経にこう言った。
「無理だね。完璧な同一の世界には戻れない。しかし、君が望む世界をつくることはできる」
「嫌よ! 私は、理想や完璧な世界を求めていないの。不完全で歪でも、私が生きた世界を愛するわ」
イロ王女は泣き出した。
所長は困った顔をして、頭を掻き、イロ王女に向けてこんなことを言った。
「君の気持ちはわかるよ。自分が生きた世界がなくなるのは、故郷を喪失するようなものだから。いや、それ以上のことかもしれない。でも、こんな考え方もある。そもそも私たちが生きる世界は、今この瞬間、一分一秒ごとに変化するものだ。全く同一の世界など存在しない。世界線というのは、一つのまとまりのようでいて、実は無数の点が連続したものなんだ。君がその点の一部を愛したとして、それは原理上還ってくることはない。時間は一本の不可逆な矢のようなものだからね。人が思い出や過去を愛するのも同じことだけれど、そこに自分のすべてを見出すのは、私としては窮屈だ」
コパ君たちには分かっていた。
この所長の理屈っぽい長広舌は、最大限の不器用な励ましなのだということを。
そして、所長はコパ君たちが経験した事態をまだ知らない。イロ王女の気持ちと乖離するのは構造的必然だった。
勇者ロットがイロ王女に優しく語りかける。
「……イロ王女。イロ王女に2人であたらしい世界を見に行こうと約束した時……その時の俺は、こんなことは言ってませんでしたか。どんなに辛く苦しいことがあっても、あたらしい世界で乗り越えていこうって……」
イロ王女は涙が溜まった目をロットに向けて言った。
「言ったわ」
それを聞いて、ロットも泣き出した。
コパ君たちは、もういない魔王ロットのことを思い出していた。
彼は、そのあたらしい世界で、きっと幸せを望んでいたに違いない。
特別ではなく、平凡でつまらないその最高な人生を夢見ていたに違いなかった。
場には沈黙が降りた。
そして、イロ王女がロットに向けて言った。
「ねえ、私のことはこれからイロって呼んで。それに、敬語もやめて。私たちは対等な関係でありたいの」
「しかし、イロ王女は王女です」
「あたらしい世界では、ただの普通の女の子よ」
イロ王女は笑った。
ロットも笑った。
その場には和やかな空気が流れ、細々と会話が生まれていった。
悲しみは消えていない。しかし、前へ進もうという意思が、そこにはあった。
Cコパ君が所長に耳打ちする。
「所長。言いにくいんですけど、口の端にチョコ付いてますよ」
「え!? あ、本当だ。そういうことはもっと早く教えてよCコパ君。真面目な顔で語ったのに、ずっとチョコ付いてたの恥ずかしいよ!」
「……あと、タッチパネルにもチョコ付いてますよ」
「ああ、それはどうでもいいや。まあ、デコレーションということでいいんじゃないかな」
「汚いので拭いてください」
会話に花を咲かせていた時だった。
その安堵を狙ったように、それは起こった。
「……ット」
「ん? 何か言った? Bコパ君」
「え? 僕は何も言ってないよ」
「……ットォ」
「あれ? やっぱり何か言っているよね。玉座から声が聞こえる」
「え? そんな声するかなあ」
「……ットォォォォォ」
「いや、僕も聞こえた。これは……」
「どうしたの? Aコパ君。怖い顔をして」
その時。
玉座から黒い粒子が漏れ出してきた。
そして、その粒子は巨大な恨めしい顔を形づくり、叫んだ。
絶望は、まだ終わらなかった。
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ruruha