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「…………トレーナーを探す…??」

「あぁ。ダービーまでにな」


頭がこんがらがった。

トレーナーを探すったって、僕には兄さんがいるし──。


「漆瀬トレーナーはまだ入院中だ。おそらくあと3ヶ月程入院しているだろう」

「えぇ………というか、ルドルフさんは───」

「私は生徒会の仕事があるからな。これ以上面倒を見ることはできない。すまないな」

「そうですよね………」


そうだ、兄さんは入院中だし、いつまでもルドルフさんに頼る訳にもいかない。トレーナーがいなきゃレースには出れないし。


「……大丈夫か?知らない大人とトレーニングすることになるが…。なるべく他のウマ娘がいないチームがいいよな」


ルドルフさんは心配してくれているみたい。そうか、面識もない大人がトレーナーになるのか………。


「…………出来ればリギルがいいです」

「私のチームか?確かにトレーナーは優秀だが、チームメイトは多いぞ?」


チームメイトもいるのか……でも、ルドルフさんがいるからいいと思ったんだけどな。

まぁ、できるだけ無視すればいいだろうし…。


「それでもいいです」

「……そうか。私から話をつけておくよ」

「はい」


もしそれまでにトレーナーが見つかったら、私に報告してくれと言って、ルドルフさんは生徒会室から出ていった。

僕も鞄を持って出ていく。失礼しましたと一言だけ言って。




「…………ふぅ」


夕陽に照らされたトレセン学園内の通路をゆっくりと歩く。

コールとのトレーニングを終わらせ、制服に着替えて帰るところ。

今日はトレーナーは見つからなかった。リギルのトレーナーは、僕が入ることを了承しなかったようだ。


………………コールのいるチームに入ればいいんじゃ……。


「…そっか」


確か入部テストももうすぐだっけ……。

すぐそこに掲示板があるし、ちょっと見てみようかな。


「えーっと、チームエリス入部テスト、場所はレーストラック、日時は…………6月1日……」


あぁダメだ、と肩を落とした。ダービーは5月29日だ。もうとっくに終わっている。

ふと、目を横にやった。


─────チームスピカ。入部しない奴はダートに埋めるぞ。


「…………怖っ」


ポスターはその言葉通り3人のウマ娘がダートに埋まっていた。

こういうチームにはなるべく近ずかないようにしようと思い、その場を後にする。


────今日はトレーナー見つからなかったな。明日には見つけたいな。

そんなことを思いながらぼーっと歩く。


すると、なにか柔らかいものがおでこにぶつかった。


「………!ごめんなさい…!」


慌てて上を見上げる。

そこにはマスクをつけ、サングラスをつけたいかにも怪しそうな5人組が僕を見つめていた。


「ウオッカ、スカーレット、スペ、テイオー!やっておしま〜い!!」

「………えっ?」


えっえっ、なにやるのなにやられるの。

ちょっとまってちょっとまってちょっとまってちょっとまって。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い────


「─────やっ」


布の袋を被せられ、この人達の足音に合わせて揺れる。

なにこれもしかして誘拐?まって何されるの?


「ちょっと離して……!」

「大丈夫だ。なんもしねーよ!」


いや、信用出来ないって………!

手は震えている。ダメだ抵抗できない。


─────ガチャ。


「トレーナー!連れてきたぞー!」


降ろされた。

袋を外される。

え?なにここ。部室?

僕の目の前には7人のウマ娘と1人のトレーナーが立っていた。


「─────ようこそ!チームスピカへ!」

「は?え?」


7人のウマ娘が一斉に言った。

チームスピカ?まってあのポスター……。


「ダートに埋めるやつ…………」

「お前も入部しなかったらダートに埋めるぞ〜」

「ひっ…」


1番背の高いウマ娘がそう言い、ビクッと肩を強ばらせる。

なにそれ、入るしかないじゃん。


「まぁとにかく、スピカに入れ。ユリノテイオー」

「…………なんでですか」


困惑しながらも問う。

いきなり言われてもな…………。


「お前、今トレーナーいないんだろ?皐月賞ウマ娘をトレーナーいないまま放っておくことは出来ないからな〜」

「………」


なにその理由……。

それなら他の信用出来るとこ行くよ………。


「……なら、僕に絶対ダービー取らせますか?菊花賞も」

「あぁ。もちろんさ」


即答だった。

………なら、信用出来るの?僕はここの、スピカのウマ娘になるの……?


「いいか?お前は今原石なんだ。原石は放っておいてもダイヤモンドにはならん。誰かが磨くんだ。だから、漆瀬トレーナーが戻るまで俺たちが面倒見るんだよ」

「…………!」

「納得したか?」


頷いた。すごく、ゆっくりだけど。


「よし!じゃあお前は今日から、スピカのメンバーだ!よろしくな」


そうか、そうだよね。

トレーナーがいなきゃ、レースには出れない。

でも、選択肢をこの人達が作ってくれたんだ。多分。


「…………よろしくお願いします」


そう言って、頭を下げる。


「じゃあ、アタシの名前はゴールドシップ。今からこいつらの名前1人づつ言っていくから、よーく聞いとけよ」

「はい」


そう言って、ゴールドシップさんが1人づつ名前を言っていく。

ダイワスカーレット、ウオッカ、スペシャルウィーク、サイレンススズカ、トウカイテイオー、メジロマックイーン。覚えきれるかな。


「で、なんて呼んだらいいの?」

「一応こんなかじゃ1番先輩なんだし、先輩呼びでいいだろ」

「でも先輩呼びは違和感あるじゃーん」


スピカのみんなが話し合う。

ていうか、先輩呼びは違和感あるってどういう意味……?


「ユリノさん、なんて呼べばいいですか!?」

「えっ。えーっと」


いきなり話を振られ、僕は少し考えた。


「………好きな呼び方でいいよ。先輩だけど1番ちっちゃいし、できるだけタメ口で」


僕がそう言うと、みんなはいっそう盛り上がった。

なんだか、楽しそうだ。


「じゃあ、よろしく!ユリノ!」

「………うん」


ユリノって呼ぶのはスカーレットとウオッカとテイオーとスズカとゴルシ。ユリノさんって呼ぶのはスペとマックイーン。なんか、意外と怖くないのかな。


────キーンコーンカーンコーン。


学園のチャイムが鳴った。

…………ご飯の時間。


「おっ、メシの時間じゃんか」

「片付け、よろしくお願いします」


みんなは次々と出ていく。というか、トレーナーの扱い酷いな。


「………………さよなら。トレーナーさん」

「おう!」


トレーナーは笑顔で言った。

今日から僕はスピカのメンバーだ。




翌日のお昼。


「コール、それ何?」

「ん?あぁ、定期テストの結果。返されたじゃん」

「…………え?そんなのあったっけ」


記憶にない。というか、思い出したくない。

確か、全教科合計は4───


「────ユリノテイオー。このテストはどういうつもりだ?」

「ひぇっ…………」


後ろには、とんでもないオーラを放った教官と、僕のテスト結果があった。


「えー国語5点、数学15点、理科7点、社会16点、英語0点。合計43点。順位はダントツビリ。さぁ、私が言いたいこと分かるな?」

「…………ワ、ワカラナイデス……」


そう言い、目を泳がせた。

ダメだ終わった。ダービーまで時間ないのに………。


「放課後補習だ。教室に残っているように」

「………ハーイ」


教官はそうとだけ言ってその場をあとにした。


「……………頑張ってねー」


棒読みでコールは言った。

でもコールはどうだったの───


「アタシは合計点数463点。学年順位は3位。勉強教えてあげるよ」


そう言ってペラペラと結果を見せる。

やめて煽らないで……僕のライフはもうゼロだよ。


「…………お願い」

「わかった。……あっ、話したいことあったんだ」

「何?」


僕がそう聞くと、コールは答えた。


「アタシ、NHKマイルC出るから。見に来てね」


コールは笑って言った。

マイルC出るんだ。


「あっ、ユリノちゃん!コールちゃん!一緒にご飯食べよ〜」

「ルネ。いいよ」


ゼロが僕達を見つけて駆け寄ってくる。

おぼんには大盛りのご飯と大盛りの生姜焼きが盛られている。


「………ゼロ、それ──」

「あぁ、生姜焼き!食堂のおばあちゃんがオススメだって言ってたからね、いっぱいもらってきちゃった!」

「へ、へぇ…」


ゼロはニコニコしながら口に運ぶ。

僕達は目をまん丸にして見つめた。


「っていうか、ユリノちゃんその林檎で足りるの?私の生姜焼きあげようか?」

「いや、大丈夫…」


僕の林檎を見て、少なさにビックリしたのか生姜焼きをとる取り皿を取りに行こうとしていた。

僕は元々胃が小さいし、気にしなくていいのに。


「あっ、そうだ。ルネは定期テスト何位だった?」

「え?あぁ、下から2番目」

「……………」


コールが話を振ると、ゼロは当然かのように言った。

ゼロも悪かったのね。


「………アンタたち、勉強教えてあげるから、次のテストは50点以上───」

「多分無理」

「絶対無理」


僕とゼロは同時に言った。まぁ無理なのは変わらないし。

というか、正直勉強教えてもらってる暇があったらトレーニングしたい。


「────アンタ達さぁ」


コールは呆れたように苦笑いした。




「よーし、今日がユリノがスピカとしての最初のトレーニングだ!気合い入れろよ!」

「……………はーい」


トレーナーは意気揚々と言った。

そして僕にトレーニングメニューを渡す。


「……併せだけじゃないですか」

「あぁ、それでいい」

「なんでだよ。適当に決めてんじゃねーぞ」


トレーナーが言った言葉に、ゴルシが少し怒った。


「ユリノさんの能力を測る……ということですか?」

「正解だ。マックイーン」


僕の能力を測るったって、何をどう測るの。適性距離とかはもう既に────


「それと、相手はスズカだ」

「………何言ってんの」


それは本当に何言ってんの。一緒に走ったって、勝てるわけないじゃんか。


「ユリノがスズカさんと走っても、勝てるわけないじゃない。ユリノも皐月賞を勝ったけど、いくらなんでも、異次元の逃亡者には───」

「──いや、そうとは限らない」

「えっ?」


トレーナーは僕を一心に見つめて言った。



「─────俺は、サイレンススズカを唯一差せるウマ娘って言うんなら、ユリノテイオーって答える」

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