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大きな屋敷で育ったアンドリュー・イアンは、今日養子を迎えた。
(この光景、見たことある……。)
途端、頭痛が俺を襲う。ズキズキと痛み、頭の中は混合している。
ズキッ
「はっ…。」
(思い出した…俺は今、ゲームの中にいるんだ。)
全てが雪崩のように頭の中に流れ込んでくる。
前世、と言うべきなのか分からないが、妹が手にしていたゲーム、【束縛と愛のさくらんぼ~もう貴方を逃しませんよ~】を無理やりやらされたのだ。
『おにぃ、これやってくんない?』
佐藤拓真は突如として手渡された恋愛ゲームをチラ見した。ふざけた名前のゲームだ。
『何だよ、これ。』
『何って、乙女ゲームだよ。18禁仕様の。』
(18禁!?)
『なんで俺がこんなのやんなきゃいけないんだよ!』
『だって難しいんだもん。ほら、これが私の推し。執着激しめの、めちゃイケメン。』
話を聞かずにそう言い、パッケージを指さした。そこには白髪のイケメンの絵が描かれており、下には小さくキャラの名前が書かれていた。
『おにぃどうせ暇なんだし、これくらいやってくんなきゃ。このキャラのルート開けたら私に貸してね。 』
生意気な、と思うが、俺が学校に行けなくなった時に励ましてくれたのはこの妹だった。少しの頼みくらいは聞いてやらんこともない。
『…分かったよ。やる。』
『やった!じゃあよろしくね〜。』
『あっおい!』
渋々プレイしてみたが、最近に出たゲームなのか、グラフィックはとてつもなく綺麗で、つい惹き込まれてしまった。
(これが今のゲームか…。)
〝 初めからプレイ〟を押してみる。
(まあ、中々良いじゃないか。)
やり始めて数日経ったが、どうにもキャラの名前が覚えられない。胸糞設定はいくつもあって、イライラすることは多々ある。
溜息をつき、椅子から立ち上がる。長時間体制になりそうなため、飲み物を取ってこようとしたのだ。すると、床にちらばった衣服や漫画を踏み、足を滑らしてしまった。
(あっ…これやばい。)
そう考えたのもつかの間、俺は思いっきり開きかけたロード画面のゲーム機に頭をうちつけた。
「はぁ、はぁ…。」
よろよろとバランスを崩さないよう踏ん張る。
「どうしたのだ。イアン。」
重低音が鳴り響く。召使いたちもゴクリと唾を飲み、1歩後ろに下がった。
(イアン、の方か。なら今の俺は12歳だな。)
「…いえ、なんでもありません。」
頭痛を我慢し、何とか耐える。ゆっくりと治まってきたが、まだまだ痛いのには変わりない。
「しっかりしなさい。イアン、お前は兄になるのだ。せいぜい舐められぬよう努力しろ。」
「…はい、父上。」
足元を不意に見ると、従者から声がかかる。
「そろそろいらっしゃいます。」
心拍数は上がる。ゲームの中にいることは分かったが、そもそも俺はなんのキャラなんだ。
馬車が今いる大きな屋敷の前に止まる。日本で言う国会議事堂よりも大きいのではないか。
「背筋を伸ばしなさい。馬鹿にされたいのか。」
「…いえ、努力します。」
またまっすぐ前を見る。馬車の扉が開かれた。
(え……?)
馬車から降りてきたのは、美しい顔立ちの子供であった。体は細く、顔も青白いが、それが尚更色気を醸し出していた。
(見るからに10歳くらいだが、これが小さな子に出せる色気なのか?)
しばらくぼうっとした後、ハッと我に返った。
その少年は、まつ毛が長く伸びており、それが目の影となっていた。影の間から覗く目の色は、前世では見たこともないようなエメラルドグリーン色であった。そして、一番に目が行くのはその髪色。
(白髪だ……。)
前世で妹が最推しと言っていたキャラ、アンドリュー・ラファエルだ。
思考が停止する。ゲーム内容が頭の中で整理されていった。
(そうか……じゃあ、じゃあ俺は…、ラファエルを虐めている義兄、イアン!!)
全てが繋がった。苗字とも取れるアンドリュー。どこかで聞いたことがあると思っていたが、攻略対象の名前だったなんて。
妹の言葉が蘇る。
『執着激しめの、めちゃイケメン。 』
(たしかイアンが虐めていた理由は、養子な上、見た目もイケメンだから気に入らない、だったな。ラファエルは虐められたせいで、ヒロインから捨てられることを恐れて執着する……的な。)
だが俺はゲームで起こったことは繰り返さない。そして俺はラファエルに手を伸ばした。
「よろしく。ラファエル。」