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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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有能な世話係が淹れ直してくれた温かいお茶を飲みながら、三人は互いの疑問をぶつけ合っていた。


「過去の方達は転移した後、どうされていたんですか?」


葉月がずっと気になっていること。戻れないのなら、自分はここで何をして生きていけば良いのか。ベルにずっとお世話になり続けていて良いのだろうか、と。なら、同じ境遇だった先人達は見知らぬ世界に来た後、どうしていたのだろうか、と。


「そうですね、私の祖先の場合はそのまま街で仕事を見つけて、領内から出ることは無かったみたいですね」

「ご先祖様は魔法は?」


他の迷い人も皆、葉月と同じ強い魔力持ちなんだろうかと思ったが、ケヴィンは首を横に振って答えた。彼自身にも魔力が無いのは会ってすぐに分かっている。


「記録としては何も残されてはいませんが、私が知る限り一族で魔法が使えるほどの魔力持ちはおりません。なので、祖先にも無かったと考えています」

「そうですか……」


思った以上に迷い人の記録は何も無いようだった。数少ない文献の記述と、彼の一族内で語り継がれている話の範囲で仮説を立てているといった感じだ。ただ、さすがに二十年近くを迷い人の研究に費やしているだけあって、その答えは自信に満ち溢れていた。


「葉月殿に魔力は?」

「そうね。宮廷魔導師レベルかしら」

「何と⁈」


迷い人には魔力が無いという彼がこれまでに立てた仮説は、あっさりと崩れ去った。驚きつつも矢継ぎ早に質問をぶつけてくる。葉月達の答えを逐一手帳にメモを取っていたので、今後はさらに新しい仮説として立て直すのだろう。飽くなき研究心には関心するしかない。


静かにベルの隣で二人のやり取りを聞いていた葉月は、いきなり宮廷魔導師レベルと言われて目を丸くしていた。それは言い過ぎでは? と慌てて隣を向くと、にこりと微笑み返される。


「葉月も、森の魔女を名乗ってもいいのよ」


さすがにそれは……と、ブンブンと勢い良く首を横に振った。現状は薬作りもお手伝いの範疇だし、ベルのように魔獣を一撃では倒せない。森の魔女なんて、とんでもない。


「まだまだ、魔女の弟子とかでいいです」

「あら。残念ね」


ふふふと上機嫌に笑うと、改めてケヴィンの方へ向き直す。


「隣国の調査が終わった後、またお話を聞かせていただけます?」

「それは勿論。こちらも葉月殿に教えていただきたいことは山ほどありますので、戻り次第また伺わせていただきます」


ケヴィンはソファーに腰掛けたまま、深々と頭を下げる。迷い人を研究する者として、これほど充実した時間は無かったと満ち足りた気分だった。


館の入口扉まで揃って見送りに出てみると、外では庭師が一台の荷馬車の手入れをしているようだった。クロードが本邸から乗ってくる物よりも随分と小さく簡素で、とても使い込まれている荷馬車だった。


「こちらは先生のかしら?」

「ああ、はい。急ぎで知り合いから借りて……」


荷台に乗せられたままの農工具を物珍し気に覗き見る。荷物を降ろす間も惜しいくらいに、相当に慌てて出てきたのがよく分かった。


「こんなボロいの、帰り道でぶっ壊れてもおかしくないぞ。何ヵ所か直しといてやったから」


よく見ると、御者席や荷台のあちこちが新しい板で補強された跡があった。老人がお節介にも勝手に手を加えていた模様。ベテランの手に掛かれば、荷馬車の修理も朝飯前だ。

それじゃあ、私もとベルは荷馬車にはめ込まれた魔石に手を触れると魔力を流した。魔獣除けの魔力補充のサービスだ。


「これは、ありがたい。おかげで次も堂々と借りに行けます」


アポなしで朝早くから荷馬車を貸せと言われて怒り狂っていた友人の顔を思い浮かべる。返しに行く時にはどんな嫌味を言われるかと思っていたが、これなら逆に礼を言われてもおかしくないだろう。修理も魔力補充も自分で依頼するとなると決して安くはない。


ケヴィンの荷馬車が森の道へと消えて行くのを見送ってからホールへと戻ると、いつも通りにソファーに鎮座する猫の姿があった。客が居なくなるとすぐに出てくるということは、人見知りで今まで隠れていたようだった。


何事もなかったかのように素知らぬ顔をして毛繕いしている。翼が生えて強くなっても、その性質だけは変わらない。口の辺りを念入りに手入れしているところを見ると、ご飯を貰ったばかりだろうか。


「くーちゃんに認めてもらえない内は、先生にはまだ話せないわね」

「そうですね。猫が居るって言ったところで、出て来なかったら証明できないですし」


今はまだ猫の存在を知っているのは、館に関係する四人だけ。どれも皆、くーの方から顔を見せに出ている。猫自身が安全だと判断するまでは秘密にしておいた方が良いのかもしれない。


途中になっていた調薬の続きをしようと作業部屋へ向かいかけ、二人揃ってマーサに呼び止められた。


「先に昼食を召し上がって下さいませ」

「あら。もうそんな時間?」


言われて気付く、もう日も完全に昇りきっている。思った以上に長時間をケヴィンと話をしていたようだ。

猫とゴミ屋敷の魔女 ~愛猫が実は異世界の聖獣だった~

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