「……全部、自分のせいな気がするんです」
そう言って座ったのは、目を伏せたままの生徒だった。
「友達同士がケンカしてても、授業中にシーンとなっても……何かがうまくいかないと、全部、自分が原因なんじゃないかって。
気づけば『ごめんなさい』ばっかり言ってます」
日下部は少し黙って、その言葉を受け止めるように目を細めた。
「……謝るのって、クセになるよな。誰も責めてなくても、自分が悪いって思う方が楽なときがある」
生徒は小さくうなずいた。
「でもな、全部を自分のせいにするのは、実はちょっとズルいんだ」
「……ズルい?」
「だって、世界の全部の出来事を背負い込むってことだろ。そんなの神様でも無理だ。
ほんとは誰のせいでもなかったり、相手に理由があったりする。
それを『自分のせい』にまとめちゃうのは、一見優しいようで、実は現実から目をそらしてる部分もあるんだ」
生徒は驚いたように日下部を見た。
「じゃあ、どうしたら……」
「簡単じゃないけど、『これは俺の責任じゃない』って線を引く練習をすることだな。
全部を抱え込むんじゃなくて、自分が本当に悪かったときだけ謝る。
それで十分だ」
日下部は笑って肩をすくめた。
「お前はきっと、謝らなくてもちゃんと分かってもらえるやつだよ」
生徒は少しだけ安心したように息を吐いた。