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「どうせなら、表向きは立派で、受け取る側が少し考え込んでしまうような花束を贈りませんか?」


そんな文句のポスターが、行きつけの居酒屋の壁に貼ってあった。


俺は酒を飲みながら、それを指さして店主に聞いた。


「普通さ、花って祝うとか、労うとか、そういう気持ちで贈るもんじゃないのか。……なんで、こんな回りくどい言い方なんだ?」


「なんのことで?」


店主は、心底わからないといった顔で聞き返してくる。


「ほら、これだよ。わざわざ“考え込んでしまう花束”なんてさ」


「ああ、それですか……実は、最近うちの娘が始めたものでして」


「……大将、娘さんいたのか」


「ええ。知らなくても無理はありません。私も、ついこの間まで知らなかったものですから」


そこで、少しだけ空気が止まった。


「ああ……そういう事情か。悪かったな。深く聞くつもりはない」


「いえいえ。急に成人した娘が現れて、私も驚きましたよ。でもね、優しい子なんです。この前も花をくれまして」


店主はそう言って、店の隅を指さした。


そこには花瓶が置かれ、見慣れない花が静かに活けられていた。


「……変わった花だな。あまり見ない」


「あれは“クレン”という花だそうです」


「……そうか」


数日後、その店は閉店した。


理由は貼り紙に短く書かれていただけだった。

家庭の事情。そしてしばらくの休養――

どれも、ありふれた言葉ばかりだ。


俺は行きつけの店を、また一つ失った。


あの花束が、誰に向けられたものだったのかを考えながら。

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