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二人が普通に並んでいると、カップルの男性がポーズを要求してきた。
「彼氏さん、ダメですよ! せっかくのクリスマスだし、撮るならラブラブに撮らなきゃ! 彼氏さん、彼女さんの肩を抱いちゃいましょうよ!」
彼女も一緒になって、ポーズに口出ししてくる。
「彼女さん、もっと彼氏さんに寄り添わなきゃ! あ、彼女さん、彼氏さんの腰に両腕を回しちゃいましょう!」
若いカップルの指示通りに、怜と奏は顔を紅潮させながらも頬を寄せ合い、ポーズをとる。
「おおぉ! すげぇいい感じ! それじゃあ二枚撮りますよ! はい、チーズ!」
彼氏がシャッターを切る横で、彼女が『エモい〜! ヤバ過ぎ!』と言いつつ、楽しそうにはしゃいでいる。
「このカップル、マジでヤバい! んじゃもう一枚! はい、チーズ!」
若い人のノリの強烈さにタジタジになりながらも、笑みを浮かべている三十代半ばに差しかかろうとしている男と二十代半ばの女。
かなり密着した状態で写真を撮られている二人だが、怜が奏を抱き寄せる腕に力が込められているのを感じた奏は、鼓動がドクドクと跳ね上がっている。
撮影が終わり、奏は彼氏からスマホを受け取った。
撮ってもらった画像を確認すると、破顔しているような表情で抱き合っている二人の姿が画面に映し出されている。
「君たち、すごくいい写真を撮ってくれてありがとう」
嬉しさと笑みを滲ませ、カップルに感謝を伝える怜。
「ありがとうございました」
怜に続き、はにかみながら奏はお礼を述べると、二人は『お幸せに〜』と声をハモらせながら手を振ってくれて、怜と奏はセンターツリーを後にした。
喧騒から逃れるように、二人の足取りは、自然と神殿風のホールへ向かっていく。
「それにしても、若い人のノリってすげぇな。画像、後で送ってくれるか?」
「なら、今送るね。かなり恥ずかしいんだけど……」
奏がメッセージアプリを開き、怜に先ほど撮ってもらった画像を送信する。
怜のスマホにメッセージ受信の音が鳴り、速攻でアプリを開く。
ある意味バカップルっぽいポージングで撮影した画像を見た彼が、照れているのか、フフっと小さく笑っている。
「コレ……いい意味でヤバいな……すげぇラブラブに映ってるし、俺も奏も、いい表情してる」
「何だか見てるだけで恥ずかしい……」
奏は顔を真っ赤にさせながら答えると、『最高のクリスマスプレゼントになったな』と、怜が微笑みながら言った。
しかし、怜の中では写真だけがクリスマスプレゼントではない。
先ほど立川の百貨店で、奏がパウダールームに行っている間、彼女のために購入したネックレスがある。
このジュエリーを、これから彼女に手渡すのだ。
多摩センターへ向かう途中の車内で、ステアリングを握りながら、いつ奏にクリスマスプレゼントを渡そうか、と考えていた。
それだけではない。
先ほど、怜がセンターツリーで家族連れの写真を撮っている時、以前から朧気に考えていた事が、ハッキリとした輪郭で浮かび上がり、決意となったのだ。
それを伝えるのは、まだまだ早過ぎるのかもしれない。
だが、怜は既に答えが出ている。
覆る事は決してない。
「奏。駅周辺は賑やかだし、ホールの屋上へ戻るか」
「うん。そうする」
二人は手を繋いだまま、神殿風のホールへ足を向けた。