第14話「共鳴しないって、そんなに悪いこと?」
登場人物:ツユ=アマネ(澄属性・2年・無共感型)
ツユ=アマネは、どこにいても静かだ。
澄属性。2年生。制服はきっちりと着ているが、目元は伏せがちで、感情が読み取りにくい。
髪は乾いた銀砂色で、端正だが地味な顔立ち。まるで水面の波が最初から立たない湖のようだった。
ツユは、“共鳴できない”体質として校内で知られている。
共鳴板に手を置いても、塩素(ソルソ)はただ静かに澄んでいるだけ。
波域も仮所属扱い、深層試験の免除対象。
「共鳴できないって、欠陥じゃん?」
そう言われたのは、食堂だった。
言ったのは波属性の1年・リョウ=ハナミチ。
料理部に入ったばかりの彼は、共鳴が強すぎてしばしば食材を暴れさせてしまう。
「俺なんか、気をつけてないと皿が割れるくらい“波”あるのに、
共鳴ゼロって、まじでソルソ向いてないんじゃね?」
ツユは、何も言わなかった。
ただ、海藻ごはんをひと口だけ食べて立ち去った。
帰り道。
ひとりで向かったのは、水草水槽がある廊下の奥。
照明の落ちた、しんとした空間。
そこにいたのは、**シオ=コショー先生(潮属性・非常勤)**だった。
「また来てたの、アマネさん」
「……うるさくないから、ここ」
「そうだね。水槽は“波”を持たない生きものたちの海。
ここに来ると、共鳴ってなんなのかなって思うよね」
ツユは水槽を見つめながら言った。
「……共鳴できないって、ダメなことですか」
シオ先生はしばらく黙ってから、ポケットの中から水槽記録カードを見せた。
「これ、見てごらん」
「……“水質安定・変化なし”、ですね」
「この“なし”って、悪いことだと思う?」
ツユはゆっくり首を振った。
「誰かが揺れてるとき、“変わらない”って、実はすごく大事なんだ。
澄んでるってことは、飲み込めるってこと。
自分の波がないことで、他人の波を理解できるんだよ」
その後、ツユは**共鳴できないなりの“支援型変質”**を研究するようになった。
彼女が選んだのは、傾聴と水質管理。
誰よりも静かで、誰よりも“他人の波”を受け止める澄属性として。