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彼の表情はどこか晴れやかで、俺の悩みが解決したことを喜んでくれているようにも見えた。
「じゃ、おつかれ」
そう言って俺に背を向ける瑞稀くんを、俺は慌てて呼び止めた。
「瑞稀くん!…ありがとう!」
俺は、心からの感謝を込めた。
彼の的確なアドバイスと、少し突き放すような優しさが、俺の心を救ってくれたのだ。
「はいはい」
瑞稀くんは振り返らずに、ひらりと片手を振ってくれた。
その背中がカフェのドアから消えていくのを見送ると、俺の胸の中には、仁さんへの想いと
これからどうするべきかという決意が、はっきりと芽生えていた。
◆◇◆◇
1週間後──…
土曜日の昼下がり、俺たちは仁さんの部屋にいた。
たまには4人で宅飲みでもしないかという話になり
俺と瑞稀くん、将暉さん、そして仁さんの4人が集まっていたのだ。
部屋にはすでに心地よい喧騒が満ちていて、笑い声やグラスの触れ合う音が響いている。
しかし、俺の心臓は朝からずっとどこか落ち着かないリズムで脈打っていた。
今日のこの日、俺は仁さんに自分の想いを伝えることを決意していたのだ。
瑞稀くんとのカフェでの会話以来
仁さんの何気ない仕草や視線一つ一つが以前とは全く違う意味を持って俺の心に響くようになっていた。
彼が俺を見るたびに、胸の奥が甘く疼き
その温かい眼差しに、俺は自分がどれだけ彼を求めているかを実感していた。
テーブルの上には、食べかけのポテトチップスや、空になったビールの缶
スナック菓子が入っていた袋が散乱している。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、そろそろ買い足しが必要な頃合いだった。
「そろそろ酒もつまみも尽きてきたな、ちょっと俺
買い足してくるわ」
仁さんがそう言って、のんびりと立ち上がった。
その瞬間、俺の脳裏に「今だ!」という直感が閃いた。
これが、二人きりになれる唯一のチャンスかもしれない。
俺は逸る気持ちを抑えながら、平静を装って立ち上がった。
「俺もついてっていいですか?なんか急にアイス食べたくなっちゃったんで」
俺の言葉に、仁さんは少し驚いたように首を傾げた。
「いいけど、寒いよ。マフラーある?」
仁さんは優しい声で俺を気遣ってくれる。
「あー、しまった…隣に置いてきちゃいました…」
すると、仁さんは困ったように少し眉を下げたかと思うと、ふわりと微笑んで棚の方へと歩いていった。
「じゃ、これ貸すから。風邪ひいても困るしな」
そう言って、棚から柔らかなベージュ色のマフラーを取り出すと
何の躊躇いもなく俺の首に緩く巻いてくれた。
仁さんの指が俺の首筋に触れるたびに、ゾクリと甘い連れが走る。
彼から漂う優しい香りに、心臓がバクバクと音を立てるのが自分でも分かるほどだった。
仁さんは俺の顔を覗き込むようにして、少し笑ってから言った。
「じゃあ、行くか」
その言葉に俺は胸がいっぱいになりながら「はい!」と力強く返事をした。
そして、二人で一緒に近所のコンビニに向かうことになった。
後ろから瑞稀くんと将暉さんの「いってらー」という声が聞こえる。
仁さんと並んで夜道を歩くのは、なんだか不思議な感覚だった。
隣にいる彼の存在を、これほど強く意識したのは初めてかもしれない。
他愛もない話をしながら歩いていると、あっという間にコンビニに着いた。
店内は暖かく、照明も明るい。
俺たちはそれぞれ、飲み物やおつまみ、そしてアイスをカゴに入れてレジに並んだ。
普段と変わらない、ごく普通の日常の風景。
しかし、俺にとっては、この瞬間が告白への序章なのだと思うと、手に汗がにじんだ。
会計を済ませてコンビニを出ると、外はさっきよりも一段と冷え込んでいた。
肌を刺すような冬の夜風に
俺たちは思わず同時に「さむっ」と呟き、顔を見合わせて小さく笑い合った。
その笑顔は、どこまでも自然で、俺たちの間には心地よい沈黙が流れていた。
このまま部屋に戻れば、また将暉さんや瑞くんがいて、二人きりになれるチャンスはきっと失われる。
仁さんの想いを確かめるなら
そして俺の気持ちを伝えるなら今しかない。
俺は意を決して、歩みを止めた。
仁さんも俺の異変に気づいたのか、数歩進んでから足を止め、振り返る。
「……どうした?」
彼の声はいつも通り穏やかで、その瞳は夜の闇の中でも優しく俺を見つめていた。
その視線に、俺の心臓はさらに大きく脈打った。
「あの、仁さんって、俺のこと好きですか…?」
俺の口から出た言葉は、思ったよりもずっとストレートで、震えもせずにまっすぐにさんに届いた。
俺がそう言葉にすると、仁さんはわかりやすくフリーズしてしまった。
その表情には驚きと困惑が混じり合い、まるで時間が止まったかのように固まっている。
「なんで急に……?」
仁さんはそう呟いたが、その声には動揺が隠しきれていなかった。
「ここ最近ずっと考えてたんです、仁さんの言う特別ってなんなんだろうって」
「俺にとっては、その言葉がずっと心の中に引っかかってて……」
俺は一度話し始めたら止まらないかのように、堰を切ったように言葉を続けた。
「……それに俺、仁さんといると、すごく、その…安心するんです。仁さんと一緒にいると楽しいし、もっと一緒にいたいって思うんです」
「仁さんが笑っているのを見ると、俺まで嬉しくなるし、仁さんが少しでも困っていると、どうにかして力になりたいって思う」
「こんな気持ち、久しぶりで…」
俺はそこまで言うと、少し恥ずかしくなり
顔が熱くなるのを感じながらも、視線を逸らさずに仁さんを見つめ続けた。
「それでこの間、瑞稀くんに相談して、分かったんです」
「俺、仁さんのことが好きになってるんだって」
「…楓くん、が…俺のことを…?でも楓くん、恋は分からないって…」
「さ、最近分かったんです、俺…仁さんと、恋人になりたいって思ってるんです、番に、なりたいんだって。俺だけが……仁さんの特別な存在になりたいって」
俺の言葉を聞きながら、仁さんは驚いたように目を見開いていた。
その瞳には、俺の言葉をじられないような色が浮かんでいる。
俺はもう一度、今度はハッキリと言葉にする。
覚悟を決めて、自分の気持ちをすべてぶつけるように。
「だから、もしさんの俺に対する特別が…同じなら、俺と付き合ってくれませんか……?」
そう言ってから、夜の静寂の中に、少しの沈黙が続いた。
体感では数分にも感じるほどの長い沈黙。
俺はその沈黙に耐えきれず、思わず目を逸らしてしまった。
やっぱりダメだったんだろうか。
俺の突拍子もない告白に、仁さんは戸惑ってしまっているだけなのかもしれない。
心臓が痛いほど高鳴り、全身から血の気が引いていくような感覚に襲われる。
その時、仁さんがゆっくりと口を開いた。
「俺で、いいのか……?」
その言葉に、今度は俺が驚いてしまった。
彼の声は、沈黙を破るように、しかしとても穏やかに響いた。
「も、もちろんです…仁さんじゃなきゃダメなんです」
俺がそう答えると、仁さんは一歩
また一歩と俺に近づいてきた。
そして、まるで壊れ物を扱うかのように優しく
けれどしっかりと、俺のことを抱きしめた。
仁さんの腕が俺の背中に回され、温かい体温が伝わってくる。
彼の胸に顔を埋めると、甘い石鹸の香りがした。
「……俺も、きみが好きだ」
耳で囁かれたその言葉に、俺は思わず息を飲む。
全身に電撃が走ったかのような衝撃と
これ以上ないほどの幸福感が、俺の体を包み込ん
だ。
仁さんの腕の中で、俺は強く彼を抱きしめ返した。
冷え込む冬の夜空の下
二人の体温が重なり合い
俺たちの世界は、温かい光に満たされていくようだった。