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侑が滅多に出さない感情を露わにした強い口調で言っても、瑠衣はまだ信じていない。
侑の身体から離れようと華奢な腕を伸ばし抵抗を試みるが、男の腕の力に瑠衣は四苦八苦している。
「…………俺の言う事……そんなに…………信じられないのか……!」
侑は感情を捩じ伏せつつ掠れた声音でそう言った後、瑠衣の背中に回していた腕を小さな後頭部に添え、花弁のような唇を奪った。
「んんうぅっ……!」
瑠衣が侑のキスを受けながらも、彼の身体を押し返して距離を取ろうとするが、そうする度に侑の節くれだった手が瑠衣の小さな頭を強く引き寄せる。
逃げ惑う小さな舌を侑の舌が捉えて絡め取り、彼は角度を変えながら幾度も唇を重ね続けた。
思えば、瑠衣と口付けを交わしたのは、これが二度目。
初めてキスをしたあの同伴の日は、特別な夜を過ごすという気持ちの高揚と、勢いに任せた部分もあったが、愛おしさすら感じられる女だからこそ、侑は瑠衣の唇を欲した。
(お前を…………愛しているんだ……瑠衣……)
今は彼女に、嘘も偽りもない愛を明確に伝えるために交わしたキスだ。
これ以上抵抗するのは無駄だと感じたのか、瑠衣は侑の腕の中で脱力し、筋肉が適度に付いた身体にしなだれ掛かる。
侑は、押さえつけていた手の力を緩め、彼女のベージュブラウンの頭を撫でながらも唇を塞いでいる。
形の整った彼の唇が小さな上唇をそっと食み、焦らすように顔を離した。
瑠衣が幾筋もの涙の痕跡を残したまま、潤んだ瞳で侑を見上げ、彼も彼女の眼差しを絡めさせた。
「…………お前が……好きで…………愛おしいんだ……」
柔らかな頬に触れながら親指で唇の横にあるホクロをなぞり、顎先で切り揃えられた彼女の髪に触れる。
「…………まだ、俺の言う事…………信じられないか? 瑠衣……」
初めて下の名前で呼ばれた事に、瑠衣の瞳が見開き、何かを言いたげに微かに唇が開かれる。
「…………娼館の火災の時、お前は俺が譲った楽器を『私の唯一』と言っていたが…………俺にとっての唯一は…………瑠衣。お前だ」
侑の言葉に、瑠衣は唇を震わせながらも、清らかな雫が頬へ伝い落ちていった。