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26話 スポットフォン
「リカー」
先に聞こえたのは、
呼ぶ声だった。
着信音はない。
振動もない。
胸元で下がっていたスポフォンから、
そのまま声が出る。
少し息が混じっている。
おかあさんの声。
リカは、
歩きながら立ち止まる。
薄手の上着。
肩にかけた鞄。
腰元で、
電子マネーとお守りが
静かに当たる。
「620にいるならね」
声は続く。
「これと、これ、
ついでに見てきて」
短い説明。
迷いのない言い方。
「わかった」
リカは、
小さく返す。
通話は、
それで切れる。
声が消えると、
周りの音が戻る。
隣では、
友達が見ていた。
髪を後ろでまとめた子。
手帳を抱えている。
「おつかい?」
リカは、
うなずく。
620スポット。
通路は広い。
人は多い。
店が並び、
光が均等に落ちている。
派手めな服の友達が、
棚を覗く。
胸元で、
キーホルダーが
軽く鳴る。
リカは、
言われた品を探す。
棚の表示。
値段。
形。
スポット$で支払う。
レジの人は、 通す。
袋を受け取る。
少し重い。
外に出る。
スポフォンを握る。
さっきの声は、
もう残っていない。
でも、
頼まれたことは、
ちゃんと残っている。
帰る方向を確認する。
声から始まった用事は、
買い物になって、
袋になって、
今、
手の中にある。
それで、
十分だった。