テラーノベル
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翌日、仕事を終えた凛は、待ち合わせのカフェへと急いだ。
店に入ると、颯介はすでに来ていた。一番奥の窓際の席にゆったりと腰かけ、コーヒーを飲んでいる。
凛はカウンターで自分のコーヒーを買い、急いで彼のもとへ向かった。
「遅くなってすみません」
「お疲れ。そんなに急がなくてもよかったのに」
その余裕のある笑みに、凛は思わず吸い込まれそうになる。
(疲れた体に染み渡るイケメン……)
うっとりとしかけた自分にハッとして、凛は慌てて椅子に腰を下ろした。
「で、どんな話? なんか、深刻そうだったけど」
いきなり本題に入る颯介に、凛はすべて打ち明ける決意をした。
5分後、二人の前のテーブルには、レコーダー付きのボールペンが置かれていた。
再生してみると、社内のざわめきの中に、ときおり凛の声が混じっている。
「会社の音しか入ってないね」
「はい。ただ、真壁さんと初めて待ち合わせたときの電話は会社でだったので、録音されていたかもしれません」
「なるほど。だから、彼女はあの待ち合わせ場所に現れたわけか」
「はい……。彼女の狙いはおそらく真壁さんだと思います」
「…………」
颯介は無言でボールペンを手に取り、じっと見つめた。
やがて何かを思いついたように、凛の方へ向き直る。
「だったら、こっちから罠を仕掛けてみないか?」
「罠?」
その意味が分からず、凛は首をかしげた。
「うん。もう一度これを君のペン立てに戻して、その前でわざと僕と会う約束をするんだ」
「わざと……ですか?」
「そう。もし彼女がこれを仕掛けたなら、きっと待ち合わせ場所に来ると思わないか?」
凛はなるほどと思った。
「名案ですね」
「だろ? それと、そうだな……さらにオプションもつけるか」
「オプション?」
「君と俺が『デートで会う』っていう設定にするのはどう?」
「でっ、デート!?」
凛は思わず声を上げた。
「ははっ、そんなに驚かなくてもいいだろう。もちろん『ふり』でいいよ」
「『デート』の『ふり』ですか?」
「そう」
(なんだ、ふりか……)
少しがっかりしながら、凛は本音を言った。
「『デート』にする必要って、あります?」
「あるさ。俺としては、ストーカーにいつまでも付きまとわれたくないからな」
「あ、たしかに……」
颯介は、奈美にこれ以上付きまとわれるのを本気で嫌がっている。
だからこそ、凛と付き合っているふりをして、彼女を遠ざけようとしているのだろう。
「この罠で彼女がペンを仕掛けたと分かれば、あとは証拠を押さえるだけだ」
「証拠? でも、どうやって……」
「君のデスクにカメラを仕掛ける。それと、会社の外での行動は興信所に頼めばいい」
「興信所? でも、そんなところに頼んだらお金が……」
「多少の出費は問題ないさ。プロはきっちり仕事をしてくれるからね」
「すみません……余計なことに巻き込んでしまって」
「いや、俺にも半分責任があるから」
「え?」
「気のない女には親切にするもんじゃないな。つくづく反省したよ」
颯介はそう言って、ふっと寂しげに笑った。
その表情に、凛の胸がきゅっと締めつけられる。
(ああ……もう無理!)
颯介の家に遊びに行って以来、彼への想いは日に日に募っていた。
奈美という厄介な存在が現れてからは、なおさらだった。
そこで凛は、つい以前から胸に引っかかっていたことを口にしていた。
「真壁さんは、お付き合いをしている女性はいないんですか?」
自分でも驚くほどの直球で、言った瞬間、顔が熱くなる。
颯介も少し驚いたように目を見開いた。
「ずいぶんと直球だな」
「すっ、すみません」
「なんでそんなこと聞くの?」
「あ、いえ、もし恋人がいらっしゃるなら、その方とデートすればいいのにって思ったので……」
「なるほど。でも残念ながら、今はいないんだ。だから、君に頼んでる」
彼に恋人がいないと知り、凛は心の中で小さくガッツポーズを決めた。
けれど、表情には出さず、平静を装って答える。
「そうでしたか」
「うん。で、君は?」
「え?」
「付き合っている人はいるの?」
なぜそんなことを聞くのかと戸惑いながら、凛は正直に答えた。
「いません」
「そっか。じゃあ、いない者同士、名コンビだな」
颯介は穏やかな笑みを浮かべながら、コーヒーを一口飲んだ。
そのとき、襟元から覗いたたくましい喉元がわずかに動いた。
凛はそれを見て、体の奥から熱が込み上げてくるのを感じた。
(どうしよう……もう我慢できない……)
そう思った瞬間、凛の口から言葉が勝手にあふれ出る。
「私……あなたのことが好きです!」
凛は顔を真っ赤にして動揺していた。
なぜ今、告白したのか自分でも分からない。ただ、颯介に対する思いがあふれて止まらなかったのだ。
颯介は驚いたまましばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「ありがとう。でも、俺は簡単には堕ちないって、前に言ったよね?」
気持ちとは裏腹に、あえて距離を取るような言葉を選ぶ。
「もちろん分かってます。あなたが私みたいな平凡な女を相手にするはずないって。でも、どうしても伝えたかったんです」
動揺しながら一生懸命伝える凛を見て、颯介は頬を緩めながらくすっと笑った。
「だったら、俺を堕としてみろよ」
「えっ?」
「簡単には堕ちないぞ。それでもチャレンジする気はある?」
凛は、今まさにチャンスを与えられていると感じた。だから、すぐに力強く頷いて答える。
「はい!」
「じゃあ、堕としてみろよ。それで、もし俺が堕ちたら付き合おう」
(え? 今なんて……?)
初めて自分から好きになった相手が、「堕ちたら付き合おう」と言っている。その瞬間、凛は夢を見ているのではないかと思った。
そこで、黙ったままの凛に、颯介が続けた。
「怖気付いたか? 君の『好き』っていうのは、その程度?」
「い、いえっ、違いますっ! 分かりました! 私、絶対、あなたを堕としてみせます!」
「その心意気、いいね。俺は気の強い女が好きなんだ」
そう言って、颯介は穏やかに微笑んだ。
恋人への切符を手に入れた凛は、体中にエネルギーがみなぎるのを感じた。
そしてもう一度、颯介にはっきりと言った。
「私、絶対にあなたを堕としてみせますから!」
「楽しみにしてるよ」
颯介はそう言って、楽しそうに微笑んだ。
コメント
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凛ちゃん がんばれ‼️ 颯介さん気持ち隠して 落として欲しいタイプなのかな? マリコ様今回のお話はストーカー奈美あり 落として欲しいイケメンありでいままでと少し違う感じ☺️ このお話も続きが待てないくらい惹きつけられてます
凛ちゃん頑張って❣️
思いが込み上げて告白しちゃったね♡(´艸`))) 「俺を堕としてみろよ」にキューン。:*♥(´,,•ω•,,)ノ 颯介さんはイケオジながらの百戦錬磨だけに余裕たっぷり💕 この状況を楽しんでるよね😂 自分も凛ちゃんに好意があるからワザとそういう言い方したのかなぁ🤭