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二人はそのあと食事をし、帰りは颯介が凛を家まで送った。
突然の告白という大事件があったにもかかわらず、颯介はいつも通りで、食事中も仕事の話を交えながら穏やかな時間を過ごした。
しかし家に戻った凛は、自分がとんでもない状況に足を踏み入れたのだと、じわじわ実感し始めていた。
(彼を『堕とす』って、どうすればいいの?)
颯介を『堕とす』と宣言したものの、実際に何をすればいいのかまったく分からない。
不安に駆られた凛は、買ったまま放置していたファッション誌を手に取った。
これは、マッチングアプリで出会いを探していた頃に、服装の参考にしようと買ったものだ。
ページをめくると、いくつかの見出しが目に飛び込んできた。
『男性に愛されるファッション』
『彼を虜にするメイク』
『恋人の気持ちを捉える心理術』
その文字を見た瞬間、凛は思わず声を上げた。
「そうよ! まずはマニュアル通りにやってみればいいのよ!」
こんな甘い作戦で、あのイケオジ不動産王の心を射止められるとは到底思えない。それでも、今の凛にはすがるものが他に何ひとつなかった。だからこそ、この雑誌はまさに救いの手に見えた。
その夜、凛は寝る間も惜しんで特集記事を読みふけった。
翌朝、出社した凛は寝不足で頭がぼんやりしていた。
昨夜は颯介を『堕とす』作戦で頭がいっぱいだったのに、会社に来た途端、奈美のことが頭に浮かぶ。
(そうだ! ペンを元の位置に戻さなくちゃ)
席につくなり、凛はレコーダー付きのペンをペン立てに戻した。
隠しカメラは颯介が買って後日送ってくれる予定なので、それまでは動きようがない。
せめて奈美の様子を注意深く観察しようと、心に決めた。
そして昼休み。
普段は同僚と外へランチに出ることの多い奈美が、今日は珍しく一人でフロアを後にした。
(珍しいわね……)
気になった凛は、そっと後を追う。
父親が警察官だったこともあり、子供の頃から探偵ごっこはお手のものだ。
とはいえ、大人になって役に立つ日が来るとは思ってもみなかった。
奈美は廊下を突き当たりまで進むと、角を曲がってから人の気配がほとんどない廊下の一番奥で足を止めた。
この辺りは会議室が並んでいる。
凛がロッカーの陰に身を潜め息を殺して様子をうかがうと、奈美は携帯を取り出して誰かに電話をかけ始めた。
(誰にかけてるんだろう?)
その相手が気になって仕方がない。
凛が耳を澄ませていたそのとき、すぐそばの非常階段から足音が響いてきた。
(やばっ、誰か来る!)
凛は慌てて近くの会議室のドアを開け、素早く中へ滑り込んだ。そして、ドアをほんの少し開け、外の様子をうかがう。
足音の主は凛がいるフロアまで上がってくると、そのまま廊下を歩いていく。
わずかに開いたドアの隙間から、その姿が一瞬だけ見えた。
(西岡……さん?)
間違いない。足音の主は、営業企画部の西岡匠だった。その姿を確認した瞬間、凛は思わず息を飲んだ。
西岡が視界から消えると、凛はそっとドアを広げ、彼の後ろ姿を追った。
西岡が向かった先には、奈美が立っていた。
奈美は彼に気づくと、ぱっと花が咲いたような笑顔になり、そのまま勢いよく抱きついた。
「えっ?」
凛は思わず声を漏らし、慌てて口を押さえる。幸い、二人には気づかれていないようだ。
(なぜ、西岡さんが沢渡さんと?)
奈美に強く抱きつかれた西岡は、彼女の尻を両手で掴むように揉んでいる。
(ええっ! 二人はそういう関係だったの?)
想像すらしていなかった光景を目の当たりにして、凛は唾をごくりと飲み込む。
そのとき、二人はもつれ合うようにして、そのまま会議室の中に消えていった。
(まっ、まさか社内で……?)
動揺しながらも、凛は足音を立てないようにそろりと歩き、二人が入った会議室の前まで近づいた。
ドアの前で息をひそめ、そっと耳を澄ます。
室内からは、机がガタガタと揺れる音と、押し殺したような荒い息遣いが聞こえてきた。
それは、明らかに男女の営みが始まっていることを示していた。
(嘘でしょう……ちょっと、勘弁してよ……)
気分が悪くなり、凛はその場を離れようとした。
だが、数歩進んだところでふと立ち止まる。
(証拠を撮っておけば、何かのときに役に立つかもしれない……)
そう思った凛は、再びドアの前に戻り、携帯を取り出して動画モードに切り替えた。
それから、深呼吸をして気持ちを整えると、音を立てないようにそっとドアノブを引く。幸い、鍵はかかっていなかった。
ドアの隙間から見えた光景に、凛は思わず息を飲んだ。
奈美は机の上で大きく足を広げ、その前では西岡が小刻みに腰を振っていた。
(うっ……)
一瞬、吐き気が込み上げたが、凛は覚悟を決めて携帯を構えた。そして、音が漏れないようにスピーカー部分を押さえ、撮影を始める。
奈美の喘ぎ声と激しく揺れる机の振動音に紛れ、二人は凛が近くにいることにまったく気づいていない。
二人はただ目の前の行為に没頭していた。
およそ一分ほど撮影すると、凛はそっとドアを閉めた。
そして、できるだけ足音を立てないように、その場を離れた。
衝撃のシーンを目撃してしまった凛は、デスクへ戻りながら考え込む。
(なぜ西岡さんが沢渡さんと? 前はあんなに避けていたのに……。それに、沢渡さんも……ターゲットは、真壁さんじゃなかったの?)
いくら考えても答えは出ない。
凛は諦めたように小さくため息をつくと、気分が悪いまま自分のフロアへ戻っていった。
その頃、奈美と西岡は同時にクライマックスを迎えていた。
「ああんっ、ダメっ、イッちゃう」
「うっ……」
二人は息を荒げながら同時に果てた。
しばらくして身なりを整えた西岡は、少し汗ばんでぐったりしている奈美に声をかけた。
「沢渡さん……いや、奈美……すごくよかったよ」
「私も……西岡さんの、すごいんだもんっ!」
奈美はようやく体を起こし、乱れた服装を整える。
彼女の言葉に気をよくした西岡が言った。
「今度はホテルで会おうよ」
西岡が奈美にキスをしようと顔を近づけると、彼女は素早く避けた。
「ダーメ!」
「どうして? いいだろう?」
「もうっ、西岡さんったらっ! でも、どうしようかなぁ~、奈美のお願い聞いてくれたら行こうかなぁ~」
「もちろん聞くよ。お願いって何?」
「私、勉強のために高級住宅街の豪邸を見て歩くのが好きなんだけどぉ~、ほら、この前うちに来た『不動産王』の自宅を、一度見てみたいなーって思って。彼って渋谷区の松濤なんでしょう? だから、住所を教えてもらえないかしら?」
その言葉に、西岡は驚いた表情を浮かべた。
「なぜ松濤だって知ってるの?」
「だいたいの場所はネットで調べれば分かるわよ。彼、有名人だから」
「そうか。でも、だからってお客様の個人情報は教えられないなー」
「ええーっ、じゃあ奈美、西岡さんとはホテル行かない」
「なんでだよー、さっきは行ってもいいみたいな雰囲気だったじゃないか」
「だからぁ、それは奈美のお願いを聞いてくれたらの話!」
そう言うと、奈美は西岡にぐっと近づき、豊満な胸をグイグイと押し付ける。
その刺激に耐えきれなくなった西岡は、ごくりと唾を飲み込んでから、柔らかな胸の谷間に顔を埋めた。
「あんっっ、気持ちいいっ……もっと……もっとして……」
「しょうがないなあ……でも、住所は誰にも言うなよ」
「あんっ、分かってる……はあっっ……奈美、西岡さんとホテルに行くのすごく楽しみっ♡ あふぅんっっ」
二人がいる会議室からは、再び押し殺したようにくぐもった声と卑猥な音が響き始めた。
西岡に後ろから激しく突かれながら、奈美は余裕の表情でニヤリと笑みをこぼした。
コメント
24件

仕事は完璧なのに颯介さんの気持ちを掴もうと雑誌を読み耽る凛ちゃんは乙女🩷こんな清らかな凛ちゃんに颯爽 介さんは惹かれているのね 凛ちゃんと真逆な奈美‼️女で情報を取ろうとは最低‼️利用された西岡さん共々左遷か懲戒免職ですね😡個人情報は漏らしてはダメよ
西岡まで⁉️ いや〜お下品な2人は早々に退場をお願いしたい‼️ 凛ちゃん、頑張ったね💦 動画は証拠として提出だね🙄

西岡、左遷かクビですな。奈美ももう感づかれてるの分かってないし。でも鬱陶しいですな、この2匹。 凛ちゃんの普通!でお仕事したら、堕とせるんじゃないかって思いますよん。