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その後。レイナードとロシェルは身支度を整えてテントから出ると、寝ずの番をしてくれていたサビィル達に声を掛けた。
「おはようございます。サビィル、シュウ、昨夜は大丈夫だったみたいね」
「あぁ、魔物はあれから全く来なかったから暇なもんだったぞ。シュウがダンスを披露してくれなかったら、あまりに暇過ぎて寝ていたかもしれぬ程安全な夜だった」
「まぁ、シュウがダンスを?私も見てみたかったわ!」
ロシェルが手を叩き、興奮した声をあげると、シュウが「ピャァァッ」と叫びならが何度もジャンプした。楽しみにしていろという事だろう。
「動くたびに光る粒を撒き散らすシュウなら、ダンスは是非夜に見たいな」
興味を持ったのか、レイナードもちょっと興味ありげにそうに言った。
「そうね、きっと綺麗でしょうね。楽しみだわ」
考えただけでワクワクしてきたロシェルがシュウと一緒にクルッと回り、軽くダンスを踊る様な仕草をする。そんな二人を見てレイナードとサビィルが嬉しそうに目を細めた。
朝ご飯を携帯食で簡易的に済ませて、レイナードがテントを片付ける。そして彼等は早速“黒竜の鱗”を探しに森の奥に向かって歩き出した。
もし途中で鱗を拾う事が出来ればそこで目的達成なのだが、ここ何年も『森の中で黒竜の鱗を発見した』という情報は無いらしい。となると、『黒竜は引き篭もりだ』とカイルが言っていたので、住処を探すのが一番確実だろう。
カイルは昔この森で黒竜に会った事があるらしく、その時の場所が高確率で住処から近いだろうという話だったので、彼等は今そこを目指している。
だが奥へ向かうにつれて魔物との遭遇率が高くなっていく。一体だけだったモノが、二体・三体同時にと増えていった。だが、幸いにして魔物達は単体ではそれ程強い存在ではないので、此処までは全てレイナードが一人で対処している。
「……すごいですね、流石です」
ロシェルはペンダントサイズにしていた物を、元のサイズに戻した杖を強く握りしめながら、感動に声を震わせた。
「出る幕無しですが、そんな事がどうでもよくなりますね!カッコイイです!惚れ惚れするわ」
一人で魔物を一掃し続けるレイナードにロシェルがすっかり心を奪われている。絶賛しながら頰染めていて、彼を見る目は完全に『恋する乙女』なのだが、その事にレイナードどころか本人すらも気が付いていない。そんな二人を見て、サビィルは呆れっぱなしだった。
昨夜話し合ったように、食料は、森にいる獣をサビィルが追い立て、ロシェルが雷の魔法で罠を仕掛け、レイナードが調理した。他にも、食べられる木ノ実などをシュウが見付けるといった具合に見事役割分担をしていく。
豊かな大地を誇るこの世界は水場の発見にも困る事なく、上空からサビィルが川を探し出して確保していった。
夜にはロシェルとレイナードが一緒にテントで寝り、シュウとサビィルが寝ずの番をする。
初日のように、レイナードは寝ようとするたび、『今度こそ何も起きないようにせねば』と緊張しっぱなしのスタートだったのだが、朝起きた時には彼女に腕枕をした状態で目覚めるなど、日を追うごとに密着度はアップしていった。
そのたびに『何故こうなった⁈』とは思うが、自制心が強くても所詮はレイナードも男だ。可愛い女性に密着されるのは嫌じゃ無いので、必死に抵抗する事はしなかった。避けられない以上、もうこれは役得なのだと思う事にしたのだ。
——そんな事を繰り返しながら、早くも一週間がすぎた。だが成果は全く得られず、皆の体力だけが段々と疲弊していくが、ロシェルの心は軽かった。
(黒竜の鱗が見つかれば、レイナードは父の古代魔法によって元の世界に帰ってしまう。でも、見つからなければ、まだ彼の側に居られるわ……)
彼の願いを叶えたい気持ちと離したくない気持ちがせめぎ合い続け、何度考えても後者が勝ってしまう。ちゃんと本気で鱗を探してはいるが、見付からなけれないいとも思っていた。
此処に居る間は離れないで済む。その事を励みに、ロシェルは慣れない森での野営生活を乗り切っていた。
レイナードも黒竜やその鱗が見付からない事に焦りは無かった。その一番の理由を彼はわかってはいなかったが、焦った所でどうにかなるものでも無いと思っているのは確かだ。
領地の管理や騎士団長としての責務など、元の世界に気掛かりな事は確かにあるが、自分でなければならない理由は無い。自分が戻らなくてもカルサールには優秀な者が多くいるので『絶対に早く帰らねば、国が!』とは思えなかった。
家族は戦争で失い、もう居ない。
親しい友人は多く居るが、戦地に行くたびに彼等との別れは常に覚悟していたので、今もその延長の様な気分だった。
——離れたく無いと願う者と、現状に対し達観した者。
そんな二人の旅路は、サビィルが心配になる程ゆったりとしたものとなっていた。