テラーノベル
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「そんな雲の上の人が、どうしてこんな場所に? 確か今は、東京帝国医大の理事長じゃなかった?」
「出身はこの愛知県なんだよ。名鳳蓮医大の卒業生さ」
「そうなんだ……。でも、どうしてこんなパーティーに? さっき、この集会を生み出したとか言ってなかった?」
訝しげに眉を寄せ、今さらながら声のトーンを落とす。
「ここは、あの爺さんの秘密の遊び場なんだ。
ほら、爺さんの目の前で二人の男に囲まれてる、あの若い女が見えるだろ?
あの女は爺さんの愛人。そして、その愛人を相手にしてる男たちは名鳳蓮医大の医師だ。二人とも、爺さんが目を掛けてる優秀な外科医だよ」
「愛人!? 待って……その男性たち、教授が可愛がってる外科医なの?」
脳の処理が追いつかない。
悠聖さんの言葉の意味が理解できず、視線だけが落ち着きなく彷徨う。
「あの爺さんは毎回、自分の愛人を直属の部下に抱かせて楽しんでるのさ。
自分の愛する女が他の男に奪われる姿を眺めながら酒を飲む。
なっ? 悪趣味な変態爺さんだろ?」
悠聖さんは楠木教授へ視線を向け、小さく鼻で笑った。
愛人……?
しかも、私と同じくらいの年齢の女性が?
自分の愛人を部下に抱かせて楽しむ……?
頭の中で言葉を反芻しても、まるで現実味がない。
「嘘……でしょ?」
掠れた声が唇から漏れる。
「信じられない……。やってることが異常だわ。まさか、あの楠木教授が……」
私は楠木教授から目を離せないまま、その場に立ち尽くした。
「あの年齢だからな。おそらく男性機能もまともには使えない。……自分では満足させてやれないんだろうな。
――それに、愛人の表情を見てみなよ」
悠聖さんはカーテンの向こうへ顎をしゃくった。
「他の男に抱かれているところを、愛する男に見られて興奮してるんだ。愛情表現なんて、当人たちにしか分からないものさ」
「あれが愛情表現? ……じゃあ、他の人たちは何なの? 全員が教授の愛人や部下って訳じゃないでしょ? 中には大企業の会長の孫娘さんだって……」
先ほどまでソファーに横たわっていた、あの赤いドレスの女性へ視線を向ける。
いつの間にか彼女は身体を起こし、信じられないことに別の男性と唇を重ねていた。
「他の連中は大御所様のお遊びに付き合ってるんだよ。
……まあ、付き合ってると言っても、それぞれが普通じゃ味わえない状況を楽しんでるんだろうけどね」
悠聖さんは腕を組み、壁にもたれながら苦笑を浮かべた。
「お遊びに付き合ってる……」
その時、部屋に響く嬌声が今まで以上に耳にまとわりつく。
私は目を伏せ、両手でそっと耳を塞いだ。
「……部屋を出ようか。そろそろ爺さんのお遊びも終わる頃だ」
私の様子に気づいた悠聖さんは、穏やかな口調でそう言うと肩を軽く叩いた。
私は促されるまま、廊下へ続く扉に向かって薄暗い通路を歩き出す。
――悠聖さん。
麗香の反応を見ていたせいで、最初は軽薄で胡散臭い人だと思っていた。
だけど――。
意外と親切な人なのかもしれない。
前を歩く悠聖さんの背中を見つめながら、小さく息を吐いた。
コメント
1件
ああ、なるほど……。このエピソード、すごく重たくてゾッとしました。楠木教授の“秘密の遊び”が明らかになっていく流れ、読んでいて息が詰まりそうでした。特に、愛人と部下の関係を「愛情表現」と片付ける悠聖さんの冷めた口調と、それに戸惑う主人公の心情の対比が生々しくて……。最後に「意外と親切な人かも」と主人公が感じ直すところ、少しだけ救われる気がしました。続きが気になります。
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