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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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翌日海斗は部屋にいた。

秋のコンサートに向けての新曲づくりに朝から取り組んでいた。


部屋にこもって曲作りに集中する作業は嫌いではない。

大勢の観客を前にして歌うライブももちろん好きだったが、

こういう地味な作業も自分には向いていると思っている。


ギターを弾きながら楽譜にコードを書き込んでいく作業を繰り返していると、

玄関のチャイムが鳴った。

インターフォンのカメラに映っているのはマネージャーの高村だった。


「どうだ、作業は進んでいるか?」


高村は入ってくるなり言った。


「まぁぼちぼち」

「今回は月を題材にした新曲をいくつか仕上げるんだろう? 大丈夫か? 無理だったら早めに言えよ」

「ああ、大丈夫だよ」

「それにしても今回はやる気満々だな。やっぱり何かあったろう?」


高村はニヤニヤして聞く


「しつこいな、何もないよ」

「ふーん、ま、いいけどさ。そうそう、今日は先週収録したラジオ番組の放送があるぞ。11時からだったかな。

もうすぐ始まるから一応連絡!」


高村はそう言うと、持ってきた袋から食料を出し始めた。


「根詰め過ぎて、食べるのを忘れるなよ! ここに置いておくからちゃんと食えよ」


そう言い残すとマンションを後にした。


海斗は両手を挙げてうーんと伸びをした後椅子から立ち上がり、

高村が置いて行ったカウンターの上のバナナを一本取って食べ始める。


(そろそろ彼女から月の写真は来ていないかな?)


海斗はパソコンが置いてあるデスクへ行きメールをチェックしてみる。

しかし何通かの新規メールは来ていたが、美月からのものはなかった。

海斗は少しがっかりした顔をすると、バナナの残りを頬張る。


(忙しいのかな?)


そう思った後、また曲作りに戻った。



一方、美月は今日仕事が休みだった。

朝から掃除と洗濯を済ませ、午後からは母親のところへ顔を出す予定だ。

そして、夜は親友の亜矢子と食事に行く約束をしている。


亜矢子は高校からの親友で、今は結婚していて一児の母だ。

夫の浩が理解ある人なので、子育て中でもこうしてたまに美月との外出を許してくれる。

その間、子供の面倒は浩が見ていてくれるといういわゆる育メンだ。

美月から見た亜矢子の家庭は、本当に仲の良い理想的な家族だった。


(まだ少し時間があるからお茶でも飲もう)


美月はミルクティーを入れると、ラジオをつけて椅子に座った。

するとちょうど、有名アーティストをゲストに迎えて話を聞くという人気ラジオ番組が始まった。

パーソナリティーの男性が甲高い声で言った。


「今日のゲストは、人気ロックバンドの『solid earth(ソリッドアース)』の皆さんですー!

いらっしゃいませー!」


スタジオからは拍手が響く。


「ではメンバーの皆さん、一人ずつ自己紹介をお願いします。まずは、リーダーでボーカルの沢田さんからどうぞ」

「あー、どうも、ボーカルの沢田海斗です。本日はお招きいただきありがとうございます」

「ギターの中島浩です。よろしくお願いいたします」

「ドラムの吉田邦彦です。こんにちはー!」


その時美月は口に入れた紅茶を吹きそうになった。


(えっ?)


右手で握りしめていたミルクティーのカップを持つ手が震えている。

美月はそれをこぼさないように両手で抱えながらもう一口飲んだ。


(落ち着こう。とにかく落ち着こう)


その後、ラジオからはテンションの高いパーソナリティーの声と落ち着いた海斗の声、

そして時折全員の笑い声が入り混じりながら番組は進行していく。

しかし美月の頭にはその話の内容が一切入ってこない。


(聞いたことがある名前だと思ったら、有名人だったんだ)


美月はその時あまりの自分の無知さに気付く。

そして急に恥ずかしくなった美月は、椅子から立ち上がるといてもたってもいられずソファーへ座り

クッションを抱き締め顔を埋めた。

そして、そのままソファーにゴロンと横になる。


(なんで気づかなかったの?)


とにかく穴があったら入りたい…そんな気持ちだった。

するとラジオからは海斗のバンドの曲が流れ始めた。

スローな優しい曲だ。


(あ、これ知ってる。CMにも使われていていいなと思っていた曲だわ)


美月はその時、自分が凄い人とラーメンを食べに行っていた事に気付く。


(そう言えば昨日もらった名刺!)


美月は慌ててバッグの中から海斗の名刺を取り出した。

見ると、それは名前と住所と電話番号、そしてメールアドレスだけが載ったおそらく個人用のものと思われる名刺だった。

事務所名や肩書きは一切書かれていない。


ラジオ番組が終わるまでの間、美月は自分がどうしていたのか全く覚えていない。

とにかく頭が混乱して小さなパニックを起こしていた事だけは事実だった。


ラジオ番組が終わりふと時計を見ると、外出の時間が迫っていた。

とりあえず出かける支度を始めなければと、美月は慌てて出かける準備を始めた。

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