(夜。河川敷。遠くで花火大会。座り込んだまま、ふたりで眺めている)(屋台の喧騒も、歓声も、ここまでは届かない)
蓮司
「……なんか、ぜんぶ他人事って感じだよな、こういうの」
沙耶香
「花火の話?」
蓮司
「夏の全部。テンプレみたいな熱気とか、盛り上がりとか、
“楽しまなきゃ負け”みたいな空気も」
沙耶香
「負けてもいいって思ってるくせに」
蓮司
「言うねぇ」
(遠くで大きな音。空に光の輪)
沙耶香
「きれいなのにね、音がうるさすぎて、すぐ疲れる」
蓮司
「……ああ、すげえわかる。
頑張って開いて、すぐしぼんで、
そのくせバンバン鳴って、見てくれって主張する感じ」
沙耶香
「でも、誰も本気では見てない。
“盛り上がってる自分”に集中してるだけ」
(蓮司、黙って足元の小石を蹴る)
蓮司
「さ。今から手でも繋いどく?
“青春っぽさ”ってやつ、演出してみるか」
沙耶香
「どうせ途中で飽きるくせに」
蓮司
「否定しないのがいいとこ」
(花火の光が、沙耶香の顔を一瞬だけ照らす)
蓮司
「……顔、明るくなると美人すぎてやばいんだよな。
今の見た? 一瞬だけ、世界が勝手に演出してた」
沙耶香
「じゃあもう終わっていいね。
あとは残り香だけ楽しめば」
蓮司
「冷たいな〜」
(しばらく無言。夜風。草の匂い)
沙耶香
「“綺麗なものは短くていい”って思ってるでしょ」
蓮司
「思ってる。“消える美”ってやつ、
長く続くと台無しになるから」
沙耶香
「……じゃあ、私といるの、いつまで?」
蓮司
「それ言う? 俺に」
(少し笑って、わざと目を逸らす)
蓮司
「消えられないって知ってるくせに」
沙耶香
「知ってる。だから聞いた」
(小さな花火音。
もうクライマックスが近い。
誰もいない河川敷で、ふたりだけが静かに座っている)
蓮司
「……終わったら、かき氷買って」
沙耶香
「いいけど、食べきれる?」
蓮司
「無理。途中で冷たくなって歯痛くなる。
でも隣にいてくれれば、まあ、なんとかなる」
(沙耶香、軽く笑って立ち上がる)
(蓮司も遅れて立ち上がる)
沙耶香
「……気まぐれなわりに、執着が重いのね」
蓮司
「それ、褒め言葉として受け取っていい?」
沙耶香
「どっちでも」
(ふたり、並んで歩き出す。
花火はまだ終わらない。けれど、ふたりにはもう関係ない)