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掌に残る土の感触を、私はしばらく離せずにいた。 爪の間に入り込んだ黒土が、なによりも確かな証だった。
「……これでまた耕せる」
言葉は独り言のように漏れた。けれど、確かに心の奥から湧き出ていた。
白い髪の少年はにっこりと微笑む。
「根を張れる場所があってよかったね」
黒い髪の少女は少し首を傾げて、優しく目を細めた。
「でも、土は重たいもの。背負いすぎて歩けなくならないで」
私はふたりを見て、ただ深く頭を下げた。
それ以上の言葉は、もう必要なかった。
玄関へ戻り、扉を押し開ける。
外に広がる景色は変わっていた。
紫がかった空と流れる川の下に、広大な大地が横たわっている。
丘が起伏し、地平線は遠く霞んで見えた。
重い袋を背負い直すと、その重みが今日は心地よく感じられた。
私の足跡が、今度こそこの土に刻まれていくだろう。
振り返れば、館の窓から子供たちが並んでこちらを見ていた。
ふたりは声を揃えて笑う。
「またね」
その声を背に受けながら、私は歩き出した。
赤と青と風を抱いた空の下、大地の道を踏みしめて。