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「楓ちゃんの店にもよく来てる人でしょう?本当に助かっちゃったわ」
「はは、それは良かったです」
俺の心情など露知らずの2人は話を進める。
「でもこんなとこまでごめんなさいねえ」
「いえいえ、自分の家、この近所のレジデンス花影ってアパートですし、またなにかあればいつでも言ってください」
俺は犬飼さんの言った「レジデンス花影」という単語に既視感を覚えた。
「…あ、あの、犬飼さん、今レジデンス花影って言いました?」
「?言いました、けど?」
「えっ、俺もそこ住んでるんですよ…!」
「え、奇遇ですね」
「あらあら、二人ってば良いご縁があるものね。なんにしろ、助かったわ。ありがとう」
そう言って相澤さんは一人ガーベラのコーナーに進んで行った。
取り残された俺と犬飼さん
先に口を開いたのは犬飼さんで
「花宮さん…それはそうと、大丈夫ですか?」
「えっ?」
「なんだか顔色悪いですよ。」
「え、そうですか?ちょっと最近寝不足で……」
そう笑って返すと犬飼さんは
「一人で経営するだけでも大変ですもんね」
と言ったので少し間を開けて俺は口を開いた。
「実は最近、変な贈り物が届くこと多くて…他にも色々あって疲れてるんだと思います……」
流れでそう言ってしまいハッとすると
「変な贈り物ってのは…?」
と顔を覗き込むように聞かれたが
「あっ、いや、すみません、やっぱり今のは気にしないでください!」
と、誤魔化した。
◆◇◆◇
その翌日、24日
例に習って店に出勤し、準備を済ませると
今日はなにもありませんように、と願ってポストの郵便物の有無を確認しに行く。
しかし、今回はダンボールも無ければバラやメモもなくて。
その代わりに異様に分厚い封筒が1つ入っていた。
その封筒を手に取りを見てみるも
差出人の名前は書いておらず、また宛先も俺の名前だけだった。
そろそろ嫌がらせにすら感じてきて
今日はなんだろ、と思いスタッフルームに移動して机の上で封を切ると
無理やり入れたのか、中々全部は出てこなくて
1枚ずつ取り出して行く。
一枚ずつ確認していくとそこには、大量の俺が写っていた。
「は?…なにこれ……」
10枚ほど抜いてから、不思議に思い封筒を逆さまにして振ってみると
中からは40枚ほどの俺の写真が出てきた。
「……なに、これ…っ、盗撮…?」
拾い上げてみるとそれはどれも隠し撮りのようなアングルで撮られており
俺が店で花の手入れをするところ
向日葵をラッピングしているところ
シャッターを閉めている瞬間
夜道を歩いている後ろ姿
夜道でキョロキョロとする姿
花に水やりをしている姿など俺1人だけが写っているものばかりだった。
なんで
なんで……俺なんかを?
「っ……」
写真に写る自分の姿を見る度に恐怖心が募り、思わずその場にしゃがみこんでしまう。
赤い薔薇にシランに大輝くんにこの盗撮写真に今にも頭がパンクしそうだった。
絶対、警察に行った方がいい。
ただ、何からしたらいいのか分からない。
相談したいことがありすぎる。
どっちにしろこれはもう、誰かに相談するしかない。
そう思い、小さく震える足を奮い立たせて店内に戻った。
◆◇◆◇
午後12時過ぎ───…
いつも通り明るい接客を心がける。
花に水やりをし、お客の会計に周り
予約客に商品を渡し、花の仕入れ
管理、発注の確認をしつつ、接客に回る。
空元気でやっていた。
そのうち犬飼さんや大輝くん、相澤さんや
常連のお客がぞろぞろと出入りを繰り返していた。
(立っていられるのだから、笑えるのだから……まだ大丈夫だ…)
そう言い聞かせて大輝くんに注文を受けたドライフラワーを運んでいたとき
視界がグラっと揺れ
やばい、倒れると思い目を瞑った。
しかし、一向に痛みはこなくて
「花宮さん、大丈夫?」
「あ……犬飼、さん…?」
タイミングが良すぎるが、どうやら犬飼さんに支えられて転ばずに済んだらしい。
「すっすみません、助かりました…」
お礼を言って離れ、身を翻してレジに戻ろうとしたが、犬飼さんには悟られていたようだ。
「昨日より、顔色悪そうですが、大丈夫ですか?」
「っ……」
「なにか、あったって顔ですね」
その低く芯のある言葉に、俺は頼らずにはいれなかった。
「すみません…実は今朝、俺のことを盗撮してる写真が何枚も届いて……ちょっと困惑してて」
「盗撮写真?」
「はい、隠し撮りで俺が1人写ってるやつとか、俺の写真が……」
「それ、誰か心たりはないんですか?」
「一人だけ、疑ってる人はいますけど…確定ではな
くて」
「なら、被害届だけでも出した方がいいかと。普通に犯罪ですし、店を休んででも絶対警察には行った方がいいですよ」
「これからどんどんエスカレートして手が付けられなくなる可能性もありますし」
「た、確かにそうです、よね……すみません、ありがとうございます、犬飼さん」
「明日にでも行ってみます」
「それがいいと思います。それに、ちょうど俺、隣の部屋ですし、もし何かあればいつでも連絡ください、腕っ節には自信があるので」
「ははっ、そんな感じします。ありがとうございま
す」
犬飼さんにお礼を言ってから、俺は接客に戻った。
◆◇◆◇
その日の帰路
肩にかけたトートバッグの持ち手をぎゅっと両手で掴みながら
夜道に物怖じしつつ自宅までの帰路を進んでいた。
そんな中、誰があんな気色の悪い写真を何枚も撮影して
わざわざ丁寧に送ってきたかを考えたとき
…..やはり大輝くんしか思い浮かばない。
大切なお客を疑いたくは無いが
大切なお客を疑いたくは無いが、大輝くんはケーキに関しても訝しい点があるし
100%信用出来るのかと言ったらそうではない。
お客は神様でも友達でもない。
いくら常連でも優しい人でも、あくまで客と店員なのだし
差し入れと言ってあんなケーキを渡して祝ってくる時点でおかしいだろう。
感想を聞いてきたときの様子も変だったし
もしかしたら他にもなにか仕込まれていた可能性もある。
そんなものを軽々と受け取ってしまった自分の流されやすさにも呆れてしまうが…
「大輝くんだ」と自分に言い聞かせることで
不安を少しでも小さくしたいだけなのかもしれないが、正直、疑心暗鬼すぎて嫌になる。
そんな独り言を胸に溜め込んで
無事アパートの前に到着した。
階段を上がり、自分の部屋の前で立ち止まる。
ガサゴソとバッグの底からディスクシリンダー錠の家の鍵を取り出し鍵穴に差し込む。
それを回して抜き、ドアノブを回すがなぜか扉がしまったまま開かない。
(あれ、もしかして俺、今朝…戸締りし忘れた……?)
今朝、出勤前に戸締りをしっかりした記憶はある。
でも、もしかしたら俺が忘れてるだけかもしれないと
扉を開けて玄関に入ると、玄関の電気も付けっぱなしになっていた。
それだけはおかしい
朝出るときはクーラーが付いていないか
窓を鍵までちゃんと閉めているか
必ず全ての電気を消して確認してから外に出る。
今朝もちゃんと電気を消した記憶はあった。
どことなく人の気配もする気がして
空き巣の可能性を疑い
嫌な予感を胸に抱きつつ、腹を括ってリビングに進む。
すると
「え…なっ、なんで……っ」
そこにいたのは俺の家にいるはずのない
居ていいはずのない、大輝くんだった。
「おかえり、楓さん。待ってましたよ」
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