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次の週、瑠璃子はいつものように仕事に取り組んでいた。

今日は仕事の後、心臓血管外科のメンバーが瑠璃子の歓迎会をしてくれるので楽しみにしている。


昼休み、瑠璃子は少し遅めに食堂へ行った。

すると内科の先輩・木村が一人で食事をしていた。木村は瑠璃子を見つけると、


「瑠璃ちゃんこっちこっち」


と手を振って瑠璃子を呼ぶ。

瑠璃子は嬉しそうに木村の前に座った。


「わぁ、木村さんとお昼食べるの久しぶり」

「どう? 外科にはもう慣れた?」

「はい、だいぶ。玉木さんがいるのですごく心強いです」

「瑠璃ちゃんは外科に行っても即戦力だって噂になってるわよ」

「そんな事はないですけど東京では外科を一番長くやっていたので思い出しながらなんとか…」

「そういえば瑠璃ちゃん岸本先生の担当になったって本当? 玉木さんが言ってたけど大丈夫なの?」


木村が心配そうに聞いたので瑠璃子はクスクスと笑う。


「なんか岸本先生って悪魔みたいな扱いですね。でも全然怖くないですよ、患者さんにも優しいし」

「えーそうなのぉ? 瑠璃ちゃんすごーい」


木村が感心したように言うのを見て瑠璃子はまたクスクスと笑った。

その後瑠璃子は木村と共に楽しい昼休みを過ごした。



夕方仕事を終えた日勤組の看護師達はロッカーで着替えをしていた。これから歓迎会が行われる店へ移動する予定だ。店は幹事である大輔が予約している。

着替えながら新人看護師の田中が可愛らしい甲高い声で玉木に聞いた。


「今日はデスラーも来るんですか?」

「うん、珍しく今日は参加するらしいわ。ま、幹事だから当然か」


それを聞いた田中はたちまち不安気な表情になる。


「うわぁ来るんですか? じゃあなるべく遠くの席に座らなくちゃ」


思わず瑠璃子はプッと噴き出す。大輔は田中に相当嫌われているようだ。

田中の全身からは大輔に近づきたくないオーラが溢れている。


そしてナース達は2台のタクシーに分乗して予約してある店へ向かった。

タクシーが目的の店へ到着すると皆驚く。

店は洋風のダイニングバーでとてもお洒落な雰囲気だ。皆この店に来たのは初めてのようだ。

そこで玉木が言った。


「へぇ……デスラー結構センスいいじゃん」

「ほんと、駅の近くにこんなお洒落な店があったんですね」

「いつもの居酒屋かと思ったら良い意味で裏切られたわねー」

「黒板のメニュー見て! なんか美味しそう」


大輔のセレクトした店はかなり好評のようだ。


店に入ると心臓血管外科の男性医師4人が既に席に着いていた。

瑠璃子達が近付くと長谷川が声をかける。


「おー、来たか、お疲れさん!」


そこには大輔もいた。男性医師は4人同じテーブルに座っている。

女性陣が隣のテーブルへ向かったので瑠璃子もそこへ座ろうとした。

すると長谷川が瑠璃子に声をかける。


「瑠璃ちゃんは主役なんだからこっちこっち」


瑠璃子は仕方なく医師達がいるテーブルへ座った。

新人の田中は大輔から一番遠い席へ座る事が出来たのでニコニコしている。


皆が揃ったところで長谷川が挨拶を始めた。

瑠璃子が異動してきてすぐに即戦力として活躍してくれている事、そして心臓血管外科チームのメンバーが瑠璃子の事を温かく迎え入れてくれた事に対し長谷川は皆に感謝の気持ちを述べる。そこで拍手が沸き起こる。

そして皆で乾杯した後はそれぞれが自由に飲食を始めた。


瑠璃子は医師達にお酌をしてから料理を食べ始めた。料理はどれも美味しい。

その時瑠璃子が今まであまり会話を交わしたことのない皆川(みながわ)という医師が瑠璃子に話しかけてきた。


「僕、村瀬さんとは今まであまり話す機会がなかったので今日はお話し出来て嬉しいなぁ」


皆川は30代半ばの医師で心臓血管外科のドクターの中では一番若い。

話し方がソフトでアイドル系の顔立ちをしているのでかなりモテるだろう。瑠璃子の直感では職場恋愛でトラブルを招くタイプに見えた。

そんな皆川は話を続ける。


「村瀬さんは東京ではどこの病院にいたの?」

「城南大学病院です」

「え? マジで? 僕の同期の整形外科医が今そこにいますよ」


共通の話題が出来た皆川は嬉しそうだ。その後も瑠璃子を会話に引き込もうとあれこれ話しかけてくる。

二人の会話を同じテーブルで聞いていた大輔は心なしかムスッとしている。そんな大輔に気付いた長谷川は瑠璃子と皆川の会話に割って入った。


「瑠璃ちゃん、皆川君は結婚しているから気をつけてね。こうやっていつも看護師をたぶらかす悪い奴なんだから」

「えっ? そうなんですか?」

「長谷川先生ひどいなー。別に僕は下心なんてないですよー」


バツの悪そうな顔をした皆川はグラスを持つと逃げるように隣のテーブルへ移動した。すると看護師達からは「キャーッ、皆川先生が来たー」と歓声が上がる。

それを見た長谷川はやれやれといった様子で瑠璃子にこう言った。


「瑠璃ちゃん、ああいうのには気をつけてね。優しそうなふりをして近づく遊び人の医者は結構多いからねー」

「フフッ、大丈夫です。私も無駄に年をとっていませんから」


瑠璃子の言葉に長谷川とその隣にいた長谷川の同期の山口(やまぐち)医師が声を出して笑った。

大輔は笑わずに無表情のままだ。


その時山口の携帯が鳴った。


「ちょっと失礼」


山口は席を立って店の外へ向かいながら電話に出た。

電話を終えて戻って来た山口は受け持ちの患者の容体が急変したので病院へ戻る事になりバッグとコートを手にする。


「村瀬さん、せっかくの歓迎会なのにごめんね」

「いえ、お気になさらずに。お気をつけて」


ちょうどトイレへ行こうとしていた長谷川が山口を見送りに行った。


大輔と二人だけになった瑠璃子は大輔に聞いた。


「急な呼び出しって結構あるんですか?」

「術後の患者さんを受け持っていると時々ね。山口先輩の手術した患者さんはかなり高齢の方なのでちょっと心配だね」


大輔はそう言ってワインを一口飲む。


「このお店は先生が予約してくれたのですか? 女性陣にかなり評判がいいみたいですよ」

「それは良かった。いつも行く居酒屋はみんな飽きているみたいだからここにしてみたんだ」

「いいお店ですね、お料理も美味しいし。先生はこういう場でお酒を飲むんですね」

「送別会や歓迎会の時はたまにね。まあ普段はあまり参加しないけど」


(今日は幹事だから参加してくれたのかな?)


瑠璃子がそんな風に思っていると大輔が聞いた。


「そういえばクリスマスのシフトはどうなった? まだ出てない?」

「はい、まだです。私は異動したばかりなのでいきなり希望も出し辛いですし…だから師長にお任せになっちゃうかも。シフトは来週にはわかると思いますが」

「僕も来週にならないとわからないな。決まったらまたメールするよ」


瑠璃子は頷く。

その時トイレから戻って来た長谷川が二人に言った。


「なになに? クリスマスの話? いいねぇ若い人たちはー」


長谷川のからかうような言葉に大輔が言い返す。


「長谷川先輩にはご家族がいるじゃないですか」


すると長谷川はニコニコしながら携帯を取り出し待ち受け画面に写っている愛娘の写真を瑠璃子に見せた。


「うわぁ、かわいい! 小学校1~2年生くらいですか?」

「うん、今年小学校に入ったんだよ。もうかわいくって仕方がないよ」


長谷川は微笑んでから二人に向かってこう言った。


「そうそうクリスマス休暇についてですが、我が心臓血管外科では今年は独身者を優先にしようっていう事に決まりましたー。いつも既婚者子持ち優先で休暇を取らせてもらっていたからたまには独身組にも楽しんでもらおうという事でね。もちろん看護部の皆さんも同じですよ。だから二人とも24日は休みだから思う存分楽しみたまえ!」


長谷川はニコニコしながらそう言うと隣のテーブルへ移動した。


「休めるみたいですね」

「そうみたいだね。こんな事今までなかったから驚きだな」



その後歓迎会は午後9時におひらきとなり、帰りはタクシーを数台呼び同じ方角の者同士相乗りして帰る事になった。

同じ方向の大輔と瑠璃子は二人一緒のタクシーに乗る。


タクシーが走り始めると大輔が言った。


「24日の件はまたメッセージで連絡するよ」

「はい」


その時窓の外には大粒の雪が舞い下りてきた。


「あ、雪!」

「本格的に降ってきたな」


そこで大輔は思い出したように言う。


「雪道運転の練習もしなくちゃね」

「先生ご指導していただけますか?」

「しないとまずい事になるよね」


そこで二人は声を出して笑う。


大輔は雪が本格的に積もったら無理して車に乗らないようにと瑠璃子に言った。

降り始めの雪は滑ってかなり危険なので出来ればバスを利用するか時間が合えば大輔が瑠璃子の家に寄ってくれると言った。


瑠璃子はいよいよ岩見沢にも本格的な雪のシーズンが到来した事を知る。


やがてタクシーは瑠璃子のマンション前に到着した。


「今日はありがとうございました。おやすみなさい」

「おやすみ」


タクシーを見送った瑠璃子が空を見上げると、真っ暗な夜空から真っ白な大粒の雪がはらはらとこぼれ落ちてくる。

街灯に照らし出され浮かび上がる雪が舞い下りてくる様子はとても幻想的だ。


静まり返った北の町の雪空はなぜかロマンティックな気分にしてくれる……瑠璃子はそんな気がした。

ラベンダーの丘で逢いましょう

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