その後眠りについた楓は、一時間後一樹に起こされる。
「楓、そろそろ起きないと遅刻するぞ」
ぐっすりと眠っていた楓はその声にハッとする。
楓が目を開けると、そこにはワイシャツとスラックスを身に着けた一樹が立っていた。
一樹はもうシャワーを浴びたようだ。
「あっ、どうしよう……寝坊しちゃった?」
「まだ出掛けるまで一時間ある。シャワーを浴びておいで」
「ちょっ、朝食は?」
「途中で何か買って会社で食べればいいさ」
その言葉に楓はホッとすると慌てて起き上がる。
しかし自分が何も身に着けていない事に気付くと、慌てて布団で身体を隠し頬を赤らめた。
「ハハッ、今更照れるなよ」
「…………」
「ほらっ、早くしろ。本当に遅刻するぞ」
一樹が寝室を後にすると、楓は慌ててバスルームへ向かった。
一時間半後、楓は会社のデスクにいた。
来る途中コンビニに寄って一樹に買ってもらったサンドイッチをモグモグと食べている。
そこへ南が出勤して来た。
「楓ちゃんおっはよー! あれ? 朝食食べ損なっちゃったの?」
「あ、はい、ちょっと寝坊しちゃって……」
楓は上手く嘘をついたつもりだったが南には通用しない。
「ラブラブで寝過ごしかぁ~、幸せそうでいいわねぇ~♡」
「ちっ、違いますっ」
「ウフッ、楓ちゃん隠しても無駄よ。首筋にしっかりついてるよ、キスマークが♡」
その言葉にギョッとした楓は、慌ててバッグの中の化粧ポーチからコンパクトを取り出す。
そしてすぐに鏡で首の辺りをチェックした。
「あ……」
「男ってさぁ、どうして自分の所有物にマークをつけたがるのかしらねぇ。まさかあの社長までそうだなんてビックリよー」
「すみません……」
「アハハ、楓ちゃんが謝る事ないよ。それよりこれで隠すといいよ」
南は自分の化粧ポーチの中からリキッドファンデーションのチューブを取り出すと楓に渡した。
「それを塗ってパウダーをポンポンしておけば目立たないから」
「ありがとうございます」
楓はその場ですぐに塗ってみる。するとキスマークはほとんど目立たなくなった。
その時ちょうどパートの矢崎(やざき)が出勤して来たので、南は楓に矢崎を紹介した。
矢崎の夫は藤堂組の組員だと聞いていたので、楓は矢崎の事をシャキッとした強そうなイメージの女性だと思っていた。しかし実際に会った矢崎はまるで正反対だった。
ニコニコと笑みを浮かべた矢崎は、優しい雰囲気の控えめな女性だった。
楓はそんな矢崎に一日ついて、仕事の事を色々と教えてもらう。矢崎の指導はとてもわかりやすく親切で丁寧だった。
そして仕事の合間には、休憩がてら女三人でお茶を飲んで話に花を咲かせる。
南と矢崎のお陰で、楓はこの日一日楽しく仕事をする事が出来た。
(こんなオフィスライフを楽しめる時日が来るなんて思ってもいなかったな)
楓は感慨深い気持ちでいっぱいだった。
その日仕事を終え楓が帰り支度をしていると、ヤスが傍に来て言った。
「楓さん、今日から帰りは俺が送らせていただきます」
突然そんな事を言われたので楓は驚く。
「え? 一人でも大丈夫ですけど?」
「いえ、これは社長からの命令なんです。最近うちのシマで物騒な事件が頻発しているんで、念の為に帰りは送るよう言われました」
楓はびっくりして隣にいた南を見る。
「なんかね、最近九州の奴らがうちのシマで暴れてるんだって。それでちょっと警戒を強めているんだよね?」
南はヤスに聞く。
「そういう事! あいつらは結構野蛮だから用心するに越した事はないんですよ。あ、でも心配しないで下さい。どこか寄りたい所があればちゃんとお連れしますから遠慮なくお申し付け下さい」
ヤスは微笑みながらうやうやしく頭を下げる。
「そうだよ楓ちゃん、行きたい所があれば遠慮なく言って大丈夫だからね」
南がヤスをフォローするような事を言ったのでヤスは嬉しそうだ。
「南も用事がないなら今日一緒に乗ってけよ。楓さんを送った後マンションに寄ってやるから」
「やった、ラッキー!」
「他人事じゃなくお前も気を付けるんだぞ。くれぐれも油断するな」
「わかってるって。じゃあ楓ちゃん、私も乗せてもらうねー」
南も一緒ならと、楓は送ってもらう事にした。
「じゃあお願いします」
「承知です。じゃあ地下の駐車場で待ってますね」
ヤスはニッコリ微笑むと駐車場へ向かった。
帰り支度をしながら楓は南に聞いた。
「九州のヤクザって?」
「『梅島会』って聞いた事ある?」
「はい。ニュースとかで…」
「それよ。梅島会の若い奴らが最近うちのシマを荒らしてるみたいでさぁ。昨日もうちが経営している『グリシーヌ』っていうクラブに来たみたい。それでひと騒動あったらしくてヤスも急に夜中に呼び出されてさぁ……大変だったらしいよ」
「夜中に?」
「うん。社長も一緒だったでしょう? 帰ったのは明け方だったんじゃない?」
「あ、たしかに…」
一樹の朝帰りの原因が女性でない事がわかると、楓はなぜかホッとしていた。
「だからちょっとひと悶着ありそうで嫌な感じだよねー」
「一悶着って…どんな?」
「梅島会は荒くれ集団だからすぐにチャカをぶっ放す事で有名じゃない? だから怖いんだよねー」
「チャカ?」
「あ、チャカっていうのは拳銃の隠語ね。うちの組は表面上はおとなしい組で通してるからうちらの事を舐めてかかってるんだよねー。それに関東の他所の組もあいつらには手を焼いているみたいだし、本当に困っちゃうよねー」
裏社会の生々しい現実を聞いて楓は驚いていた。
「あ、ごめんごめん、いきなり拳銃の話なんてしたら驚いちゃうよね。でもうちの組自体は極めておとなしい集団から大丈夫よ。ただ向こうから仕掛けられたらどうなるかな? 何も起きないといいけど……」
「…………」
楓は裏社会の現実を目の当たりにし、不安な気持ちに包まれていた。
(何も起きないといいけれど…)
楓はせっかく手に入れたこの平穏な日々が、いつまでもずっと続きますようにと祈るような気持でいた。
コメント
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「マグナムカズキノコ」に思わず吹きました~Wwww 不穏な動きが気になります😰 やはり九州から帰って来た栄子さんは 怪しいですよね…😓 一樹さんやヤスさん、楓ちゃんと南ちゃんも どうか気をつけて....
瑠璃マリコ先生のコメ🤣 コメ隊の皆さんのコメ マグナムカズキ🍄🤣🤣 梅島会😱栄子さんの事は 一樹さんもう調査済みだと思う! 一樹さんと楓ちゃんのラブラブが進んで🥰嬉しい 時に不穏な空気😱2人のラブに安心して過ごして欲しいけど裏社会だから 色んな現実が起きますよね!😨
ばずーかをぶちかまして、すとらいきぃりっち、すとらいきぃりっち、ばくはつをおこしそうだぜぇ(たぶん誰にも分からない聖飢魔Ⅱ‵ROCK'N ROLL PRISONER’)聖飢魔Ⅱは、今年地球デビュー40周年を迎えるのである。むはははは。44マグナムは、ええっと、もっと長くて48年やったかな。えっ。ロックの話やない。キノコの話でしたか。あら、どうもすんません。