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その日の仕事を終えた瑠璃子はロビーを横切り職員通用口へ向かっていた。


(スーパーで買い物をしてから帰ろう。今夜は何を食べようかな?)


そんな事を思いながら歩いているとロビーでばったりと医師の佐川に会った。


「瑠璃ちゃんお疲れ!」


同僚からはもうすっかり『瑠璃ちゃん』というニックネームで呼ばれるようになっていた。

この病院で働くスタッフはニックネームで呼び合うのが当たり前のようだ。瑠璃子が前にいた東京の病院では有り得ない事だった。


突然佐川に呼び止められた瑠璃子は笑顔で返す。


「お疲れ様です」

「お疲れ! さっきさぁ、503号室の真美ちゃんに最近だいぶ調子が良さそうだねって聞いたら瑠璃ちゃんに話を聞いてもらって心が楽になったって言ってたよ。一体どんな魔法をかけたんだい?」

「フフッ内緒です。でも真美ちゃん元気になって良かったー」

「あと鈴木さんがさぁ、瑠璃ちゃんとの毎日のお喋りが楽しくてなんとかおやつを我慢出来るようになったと言ってたよ」

「それは良かったです。ただ鈴木さんと話しをする時には食べ物の話題を入れられないのがちょっと残念ですけど…」

「じゃあファッションの話でもしたら?」


佐川が茶化したので瑠璃子は思わず声を出して笑った。


その時、売店に買い物に来た大輔が偶然二人の横を通った。

二人が楽しそうに話しているのを見てムスッとしている。そんな大輔に佐川が声をかける。


「おい、大輔! ちょっと来いよ」


瑠璃子はそこで大輔が後ろにいた事に気付く。

佐川に呼ばれた大輔は無表情のまま二人の傍へ来た。

すると佐川が瑠璃子に聞いた。


「瑠璃ちゃんは大輔と初対面じゃないんだよね?」


瑠璃子は頷いてから大輔に声をかけた。


「お疲れ様です」

「どうも」


大輔は軽く会釈をする。


「僕と大輔は大学の同期なんだよ。こいつ不愛想だろう? でも気にしないでね、いつもこうだから」


佐川は大輔の事をからかうように言った。

それを聞いた瑠璃子が驚いた顔をする。


「え? 私は別に不愛想だとは思いませんけど?」


瑠璃子は佐川に向かってきっぱりと言った。

瑠璃子の言葉に男性二人が驚きの表情になる。


「じゃあ私はお先に失礼しまーす」


瑠璃子はニッコリ微笑むと出口へ向かって歩き始めた。


佐川はポカンとしていた。

一方大輔も驚いた顔のまま遠ざかって行く瑠璃子を見つめていた。

そんな二人の事など気にする様子もなく瑠璃子はさっさと車に乗り込み家路に着いた。


医局に戻った大輔はコーヒーを淹れえてから売店で買ったパンを食べ始める。

食べながら先ほどの瑠璃子の言葉が頭の中に何度も思い浮かぶ。

佐川に対してきっぱりとものを言う女性を見たのは初めてかもしれない。


佐川は医学部時代から女性にモテて大人気だった。

女性の扱いに慣れた佐川が話しかけた相手は誰もがうっとりして佐川の言いなりだ。

佐川も大輔と同じ独身で、これまで病院内では数々の職場恋愛を繰り返してきた。いわゆるプレイボーイというやつだ。

ただし佐川は別れ方が上手いので恋人とはその後良き友人となり職場でも普通に接している。


そんなプレイボーイの佐川に対しはっきりとものを言う女性を見た事がなかった。

しかし先ほど瑠璃子は佐川に対しきっぱりと言い返した。それも大輔を庇うような内容をだ。

その事実に大輔は軽く衝撃を受けていた。


大輔はパンを食べ終えるとパソコンを見つめたままぼんやりと上の空だ。

仕事に集中しようとしてもどうにも集中出来ない。


そんな大輔に気付いた長谷川が言った。


「大輔先生、どうしたんですか? 恋でもしましたか?」


長谷川は大輔を茶化した。そこで大輔はムキになって返す。


「先輩、個人的な事をあまり詮索されたくないんですが」


それを聞いた長谷川は大輔が否定をしなかったので思わず微笑んだ。



その頃、買い物を終えた瑠璃子はマンションへ戻っていた。

買い物袋をキッチンへ置くと先にシャワーを浴びてから夕食の準備を始める。


グラタンが食べたかったので今夜はシーフードグラタンを作った。

グラタンは3皿分作って2つは冷凍保存しておく。

その他にアボガドとトマトのサラダを作ってからほくほくのグラタンと共に新しいダイニングテーブルへ運んだ。

飲み物は白ワインをグラスに一杯だけ注ぐ。


瑠璃子はテレビを見ながら久しぶりにちゃんと作った夕食をゆっくりと食べた。

最近漸く仕事にも余裕が出てきたので夕食を作る気力が戻ってきた。

これからはなるべく自炊に戻そうと思う。

久しぶりに作ったシーフードグラタンはとても美味しかった。


食べ終えてから後片付けを済ませると、瑠璃子は久しぶりにパソコンの電源を入れてから小説投稿サイトを開いた。

忙しかったのでここを見るのは久しぶりだ。

お気に入りの『promessa』の小説は新たに二話更新されていたので早速瑠璃子は読み始めた。


小説の中の幼かった少女は中学生になっていた。そこでは思春期の難しい時期の少女の心情が詳細に描かれている。

北海道へ来てからぐんぐんと成長し思い悩んでいる少女の姿は瑠璃子の子供時代に似ていた。

そんな少女の姿に瑠璃子は親しみを覚える。


小説を読み終えた瑠璃子は今度は『promessa』のエッセイを開いた。エッセイも新たに一つ更新されていた。

エッセイには今回も写真が添えられていた。

写真には真っ赤なナナカマドの葉と真っ青な空が写っている。

それは瑠璃子が今日の昼休みに裏庭で見た景色によく似ていた。

紅葉した真っ赤なナナカマドの葉と真っ青な空のコントラストがとても美しい。

瑠璃子はしばらくその写真に見入った後、エッセイに目を通す。



『宝物』


僕は宝物を見つけた

街中が鮮やかに彩られる季節

僕は大事な大事な宝物をようやく見つけた

ずっとずっと探していた大事な宝物

それはこんなに近く手の届く距離にあったんだね

信じていればいつかきっと見つかると思っていた

僕の大切な宝物 大事な大事な宝物



瑠璃子にはその『宝物』が何を意味しているのかわからない。

しかし彼は大切な何かを見つけたのだ。

瑠璃子はその『宝物』が何を指しているのかが気になる。


『promessa』については何も知らないのになぜか瑠璃子は彼の事が気になっていた。

それは『憧れ』のようなものなのか? それとも『恋』なのか?


瑠璃子が北海道へ来た理由は中沢から逃げる為だった。

しかしもしかしたら他にも理由があるかもしれない。

その理由とは『promessa』なのだろうか? それとも何か他に違う理由があるのか?


いずれにせよ今瑠璃子は今確実に北の大地に根を下ろしていた。


思い出の地・岩見沢での瑠璃子の生活はまだ始まったばかりだった。

ラベンダーの丘で逢いましょう

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