テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「うっ……うるさいわねっ……」
「お客様は、とてもお顔立ちがいいので、メイクのし甲斐がありました。とてもお似合いですよ」
拓人と女のやり取りを見ていた美容部員が、ニッコリと二人に微笑むと、彼は財布を取り出し、ブラックのクレジットカードを取り出した。
「今、美容部員さんが彼女に使った化粧品、全て購入します」
「えっ!? ちょっ──」
彼がクレジットカードを店員に手渡しているの見た女は、ポカンとしながら、拓人に顔を向ける。
「お買い上げ、ありがとうございます。では、お会計と商品の準備をしてきますので、少々お待ち下さいませ」
制服をキッチリと着こなしている美容部員が、笑みを湛えながら、拓人と女に深々とお辞儀をした。
「ねぇ! いきなり何なの!?」
「あれ? メイク用品欲しがってたよな? ドラッグストアで、あんな事しようとしてたワケだし……」
女は小声だが強い口調で拓人に詰め寄る。
だが、『どこ吹く風』とでも言うように、しれっとした表情を浮かべている彼。
「っ……」
苦虫を噛み潰した面差しで、女は拓人を睨みつける。
「お待たせ致しました」
会計を済ませ、マットな質感のショップ袋を持った美容部員が、上品な笑みを覗かせながら、それを女に手渡す。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
両手を合わせて恭しく一礼する店員に、拓人と女も軽く会釈した後、二人はデパートを後にした。
「さすがに腹が減ってるよな。そろそろ晩メシにするか」
外はすっかり夜の帳が下り、街灯が駅周辺を照らしている。
彼が暮らし始めたホテルに向かって一歩踏み出そうとするが、女は立ち止まったままだ。
「あれ? どうしたの?」
拓人は歩み寄り、顔を覗き込むと、女は黙ったまま俯いていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!