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こんにちは、けるもです。
今回長めです、おそらく。
本編どーぞ。
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「俺さ、バンド無理だわ」
“あっち行こう”と、公園を指し透星が一言。
公園のベンチに腰をかける。
透星はベンチの正面にあるシーソーの手持ち部分に足をかけて座った。
やがて、透星は言った。
「陽朔音、それ本心じゃないでしょ」
心を見透かされた気がした。
透星は言葉を続ける。
「陽朔音がそんなこと言うわけない。どうせお前のことだから、『やりたい』だけじゃ務まんねぇとか思ってるんだろ。顔に出てる。 」
そんなに顔に出てるものなのか。
「父さんが許さない、とかだろ。俺、こないだ言ったじゃん。陽朔音が壁にぶつかるなら手伝うって。こうなると思った。」
「こうなるって…」
「本心は?実際やりたいのか、やりたくないのか。 」
そこまで分かっていたのか。さすが透星だ。
昔からそうだった。
透星は人の観察が得意らしく、人の気持ちを考えることができる、脅威の洞察力があった。
しかし、こればかりは、透星に迷惑をかけることは避けたい。
「一瞬、夢を見たんだ。」
言葉を選びながら言う。
「うん。」
「あの後、『もし、透星と一緒に活動が出来るなら』って。」
「うん。」
「でも俺は、そんなこと言える立場じゃなくて。 透星のいる世界とは違う道を進まなきゃ行けないことが明白で。」
自分でも言っていることが分からなくなってくる。
言葉が、選べなくなってくる。
「それはもうどうやっても変わらないことが分かっていて。だけど、」
だけど…。
「だけど、どんなに言い聞かせても透星の言葉が頭から離れなくて。
どうしても頭の隅で空想の世界を造っていて。
その世界に行くと、もう戻れない気がして。
…親が、怖くて。」
俺は、親が怖かったんだ、と言葉にしてみてようやく分かる。
俺は親が怖くて、怖さから逃げている。
“やりたいこと”に蓋をして逃げている。
透星はシーソーから立つと、俺の横に座って言った。
「じゃあさ、一旦立ち止まって、自分の今いる世界を振り返ってみて。」
「え、」
「俺が思うに、陽朔音の世界はさ、真っ暗だと思うんだよ。」
真っ暗だった。今も昔も。
「その世界に唯一輝いて見えるもの、あるでしょ。」
また、頭の隅に追いやった空想の世界の輝きが増す。
「その光はさ、真っ暗な世界に光の線を描いてるでしょ、真っ直ぐ。」
透星の言う通り、光は線を1本、まっすぐに描いている。
そして今、俺の足元を照らしている。
「光の線と地面が交わるところが、光を放つ世界に行くか、行かないかの分岐点。多分、陽朔音はそこに立ってその世界を見上げている。行くか、行かないかは、本人、陽朔音自身の心の声で決まるんだ。心の声、聴こえる?」
心の、声。
真っ暗な世界で耳を澄ます。
“怖い、出来ない”と大きな声が聴こえる。
怖いのだ。新しい世界に行くことが。
俺には、出来ない。ずっとこの真っ暗な世界に籠っていることしか出来ない。
この世界で怖さから逃げ続けることしか許されない。
夢の、世界でしかない。
俺は夢を見てはいけない。
自分の置かれた状況を見ろ。
何度も自分に言い聞かせる。
“もし、透星と一緒に活動ができるなら”、と心の声が、小さなか弱い声が聞こえた。
もし、透星と一緒に活動ができるなら。
「…やりたい」
気づいたら、そう口にしていた。
透星は微笑んで言った。
「じゃあ、やろうよ。出来ないかどうかなんて、まだ誰も分からないよ。俺だって分からない。だからさ、やってみようよ、一緒に。
人生の中で、1回くらい全力で体当たりしてみても、いいんじゃない?」
「どう、やって」
俺には親父とあの人がいるんだ。
「まずはやっぱり説得からだね。よし、行くよ。」
透星は突拍子もない事を言うと歩き出した。
「、どこ行くの…? 」
まさか2人で説得しに、なんて言わないよな。
「2人で説得しに。」
あ、言ったわ。
家にはもう、何年も行ってなかった。
高校から寮に入っていたからだ。
大学からはアパートを借りて一人暮らしをしている。
タクシーに乗り、電車に乗り、降りると中学までよく目にしていた光景が広がる。
久しぶりだ、と思う。
しばらく2人で歩くと俺の家が見えてきた。
門を開ける。
そのまま玄関に入ると靴があった。
おそらく親父のものだ。
帰ってくることがあるんだな。
「お邪魔します」
透星は小さな声でそう言った。
「親父は書斎にいると思う。」
そう言って透星を書斎まで案内する。
書斎に来る道道は何も見なかった。
見たくなかった。思い出したくなかった。
書斎の扉の前まで来る。
いよいよだ。いよいよ、親父と会う。
1度深呼吸をして、扉をノックした。
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