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その日綾子は帰りにスーパーに寄ってから帰宅した。


今日も昼休みに屋上で弁当を食べていたら寺崎光江が煙草を吸いに来た。最近光江は毎日屋上へ来る。そして煙草を吸う間綾子と少し会話をしてから去っていく。時間にしたらほんの数分~5分くらいだ。

人と関わらないようにしてきた綾子にとって大きな変化だ。

以前の綾子だったら不快に感じ光江とは距離を取っていただろう。しかし押しつけがましくなくそっけなくもない光江の程よい距離感は綾子のガードをあっさりとすり抜けてしまうから不思議だ。


今日は光江と『道の駅』の話になった。光江の親族が作った野菜はそこに並んでいるらしい。綾子は道の駅にはまだ行った事がなかったので少し興味が湧いた。

光江の話によれば新鮮野菜の他に美味しいジャムやスイーツも販売されているようだ。


(今度覗いてみようかな?)


そこで綾子はハッとした。どこかへ行ってみたいと思ったのは軽井沢へ来てから初めてだ。

綾子は自分の中の小さな変化に少し戸惑いを覚えていた。



その後先にシャワーを済ませてから綾子は簡単な夕食を作る。そしてニュースを見ながら食事をした後パソコンへ向かった。

途中紅茶が飲みたくなったのでデカフェの紅茶を入れる。するとなんだか無性にスイーツが欲しくなった。しかし今家に甘い物はない。


(道の駅のスイーツでも見てこようかな)


そう思いながら綾子はネットで道の駅を調べてみる。道の駅には野菜や名産品の販売ブースの他に蕎麦屋やオーガニック食堂もあるようだ。

ここへ移住してから半年、ほぼ別荘に引きこもり状態だった綾子はその蕎麦屋が気になった。蕎麦は綾子の好物だ。そこで次の休日に道の駅へ行ってみる事にした。それはここへ来て初めて綾子が何かをしたいと思った第一歩だった。


道の駅のホームページを閉じるとふと思い出したように【月夜のおしゃべり】にアクセスした。ログインするとメールが一通来ている。綾子は早速メールを開いた。


【初めまして、Godと申します。君の質問の答えを考えてみたんだけれど、そうだなぁ…生きるっていうのは息(breath)を繰り返す事かな?】


(息……?)


綾子は衝撃を受けていた。そんな回答は今までもらった事がない。興味を引かれた綾子はすぐに返信してみる。



【…………息…ですか……?】



その夜仁はパソコンへ向かい執筆作業に勤しんでいた。ちょうど筆が乗り始めた頃ノートパソコンからメール着信音が響いた。仁は椅子に座ったままスーッと左へ移動するとメールをチェックする。

そこには【月夜のおしゃべり】からのお知らせが届いていた。


(返事はドリンクコンビか? それともエンジェルか?)


気になった仁はログインしてみる。すると新規メールは『エンジェル』からだった。


「おっ、エンジェル様から漸く来ましたか」


仁はすぐにメールを開いた。しかしエンジェルからの返事はたったの一言だった。


【…………息…ですか……?】



「…………」


仁はそのメールにどう返そうかと悩む。そして数分悩んでから返事を送った。


【そう、ただ息を続ければいいんだ。そうしたら君は生きられる】


その返信を見て綾子は目頭が熱くなっていた。そして理人の死後両親に言われた言葉が蘇る。


「綾子は死なないで! しっかり生きて!」

「綾子、お前は生きなきゃ駄目だよ。理人の分もしっかり生きるんだ」


その時綾子の頬に涙が伝った。


(そっか、ただ息を繰り返せばいいのか……)


腑に落ちた綾子は涙を拭うと滲んだままの視界でパソコンの画面を見つめる。

そして一言だけ返信した。


【………ありが…とう…ございます……】


涙に滲む目で打ち込んだので文字が飛んでいた。



(ん? 文字が飛んでるな。おまけにたった一言か。これじゃあ会話になんねーな。まぁ、ありきたりの会話のドリンクコンビよりは面白そうだけどな)


そう思った仁はこのメールのやり取りを終わらせない為に慌てて返事を送った。


【息をするって簡単な事のようだけれど結構難しいよね?】


涙を拭き少し落ち着いた綾子は今自分が送ったメールが最後だと思っていたので返事が来て驚く。しかし今夜は誰かと話したい気分だったので綾子はすぐに返事を出した。


【はい、普通に生きるってしんどいです】


そのメールを見て仁はやはり『エンジェル』が何かを抱えているなと感じた。

そこでこう切り返す。


【『息子』っていう字はなんで『息』の字を使うか知ってますか?】


予想もしない質問が来たので綾子は戸惑う。そういえば考えた事もなかった。


【知らないです。ご存知ですか?】

【うん。まあ色々な説があるようだけれど僕が知っているのは『息』→『むす』→『草や苔が茂って繁殖する』→つまり『息』は生命を表す文字なんだ。で、そこに男性性を表す『子』をつけて『息子』になったって以前どこかの神社で聞きました】


綾子はその説明に興味を引かれた。こういう会話は嫌いではない。


【ありがとうございます。勉強になりました】

【いや本当かどうかは僕も調べていないので豆知識って事で。ところで読書と美術鑑賞がご趣味との事ですが一緒ですね。本はどんなものを読まれますか?】


仁はもう少し会話を続けたくてさらに質問をした。

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