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#普通
野々さくら
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ありあ
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障子の隙間から差し込む柔らかな光が、静まり返った広間を照らしていた。
誰も口を開こうとはしない。
長い沈黙のあと、坪野が静かに語り始める。
「新開村から命からがら逃げ出した私は
新開村出身という事実を隠し──」
穏やかな口調とは裏腹に、その瞳には消えることのない憎悪が宿っていた。
「誰の力も借りず一人で生きてきました」
銚子は黙ったまま耳を傾ける。
坪野は遠い昔を思い出すように目を閉じた。
「それからはこの国に対する復讐に生きる日々でした」
その一言が部屋の空気を重くする。
「20歳になるまで、政治、経済、歴史、医学、心理学
ありとあらゆる知識を頭に叩き込みました
すべては、この国へ復讐するため・・・」
誰も言葉を返せない。
坪野は静かに続けた。
「そして、私は日本創世の神イザナギと
イザナミの存在に辿り着きました」
その名に、部屋の空気がわずかに張り詰める。
「すなわち修理固成という答えへ辿り着いたのです
その理想を実現するため、天縁教団を立ち上げました」
龍河が腕を組みながら眉をひそめる。
「復讐のために、なぜ宗教団体を?」
坪野は小さく笑みを浮かべた。
「修理固成には、人々の中にある
『胎内回帰の願望』が必要だと思ったからです」
白縫銚子が首を傾げる。
「胎内回帰?」
信愛も思い出したように口を開く。
「確か、母親の胎内にいた頃の、温かくて安心
できる状態へ戻りたいという願望でしたよね?」
坪野は笑い声を漏らした。
「ふふ・・まるで児童書の説明ですね」
信愛は戸惑ったように目を瞬かせる。
「え?違うんですか?」
坪野は静かに首を横へ振る。
「母親の胎内へ戻りたいというのは
あくまで表面的な説明です」
彼は一人ひとりを見渡した。
「本質は全く違いますよ」
静寂が流れる。
「胎内回帰とは、今の人生を終わらせたい
という願望にほかなりません」
その言葉に、部屋の空気が凍りついた。
「つまり──自殺願望なんですよ」
信愛は思わず息をのむ。
「自殺願望・・・」
坪野は頷く。
「宗教というものは、孤独な者、人生に疲れた者
救いを求め彷徨う者が自然と集まる場所です
彼らは皆、程度の差こそあれ、人生を終わらせたい
という願望、胎内回帰の願望を胸の奥に抱えています」
龍河が問い返す。
「そんな人たちばかりを集めて何になるんだ?」
坪野は迷いなく答えた。
「修理固成とは、不完全な国や地域を一度壊し
新しく創り固め直すことです
つまり、今の日本は、不完全な国であることを
イザナギとイザナミへ示さなければならない
人間がどれほど愚かで、醜い存在なのか
それをを知らしめる必要があるのです」
彼の瞳には狂気とも信念ともつかない光が宿っていた。
「だから私は、人生に絶望し、終わらせたいと
願う人間を集める必要がありました」
少し間を置き、淡々と言い切る。
「つまり、署名活動なのです」
焔垂が思わず聞き返す。
「署名活動?」
坪野は静かに頷いた。
「新しい法案を可決させたい時に
人は署名を集めるでしょう?
天縁教団は、修理固成という新たな世界を
実現するための署名を集める場所だったのです」
茜は驚きを隠せない。
「そんな理由で天縁教団を?」
「ですが──」
坪野は静かに言葉を継ぐ。
「教団だけでは足りませんでした・・・」
全員が彼を見る。
「そのために学校、病院、ホテル・・・
私は様々な施設の運営にも手を伸ばしました」
龍河が怪訝そうな顔をする。
「教団が胎内回帰の願望を集める
場所だったってのまでは理解できた
だが、学校や病院まで必要だった理由は?」
坪野は静かに微笑んだ。
「それらもまた、教団と同じ──」
彼は一拍置いて、ゆっくりと言葉を落とした。
「胎内回帰の願望を集めるためですよ」
その一言に、誰もすぐには返事をすることができなかった。
部屋には重苦しい沈黙だけが広がり、坪野の描く巨大な計画の輪郭が、少しずつ明らかになっていった。
コメント
1件
ああ、第293話、読み終えました……。坪野さんの過去の重みが、今回の静かな会話の場にじわじわと沁みてきましたね。特に「胎内回帰」を単なる願望としてではなく、♡♡♡願望として捉え直した解釈が、心にずしりと来ました。教団や施設が「署名集めの場」だったという核心に触れた瞬間、背筋が冷たくなりました。キャラたちの問いと坪野の答えの応酬が、一つひとつ丁寧で、すごく好きです。×××さんの描く世界の深さに、また引き込まれました。