テラーノベル
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坪野は静かに手を組み、穏やかな口調のまま話を続けた。
「学校や病院、ホテルという場所は
実に様々な人間が行き交います」
その言葉に、誰も口を挟まない。
「学校では人間関係のもつれ
いじめによって命を絶つ者が現れる
つまり、胎内回帰の願望を抱く人間が
生まれやすい場所なのです」
一同は息を呑む。
「病院もまた、生と死が交差する場所
ホテルは、絶えず人が入れ替わる場所です」
坪野は静かに視線を巡らせた。
「すべて、修理固成のために必要な施設でした」
茜は言葉を失う。
「まじでか・・・」
朝陽が身を乗り出した。
「じゃあ、野球部で起きたい暴力事件も?」
坪野は何の迷いもなく頷く。
「あれも、我々が焚き付けたんです」
その場の空気が一気に冷え込む。
「部員同士の競争心を煽り上下関係をより明確にする
そうすることで、支配する者と支配される者という
この国の縮図が野球部の中に出来上がるのです」
龍河は苦々しい表情で呟いた。
「野球部の中に、擬似的な日本を創り上げたってことか
まるでスタンフォード監獄実験みたいな構造だな」
◇ ◇ ◇
スタンフォード監獄実験とは
1971年にアメリカのスタンフォード
大学で行われた心理学実験の事。
学生たちを「看守役」と「囚人役」に分け
模擬的な刑務所で生活させたところ
次第に看守役が囚人役に対して
高圧的な態度を取るようになり
囚人役にも強いストレスが見られたという。
実験は当初予定されていた2週間を待たず
わずか6日で中止された。
この実験は「人は与えられた
役割や環境によって行動を変える」
という例として広く知られる一方
実験方法や研究者の関与などについて
現在では多くの批判や再検討もされている
◇ ◇ ◇
龍河の例えに坪野は小さく微笑む。
「ええ、簡単に言えばその通りです
人は役割を与えられると、その役割に
合わせて行動してしまう生き物ですから
野球部の部員たちは、実によくその
役割を演じてくれましたよ」
龍河は思い出したように尋ねる。
「ナワバリ様は?」
坪野は静かに答えた。
「毎年、信者の中から特に強い胎内回帰の願望を
持つ者を厳選し、新開村へ連れて来ます
そして、イザナギとイザナミの荒魂を
顕現させるための器として礎になるのです」
信愛は小さく目を見開いた。
「む、無作為じゃなかったんだ・・・」
坪野はゆっくりと頷く。
「霊貴冥孤からはそう聞かされていたのでしょう
まぁ、彼女には無作為だと伝えていましたからね」
坪野は小さく笑う。
真実を知っていたのは
ごく一部の人間だけでしたからね」
信愛はさらに問いかける。
「でも、どうして礎にする必要があるんですか?」
坪野は淡々と答えた。
「そうすることで、胎内回帰の願望は
さらに強固なものになるからです
強い絶望は、より深い絶望によって
完成するのですよ。私がそうだったようにね」
その一言が、誰の胸にも重く響いた。
やがて坪野は視線を遠くへ向ける。
「しかし、1996年。ある問題が発生しました」
焔垂が眉をひそめる。
「96年?」
龍河の脳裏に、一つの番組名が浮かぶ。
「まさか・・・未解決事件調査隊?」
坪野は静かに頷いた。
「そう・・・あの番組です」
部屋は水を打ったように静まり返る。
坪野は続けた。
「胎内回帰の願望を集めるには
有無言わさない知名度が必要でした」
「そこで我々は様々な施設の管理運営と並行し
テレビ番組のスポンサーも務めていたのです」
坪野は視線を銚子に移す。
「そんな中、御船愛子、つまり、白縫銚子様が
我々の失踪事件への関与を生放送で口にしてしまった」
銚子は何も言わず、ただ俯いた。
「さらにはナワバリ様と儀式のことまで・・・」
坪野は苦笑にも似た表情を浮かべる。
「あれは予想外の事態でした・・・
我々は千里眼の能力を甘く見ていたのです
あれほど正確に言い当てられる
とは思っていませんでしたからね」
龍河は静かに頷く。
「なるほど・・・」
坪野は再び全員を見渡した。
「ですが、修理固成を成し遂げるには
胎内回帰の願望はまだ必要でした
計画の土台が完成する前に、生放送で
事件への関与を報じられてしまった
だからこそ、我々は非常手段に出たのです」
その声色には一切の迷いがなかった。
「我々の世間での立場を利用し、白縫銚子様を
『インチキ霊媒師』として扱うよう
マスコミへ圧力をかけました
そうしなければ、修理固成は実現
できなくなってしまいますから」
龍河は腕を組む。
「世間での立場ってことは・・・
天縁教団は社会的信頼がある
コングロマリットだという認識のことか?」
坪野は静かに頷いた。
「ええ。その通りです・・マスコミは
我々の思惑通りに動いてくれました」
その言葉を聞いた銚子は、長年抱えてきた疑問がようやく一本の線で繋がるのを感じていた。
「あの千里眼騒動にそんな裏事情があったなんて」
誰も返事をしない。
ただ、部屋には坪野が明かす真実だけが、静かに積み重なっていった。
コメント
1件
×××さん、今回もどっしり重くて繊細な展開でしたね…。坪野が「強い絶望は、より深い絶望によって完成する」って言うところ、すごく刺さりました。銚子さんの真実を知った時の静けさも、胸がギュッとなる。この物語の闇の丁寧さ、本当に尊敬してます。次もちゃんと受け取らせてください🌙
#普通
野々さくら
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ありあ
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