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るるくらげ
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御子柴聖 十七歳
あたしと楓は、血塗れの蓮の手元をよく見つめた。
蓮が掴んでいたのは長い舌を出し、目を見開いている大蛇と思わしき頭の毛を鷲掴みにしていたのだ。
沼御前は首だけの大蛇を見て、驚きながら恐る恐る尋ねる。
「ま、まさかお前の持っているのは…」
「ん?あーこれ?君の探していたモノだよ。遠くて確認出来ないか、これなら確認出来るでしょ」
ブンッ。
そう言って、蓮は冷たい表情のまま沼御前に向かって大蛇の首を投げた。
ズシャッ。
投げられた大蛇の首は大蛇の前に落ち、死んだ大蛇を見て沼御前は体を震わせる。
「お嬢、遅くなりました。怪我は?」
さっきまで冷たい表情をしていた蓮は、あたしの顔を見て表情が緩んで行く。
ホワイトタイガーに跨って戻って来た隼人が、楓の耳元で何か話し出す。
「おい、楓。あの人、急に雰囲気変わり過ぎじゃねーか?さっきまで、殺伐としたオーラを放ってたよな?」
「アイツは姉ちゃんが居ないと、あんな感じなんだよ。ニコニコしてんのも、姉ちゃんの前だけだし…」
「聖限定って事かぁ?茂みから出て来た時、マジでビビったわ」
楓と隼人が蓮の事を見ながら、二人でこそこそ話してるみたいだけど…、何話してんだろ。
「あたしは大丈夫。蓮の方は…、見るからに大変だったみたいね」
返り血の量を見たら、こっちより蓮の方に妖怪が集まっていたのが分かる。
「お前…。どれだけの数を相手にして来たんだよ…、その返り血の量、やべーぞ」
楓は蓮の姿を見ながら、顔色がどんどん青ざめたて行く。
「ザッと、二十体ぐらいですかね?一気に飛びかかってくれたので、ぐに片付けられました」
「に、二十!?はぁ…?化け物並だろ、お前」
蓮の言葉を聞いた楓は頭を抑えながら、後ろに一歩下がる。
蓮は涼しい顔をして、一人で大勢の妖を相手してたって克也さんが言っていたな。
元々、本城家の中でも戦闘力がかなり高かったらしい。
そんな人があたしに支えているって、本当に凄い事なんだと実感する。
蓮はジャージの上着を脱ぎ捨てながら、嫌な顔をした。
「はぁ、ベトベトだよ…」
「大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ちょっと、失礼します」
そう言って蓮は式神札を取り出し、式神を召喚した。
ボンボンッ!!!
白い煙の中から現れたのは、可愛らしい出目金達で、蓮の体に水を纏わせて汚れを洗い落として行く。
「さてっと…、残りの沼御前を滅しますか」
蓮は妖刀を構え直すと、楓も隼人も戦闘モードに切替わる。
「沼御前はあたしの式神術で、かなり弱らせられたと思う。一気に片付けて、捕まった人達を回収しよう」
「「「了解!!!」」」
あたしの言葉を聞いた楓と蓮は、沼御前に向かって走って行き、隼人は沼御前を飛び越えて人質の元に向かう。
「貴様ら…。許さんぞ!!!私の、私の仲間達を殺した事をおおおおお!!!」
ズシャッ、ズシャッ!!!
ザパァァァァァアンッ!!!
沼御前は体に突き刺さった針を自力で抜き、湖の水を操り楓と蓮を攻撃しようとしていた。
「良いのかな?そんなに自分の周りに、水を集めてさ」
「何を言って…、っ!!?」
蓮の召喚していた出目金や、金魚達が水の周りに集まおり、沼御前は目を丸くさせて動きを止める。
沼御前に向かって走りながら、蓮は式神札を取り出して金魚達を召喚し、沼御前の周りに配置させていた。
あたしが針鼠達を配置させたように、蓮も金魚達を移動させていたのだ。
「式神術 “金魚鉢“」
ザァァァァアッ!!!
蓮が呟いた瞬間、沼御前の周りに集まっていた金魚達が水吸い上げ、一斉に金魚達が口から水を吐き出し、沼御前の体を水で覆った。
水で金魚鉢が形成され、中に沼御前が閉じ込められ、息が出来ないのか沼御前は悶え苦しんでいる。
「ゴポポポポッ!!!」
今が沼御前を滅するのに良いタイミングだ。
そう思いながら、梵字が書かれた札を何枚か取り出し、沼御前の周りに一斉に飛ばす。
バババババッ!!!
「行くぞ、アン!!!」
「バウッ!!!」
シュシュシュシュッ!!!
アンに跨っていた楓は、金魚鉢の上に飛び降り、着地したと同時に両手を素早く動かした。
「音爆螺旋」
ジャキジャキジャキンッ!!!
楓が呪文を呟いた瞬間、光の鎖が現れ、沼御前の体を拘束する。
「姉ちゃん!!!」
楓の呼び声を聞き、あたしは一枚残しておいた札を人差し指と中指で挟み、九字を切りながら呪文を唱えた。
シュッ!!!
「急急如律令」
「やめろおおおおおおおおお!!!」
呪文を唱えると、飛ばしていたおいた札が沼御前の顔全体に張り付き、眩い光を放ちながら沼御前の頭が爆発した。
バンッ!!!
ブシャアアアアアアッ!!!
金魚鉢の水が沼御前の血で溢れ返り、湖に垂れ落ち赤く染めて行く。
「やったか?」
楓がそう言いながら、アンと共にあたしの所に戻って来た。
本来なら滅せられた妖は、灰上になって存在自体が無くなり、無に還る。
なのに、沼御前の体は消滅を始めていないのはおかしい。
「え?」
バキッ!!!
何かが壊れる音が耳に届き、足に力が入らなくなり地面に尻餅を付いた。
ドサッ!!!
嫌な予感がし恐る恐る自分の足を見ると、何故か思いっきり義足が破壊されていた。
何で!?義足が!?
どうやって、義足が壊された?
沼御前は金魚鉢の中に居て、怪しい動きは何もしていなかった。
粉々にされた義足をじっくり見ていると、黒い靄みたいなものがまとわり憑いているのが分かった。
この黒い靄が原因?
「お嬢!!!足は平気ですか?」
「姉ちゃん!?」
蓮と楓は慌ててあたしに近寄り、二人掛かりでゆっくり抱き起こしてくれた。
「何でか分からないけど、義足が壊された」
「「え!?」」
楓と蓮が声を合わさりながら、二人の視線は破壊された義足に向けられる。
「どうやって、義足が壊されたんだ?沼御前は死んだよな?」
「恐らくだけど…。沼御前はまだ生きている。と言うか、消滅出来てない」
「もしかして、沼御前が飲んだ謎の液体が原因で?」
「液体?」
あたしと楓の会話を聞いていた蓮が、不思議な顔をしながら尋ねて来た。
「蓮がここに来る前に、沼御前は楓達に深傷を負わされていたの。だけど、謎の液体を飲んでから、体が巨大化したり、傷が治り始めたの」
あたしの説明を聞いた蓮は、少し考えてから口を開く。
「成る程、それなら自分よりも、格が上の妖怪の血液を飲んだ可能性がありますね」
「妖怪同士が血を飲み合うって、聞いた事ねーけど」
「団体になって動いている妖達の中では、血を分け与えるのは当たり前になってます」
「マジかよ…。姉ちゃん足は平気なの?」
そう言って、楓は義足が無くなった右脚を見つめる。
「足は大丈夫だけど…。沼御前が血を飲んだ時、背中の刺青が痛くなったの。この間、倒れた時みたいな痛み」
「それって…、八岐大蛇との距離が近くなったから、痛くなった時だよね?まさか、沼御前が飲んだ血は、八岐大蛇の血だった…?」
「そう言う事になりますね。義足を破壊したのも、沼御前の念力によるものだと考えられます。八岐大蛇の血を飲んだのなら尚更、壱級の妖怪と同じ力を得る事が出来ます。義足にまとわりついている黒い靄、念力を使った古跡ですよ」
蓮の言葉を聞きながら、楓はあ粉々になった義足を見つめる。
不安げな表情を浮かべ、視線を送ってくる蓮と目が合う。
蓮が何を言いたいのか分かる、この場からあたしを離れさせたいと。
あたしの事を人一倍、気に掛けているから何も言わないようにしている事が分かる。
蓮に言わせないようにしているのは、あたし本人んあんだよね。
「聖!!!大丈夫か!!?」
「聖ちゃん!!」
上から声がしたので上を向くと、ホワイトタイガーに跨っている隼人と大介が戻って来ていた。
「聖ちゃん!?その足どうしたの!?」
「大丈夫、義足が壊れただけだから」
「義足?」
そうだった…、大介は知らないんだったな。
八岐大蛇に食べえられましたって、言う訳にはいかないし…。
適当に事故に遭って…、とかで良いか。
「事故でなくしちゃったんだよね」
「そうだったんだ…。ごめんね?そんな話しさせちゃって…」
「いや、そんな気を使わなくて大丈夫」
カタカタカタカタカタ!!!
大介と話してると、金魚鉢がカタカタと揺れ、今にも沼御前が出て来ようとしている。
「隼人、行方不明者の人達は?戻って来たって事は、無事に解放出来たんだね?」
そう言いながら隼人に視線を向けると、ニヤッと笑いながら隼人は答えた。
「俺と大介の式神を使って、刑事の方に渡して来たから問題ない」
「ならオッケー。それなら、周りに気を使わなくて良いね」
パリーンッ!!!
金魚鉢が破壊され、爆発させた頭も復活した沼御前が、鬼の形相をしてあたし達を睨み付ける。
「斬り落とした尻尾も再生してやがる。長期戦になりそうだなぁ、これは」
「なんか、さっき見た時よりも体が大きくなってません!?沼御前!!!」
「おい、大介。戻って来たんだから、仕事しろよ」
「えー、ちょっとは休憩さてよ…」
大介は文句を言いながらも槍を構え、その様子を見ていた隼人は笑いながら拳に巻かれた包帯を強く巻き直す。
「よくも、頭を吹き飛ばしてくれたなあああああ!!!?楽には死なせないぞ、苦痛を感じながら死ねえええええ!!!!」
ブンッ!!!
沼御前は叫び狂いながら、体全体を大きく揺らし六本の尻尾を、勢いよくあたし達の方に振り回して来た。
「姉ちゃん、ちょっと触るぞ」
「えっ?わっ!!!」
スッ。
楓があたしの体を軽々と抱き上げ、尻尾の攻撃を避けた。
ドゴォォォーンッ!!!
叩きつけられた地面に大きな穴が開き、さっきよりも威力が上がっているのが見て分かる。
「ちょっ!!楓!!あたし重いから!!」
「は?姉ちゃん軽すぎ。落としそうになるから、しっかり掴まって」
「う、うん」
あたしは楓の首にしがみ付き、落ちないように体を密着させる。
「それよりどうする?沼御前」
楓の言葉を聞いて沼御前に目を向け、沼御前の全体の動きを観察して行く。
シュシュシュシュッ!!!
長い髪の毛に、あたしの義足を壊した念力の黒い靄が纏っているのが見えた。
キィィィンッ!!!
大介が長い髪の毛を槍で弾くと、金属同士がぶつかったような音が響く。
「ちょっ!!!髪の毛、硬すぎるんですけど!?え、何これ!!!」
「邪魔くせぇなっ!!!おい、大介!!!背後から来てんぞ、退け!!!」
「は!?ぐへっ!!!?」
隼人は大介の背中に蹴りを入れ、向かって来た長い髪の毛を地面に叩き付けた。
ドゴォォォーンッ!!!
「チッ」
叩き付けられた髪が細い束状になって、隼人の頭上から降り注がれる。
シュシュシュシュッ!!!
「隼人!!!危な…っ」
バンバンバンッ!!!
隼人に当たる直前で、大介の声を掻き消す発砲音が鳴り響き、髪の毛は弾き飛ばされ方向を変えさせられた。
「撃ったのは、アンタだったか先生」
そう言いながら隼人が視線を向けた先には、妖銃の銃口を向けている蓮の姿があった。
「田中っち!!!」
「二人共、目の前の敵に集中しろ。気を抜いたら、手足持ってかれるぞ」
「ヒィッ!!?手足が無くなるのは困るっ!!!」
「前田、お前ふざけてるのか…?」
大介のオーバーリアクションを見て、蓮は思わず溜め息を吐きながら頭を抱えてしまう。
蓮の言う通り、今の沼御前の髪の毛は破壊力のある刃だ。
あの髪の毛をどうにかしないと、本体の沼御前の元に行けない。
「沼御前が髪を振り回してんのは、札を飛ばさせない為だよな?沼御前が、俺達を近付けさせないって事もあるだろうけど」
楓の言葉を聞いて、思わず驚いてしまった。
あたしが知ってる楓は、小さい可愛い男の子で、戦ってる姿なんて想像出来なかった。
だけど楓も成長していて、あたしの事を軽々と抱き上げられて、冷静に状況を把握している。
思っていた以上に、楓は場数を踏んで来たようだ。
「蓮一人だったらさ、強引にでも沼御前の元まで行けるだろうけど…。隼人と大介の二人に怪我させないように、動いてる。姉ちゃんも片足じゃ、上手く動けないだろ?」
「どうしたものかな…」
「我の力が必要か」
楓と話していると、頭の中に誰かが語りかけて来た。
この声、どこかで聞いた事がある。
「フッ、久方 過ぎて、我の存在を忘れたのか?」
「もしかして、阿修羅王?」
心の中で呟くと、腰に下げていたポーチの中が暖かくなっている事に気が付く。
ポーチの中には赤札を入れた箱だけしかない。
まさか、本当に阿修羅王があたしに語り掛けて来ているの?
「我の声は、お前にしかきこえていない。赤札の中から、主人の意識に語り掛けている。あの妖怪、今のままだと殺す事も出来んぞ」
「阿修羅王の言う通りなんだよね、あの髪の毛が邪魔で…」
「主人よ、我の力を使うが良いぞ。それも存分にな」
「良いの?」
あたしがそう言うと、阿修羅王の軽く笑った声が耳に届く。
「阿修羅王がそんな事言ってくれるとは、思ってもみなかった。本当に良いの?」
「我の主人はお前だ。なら、力を使うのも主人の自由だ」
「そっか…。じゃあ阿修羅王。あたしに力を貸して」
「御意」
あたしは心の中で阿修羅王と会話を終わらせ、楓を見上げながら口を開く。
「楓」
「?、どうしたの、姉ちゃん」
「沼御前の気を皆んなで引いて欲しい。あたしに考えがある」
そう言うと、楓は一瞬考え込んだが、すぐに式神札を取り出して何かを召喚する。
ボンボンッ!!!
「分かった。コク、姉ちゃんを守れ」
「ワンッ!!!」
式神を召喚した黒色の大型犬のコクの背中に、あたしを下ろして跨らせてくれた。
「それで、合図はどうする?」
「あたしの式神のシロとクロが、沼御前の真上に現れたら離れて欲しい。多分、巻き込まれちゃうと思うから」
「了解」
楓はアンに跨り、沼御前に向かって行った。
楓の背中を見送った後、ポーチから赤い札を取り出し阿修羅王の絵を見つめる。
護法全神阿修羅王の文字が書かれ、阿修羅王の周りには炎までも描かれていた。
「…、行こうか?アン」
「ワンッ!!!」
あたしの命令を聞いたアンは、目的地まで走り出した。